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樹里ちゃん、なぎさの引越しを手伝う

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 居候をしていた親友の松下なぎさが、ようやく新居を決め、いよいよ引っ越す事になりました。


 あまりにも嬉しかったので、左京は飛び跳ねました。


「そ、そ、そんな事ねえよ!」


 心の内をズバッと見抜いた某もんたさんのような地の文に動揺しながらも切れる左京です。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 樹里と長女の瑠里、次女の冴里は笑顔全開で応じました。


 三女の乃里も笑顔全開です。


「ごめんね、左京さん。迷惑ばかりかけて」


 なぎさが涙ぐんで詫びたので、キュンとしてしまうエロ左京です。


「うるさい!」


 図星を突かれた左京は、理不尽に地の文に切れました。


「ささやかですが、これは今までお世話になったお礼です」


 なぎさの夫の栄一郎が、札束を左京に手渡しました。


「札束じゃないですよ。商品券です」


 早合点した左京に告げる栄一郎です。


「早合点したのはお前だろう!」


 責任転嫁が得意な地の文にまたしても切れる左京です。


「そんな事をしないでください、栄一郎さん」


 樹里は笑顔全開で商品券が入った封筒を栄一郎に返しました。


 仰天して固まってしまう左京です。


 そのまま金券ショップで換金しようと思っていたからです。


「やめろ!」


 更に図星を突いた地の文に血の涙を流して切れる左京です。


「そうはいきません。一度お渡ししたものをはい、そうですかと受け取る事はできません」


 生真面目が服を着ているような性格の栄一郎は樹里に封筒を戻しました。


「それに、左京さんが泣きそうな顔をしているから、受け取ってよ、樹里」


 妙なところで目敏めざといなぎさが言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じましたが、左京は引きつり全開です。


「荷物は以上ですか?」


 そこへ引越し業者の男性が顔を出しました。


「はい、もう終わりです。お疲れ様でした」


 栄一郎が言い、頭を下げました。


「じゃあ、行きましょうか」


 栄一郎がなぎさに声をかけました。


「うん、栄一郎」


 なぎさは眠ってしまった愛息の海流わたるを抱き、外に出ました。二人は引越し業者のトラックに乗り込みました。


「じゃあ、俺逹も行くか」


 左京は瑠里と冴里と手をつなぎ、外に出ました。


「そうなんですか」


 樹里は元気いっぱいにはしゃいでいる乃里を抱いて、左京の車に向かいました。後部座席はチャイルドシート二つとベビーシート一つで、いっぱいになっています。


 左京は瑠里と冴里を両端に備え付けたチャイルドシートに乗せ、樹里は真ん中のベビーシートに乃里を乗せました。


「よし、出るぞ」


 左京が車をスタートさせると、瑠里と冴里は大はしゃぎです。乃里も意味はわかっていないのでしょうが、喜んでいます。


 なぎさの新居は樹里の家からそれ程離れておらず、瑠里と冴里が通っている保育所からも遠くありません。


(ちょっと近過ぎる気がする)


 不安になる左京です。早速樹里に教えようと思う地の文です。


「余計な事をするな!」


 嫌な汗を大量に掻きながら地の文に切れる左京です。


 これくらい近ければ、不倫もしやすいと思う地の文です。


「違う! 家族ぐるみの付き合いだよ!」


 左京は、ある女優の記者会見を参考にして反論しました。


「それは不倫の釈明会見だろ! 俺は違う!」


 この期に及んで見苦しい言い訳をする左京です。


 何か言っていますが、無視する地の文です。


 そんな事をしているうちに、なぎさと栄一郎の新居に到着しました。


 トラックはすでに荷物を降ろしていました。


「手伝うよ」


 元積荷泥棒の左京が言いました。


「積荷泥棒を捕まえたんだよ!」


 地の文の曖昧な記憶に突っ込む左京です。


 瑠里と冴里は、ようやく目を覚ました海流と庭で遊んでいます。


 乃里もそばでベビーカーに乗り、嬉しそうに手を動かしています。


「遅くなりました」


 そこへ、なぎさの従妹のもみじとその夫の京太郎が来ました。


「そんなところに隠れていないで、早く来なさいよ、お母様」


 何と驚いた事に、上から目線作家の大村美紗も来ていました。


 もみじと京太郎が説得して、無理やり連れてきたのです。


「よかったわね、良い新居が見つかって」


 美紗は一人でいた栄一郎に声をかけました。


「はい、お陰様で。義叔母様にもお手数をおかけして、大変申し訳ありませんでした」


 栄一郎に深々と頭を下げられた美紗は照れ臭そうに笑って、


「いいのよ。貴方は私の数少ない身内なのだから」


 そんな二人を見て、もみじは涙ぐみました。栄一郎はもう一度頭を下げてから、荷物を運びました。


 京太郎もタオルを鉢巻代わりにして大きな荷物を運んでいます。


 左京はアラフィフなので、小さな荷物しか運べないのは内緒です。


「内緒にしとけ! それに俺はまだアラフォーだ!」


 涙目で地の文に切れる左京です。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 樹里と瑠里と冴里は笑顔全開で応じました。乃里も笑顔全開です。


 しばらくして、荷物を運び終わると、庭に用意されたテーブルに飲み物が出されました。


「本日はありがとうございました。この後、お寿司の出前を頼みましたので、お召し上がりください」


 栄一郎がタオルで額の汗を拭いながら言いました。


 大活躍の京太郎はともかく、ろくに荷物を運ばなかった左京には、ガリを食べさせておけばいいと思う地の文です。


「ううう……」


 真実なので、反論できない左京は大きく項垂れました。


 お昼になって、出前のお寿司が届き、一同はリヴィングルームに入りました。


 なぎさと顔を合わせないようにしている美紗は、部屋の隅にいましたが、


「義叔母様、どうぞこちらへ」


 栄一郎が手を引き、部屋の中央に仮置きされたソファに腰を下ろしました。


「あれえ、ここに置いといたお寿司、誰が持って行ったの?」


 なぎさが現れて尋ねました。栄一郎はハッとして、


「ああ、義叔母様に出しましたよ、なぎささん」


 するとなぎさは、


「ええ? それ、左京さん用だよ」


 妙に慌てて言いました。


「は?」


 栄一郎と左京は同時にポカンとしました。


「ひいいい!」


 それとほぼ同時に、美紗が叫びました。そして、そのままソファに倒れ込みました。


「義叔母様!」


「お母様!」


「お義母さん!」


 栄一郎ともみじと京太郎が一斉に美紗に駆け寄りました。決して、加計寄りではありません。


「あーあ、栄一郎ったら、左京さんに食べさせようと思ってたわさび十倍増しのお寿司を叔母様に食べさせちゃって、酷いんだ」


 なぎさが恐ろしい事をアメリカ人もびっくりする程肩をすくめて言ったので、


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じましたが、左京は引きつり全開です。


 


 めでたし、めでたし。

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