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樹里ちゃん、立候補を打診される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日も樹里は、三女の乃里をベビーカーに乗せ、笑顔全開で出勤です。


「では、行って参りますね、左京さん、瑠里、冴里」


 樹里が一番最初に名前を言ってくれたので、至上の喜びを感じ、涙ぐむ左京です。


 でも、家での序列はゴールデンレトリバーのルーサより下なのは内緒です。


「内緒にしとけー!」


 すぐに真相を暴露してしまう週刊誌のような地の文に切れる左京です。


「さいとうさんによろしくね、パパ」


 突如として意味深長な発言をする長女の瑠里です。


「な、何の事かな、瑠里? 斎藤さんは今日は休みだよ」


 嫌な汗をしこたま掻きながら、言い訳にならない事を言う浮気男です。


「浮気なんかしてねえよ!」


 涙ぐんで切れる左京です。でも、手を繋いだのは事実です。


「繋いでねえよ!」


 今度は血の涙を流して切れる左京です。


 では、映画を一緒に観たのは認めるのですね?


「観てねえよ!」


 息を切らせて地の文に切れ続ける左京です。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 樹里と瑠里、そして次女の冴里は笑顔全開で応じました。


「樹里様と瑠里様と冴里様と乃里様にはご機嫌麗しく」


 しばらくぶりに型通りのつまらない挨拶をできた昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「ううう……」


 いきなり辻斬りまがいの暴言をかました地の文のせいで、ガックリと項垂れる眼鏡男達です。


「いつもありがとうございます」


 樹里が笑顔全開でお礼を言ったので、たちまち復活した眼鏡男達です。


「では、ご主人、奥様の事は我々にお任せください」


 いつもと違うフレーズを発した眼鏡男です。


「そうなんですか」


 アドリブが利かない左京は、樹里の口癖で応じるという情けない対応をしました。


「うるせえ! アドリブって何だよ!?」


 理不尽に地の文にいちゃもんをつける左京です。


「パパ、なにしてるの? はやくしないと、いっちゃうよ!」


「いっちゃうよ!」


 瑠里と冴里が仁王立ちで腕組みをし、ほっぺを膨らませて言いました。


「わかったよお、瑠里、冴里」


 鼻の下を伸ばしたおじさんはデレデレして応じました。


「おじさんて言うな!」


 四十路の左京は事実を述べた地の文に切れました。


「行ってらっしゃい、左京さん」


 そこへタンクトップにショートパンツ姿の松下なぎさが出てきました。


「すぐ戻りますので」


 何故か顔を赤らめて言う左京です。なぎさに好意があるという事ですか?


「違うよ!」


 図星を突かれて焦りながら否定する左京です。


 実は、どうしてもなぎさが名字を覚えてくれないので、名前で呼んでくださいと頼んでおきながら、実際に名前で呼ばれるとドキドキしてしまう「中学生か」というノリの左京なのです。


「やめてくれ!」


 真実しか語らない地の文に血の涙を流して懇願する左京です。


「なぎさ様にはご機嫌麗しく」


 色っぽい格好のなぎさにドキッとしながら挨拶する眼鏡男達です。


「ああ、おはよう」


 ニコッとして挨拶をしたなぎさに顔を赤らめる変態集団です。


「変態ではありません!」


 見たままを描写した地の文に抗議する眼鏡男達です。


「で、誰だっけ?」


 なぎさが真顔で尋ねたので、一瞬石化した眼鏡男達です。


 


 それでも、樹里は何事もなく五反田邸に到着しました。


「では樹里様、お帰りの時にまた」


 いろいろとあった眼鏡男達は、満身創痍の身体を引きずるようにして去って行きました。


「樹里さーん!」


 そこへ仮面夫婦である目黒弥生が走ってきました。


「仮面夫婦じゃありません!」


 最近、ジャイアントパンダの赤ちゃんのニュースで全く人気がなくなったレッサーパンダの母親の方がよかったですか?


「どっちも嫌よ!」


 百歩譲った提案をした地の文に切れる了見が狭い弥生です。


「どこが譲歩してるのよ!」


 いつもより絡んでくれる地の文に嬉しそうに切れる弥生です。


「そんな事ないわよ!」


 そこまで切れて、ハッと我に返ると、樹里はすでに邸に入って乃里に授乳をすませ、着替えて庭掃除を始めていました。


「樹里さん、私もやりますう!」


 慌てて駆け出す弥生です。


 


 二人が庭掃除をしていると、黒塗りの高級車が庭に入って来て、玄関の車寄せに停まりました。


 いつもの上から目線作家のばあさんとは格が違う高級車です。


「また誰かが私をおとしめているような気がするけど、幻聴なのよ!」


 必死に病いと戦う推理作家の大村美紗です。


 樹里と弥生はすぐに庭掃除を切り上げ、玄関に走りました。


「いらっしゃいませ」


 二人は息一つ乱さずに玄関の前で頭を下げました。


「お初にお目にかかります、由自ゆうじ主民しゅみん党の幹事長の平屋ひらや俊二です」


 五反田氏の愛娘の麻耶の家庭教師である有栖川倫子より年上だと思われる白髪頭の老人が言いました。


「どうしてそこで私が比較対象になるのよ!」


 まだ三十路だと主張する年齢詐称疑惑がある倫子が自分の部屋で地の文に切れました。


「そうなんですか。ジョイさんは元気ですか?」


 樹里は笑顔全開でボケをかましました。


「そのユウジじゃねえよ!」


 平屋幹事長はこめかみに血管を浮き上がらせて切れました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じましたが、相手が誰なのかわかっていません。


(樹里ちゃん、大物感が溢れてる……)


 横で見ていた弥生は引きつり全開です。


 


 平屋幹事長は応接間に通され、樹里は紅茶を淹れて出しました。


「お気遣いなく」


 平屋幹事長は会釈をして応じました。


「旦那様はすでにお出かけになりましたが?」


 樹里が平屋幹事長の名刺を見てから告げると、


「今日は五反田さんに会いに来たのではないのです。貴女に会いに来ました」


 平屋幹事長は微笑んで告げました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(何だろう? まさか?)


 ドアの向こうで聞き耳を立てている弥生です。


「実はこれはトップシークレットなのですが、衆議院を本年中に解散するのです」


 平屋幹事長は声を低くして言いました。


「そうなんですか」


 樹里も声を低くしました。


(あれ、聞こえないぞ)


 小声で話し始めたので、ドア越しだと聞こえなくなった弥生が焦っていると、


「あいた!」


 いきなりドアが開き、額を打ち付けてしまいました。


「くうう……」


 痛みに耐え切れず、うずくまる弥生です。


「よいお返事をお待ちしていますよ」


 平屋幹事長はそんな弥生に気づく事なく、玄関へと向かいました。


「ありがとうございました」


 樹里は平屋幹事長を送り出してから、


「弥生さん、どうしたのですか?」


 ようやく弥生の異変に気づきました。


「だ、大丈夫です、樹里さん。それより、あの方、与党の幹事長さんですよね? 一体何のお話に見えたのですか?」


 弥生はジンジン痛む額を撫でながら立ち上がって尋ねました。


「立候補して欲しいと言われました」


 笑顔全開で言う樹里です。


「えええ!? 樹里さん、遂に政界進出なんですか!?」


 弥生の声の大きさに、倫子と住み込み医師の黒川真理沙が出てきました。


「違いますよ」


 また笑顔全開で否定する樹里です。


「はあ?」


 ほぼ同時に言う倫子と真理沙と弥生です。


「衆議院を解散すると、幹事長さんがお忙しくなるので、保育所の保護者会の会長を続けられないから、代わりに立候補して欲しいと言われました」


 笑顔全開で衝撃の事実を語る樹里です。


「そうなんですか」


 倫子と真理沙と弥生は異口同音に樹里の口癖で応じました。

 

 


 めでたし、めでたし。

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