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樹里ちゃん、高名な作家の授賞式に出席する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、樹里は、上から目線作家の大村美紗から、「大村美紗賞」の授賞式に招待されました。


 五反田氏の邸のメイドで五反田氏のお気に入りの樹里に取り入って、五反田氏と更に親密になろうと目論むバアさんの悪巧みにまんまと乗せられてしまった樹里です。


(また私の悪口を言っている人がいるような気がするけど、違うの! 幻聴なのよ!)


 美紗は必死になって「幻聴」と戦いました。


 一方、樹里の不甲斐ない夫である杉下左京の事務所を訪問していた内田京太郎は、妻のもみじの母親である美紗となぎさの関係をもみじともども憂えていましたが、美紗の護衛を左京に依頼した時、偶然その場に居合わせたなぎさに全部聞かれてしまいました。


「叔母様ったら、また私に気を使って知らせてくれなかったのね。今は暇だからお手伝いもできるって伝えて、京君」


 ずっと昔から知り合いだったのかというくらいの馴れ馴れしさで京太郎に告げるなぎさです。


「そうなんですか」


 京太郎は顔を引きつらせて樹里の口癖で応じました。そして、なぎさが樹里の家のリヴィングに戻った後、経緯をもみじに連絡したのです。


「どうしたらいいですかね?」


 京太郎は、一番相談しても仕方がない左京に尋ねました。


「うるせえ!」


 本当の事を言っただけの地の文に切れる左京です。


 切れてはみたものの、良い方法が思いつかないやっぱり無能な左京です。


「くはあ!」


 図星の真ん中を貫かれたので、血を吐いて悶絶する左京です。


「とにかく、栄一郎さんが帰って来たら、相談してみます。京太郎さんは何も気にしないでください」


 左京は落ち込む京太郎を慰めて送り出しました。


「いろいろ大変ですね、所長」


 左京が稼ぎがないので、無給で働いてくれている斎藤真琴が溜息交じりに言いました。


「ううう……」


 追い討ちをかけた地の文のせいで四つん這いになって苦しむ左京です。




 そして、その日の夜、なぎさから連絡を受けた夫の栄一郎は、血相を変えていつもより早く帰って来ました。


 樹里が帰宅して、一同で夕食を済ませた後、左京は樹里になぎさを頼み、栄一郎と共に全然仕事が来なくて閑古鳥すら鳴かないと元グウタラ所員の加藤ありさに言われた事務所に行きました。


「やめろー!」


 地の文に血の涙を流して抗議する左京です。


「とにかく、授賞式の当日は、僕も休暇をとって、なぎささんを連れ出します。ですから、左京さんは樹里さんを乗せて、会場に向かってください」


「わかりました。いつもより早く起きて、早く出かけます」


 左京と栄一郎は作戦の成功を祈り、握手をしました。


 


 もみじは意を決して美紗に電話で事情を説明しました。


 普段なら、激昂する美紗ですが、相手が京太郎なので、怒鳴ったりはしませんでした。


「栄一郎君が何とかしてくれるそうだから、大丈夫よ」


 もみじが言いましたが、美紗は不安でした。


(あの子は、私の小説に出てくる怪盗ブルー・ウィンドより神出鬼没よ。油断できないわ)


 一計を案じる美紗です。


 


 時は流れ、授賞式の前日になりました。


「パパとねる!」


 長女の瑠里が突然そんな事を言い出したので、


「ぱぱとねる!」


 お姉ちゃんに対抗意識がある次女の冴里も当然のように言いました。


「では、お願いしますね、左京さん」


 樹里は笑顔全開で瑠里と冴里を左京に託しました。


「わかった!」


 娘達と一緒に寝られる事に舞い上がってしまった左京は、次の日の事をすっかり忘れ、瑠里と冴里がおねだりするので、いつもより多めに絵本を読みました。


(ああ、俺は何て幸せなんだ!)


 バカはどこまでいってもバカだと強く思う地の文です。


 案の定、左京は寝過ごし、いつもより早く出かける計画は水泡に帰しました。


「面目ない、栄一郎君」


 左京は栄一郎に土下座をしました。


「あー。いやいや、気にしないでください、左京さん。僕がなぎささんを連れ出せばいいのですから」


 栄一郎は苦笑いをして左京を宥めました。


「あれ? ママは?」


 キッチンに行くと、樹里がおらず、瑠里と冴里が自分で後片付けをしていました。


「パパがおねぼうさんだから、なぎたんとでかけたよ」


 瑠里が笑顔全開で言ったので、


「そうなんですか」


 真っ青な顔で応じる左京と栄一郎です。


 左京は思いました。


(そう言えば、樹里には何も説明していなかった……)


 樹里はなぎさを授賞式に連れて行ってはいけない事を知らず、彼女と一緒に出かけてしまったのです。


 元を正せば、「あの子」と言って、樹里になぎさの事をきちんと伝えなかった美紗が悪いと思う地の文です。


 


 一方、美紗は大枚をはたいて顔認証システムを導入し、なぎさを排除する手筈を整えていました。


(これで完璧よ。あの子は侵入できないわ)


 勝ち誇って高笑いする美紗を見て、頭が痛くなるもみじです。


「招待状をいただきました、御徒町樹里です」


 樹里は左京の車で現れました。


「お待ちしておりました」


 警備の人が型通りの挨拶をすると、


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里は謝罪しました。某防衛大臣と違って潔すぎると思う地の文です。


「そういう意味ではないのですが」


 冷や汗を掻いて焦る警備員さんです。美紗から、


「御徒町樹里さんにはくれぐれも失礼のないように」


 きつく言われているからです。


「そうなんですか」


 それでも、樹里が笑顔全開で応じたので、ホッとする警備員さんです。


 樹里の乗る車は賓客用の駐車スペースに案内されました。


「ごゆっくりどうぞ」


 警備員さんはにこやかに持ち場に戻りました。


「よく寝たなあ。朝早いんだもん。もう着いたの?」


 後部座席で寝ていたなぎさは、無意識のうちに顔認証システムをくぐり抜けてしまいました。


「はい、着きましたよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 それからしばらくして、会場は大混乱となりました。


 


 めでたし、めでたし。

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