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樹里ちゃん、大村美紗賞の授賞式に招待される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は、すでに樹里は三女の乃里をベビーカーに乗せ、五反田邸に到着していました。


「では樹里様、お帰りの時にまた」


 辛うじて登場できた昭和眼鏡男と愉快な仲間達は敬礼して立ち去りました。


「ありがとうございました」


 樹里は深々とお辞儀をしてから、ベビーカーを押して邸の門をくぐりました。


「おはようございます、樹里さん」


 ロリコンの警備員の皆さんが挨拶しました。


「違います!」


 実はもう一人のメイドの目黒弥生に飽きたので、乃里を狙っている警備員さんが地の文に切れました。


「それでは犯罪でしょう!?」


 地の文の度が過ぎたモーニングジョークに激ギレする警備員さん達です。


「樹里さーん!」


 そこへ、警備員さん達に相手にされなくなったレッサーパンダの母親が走ってきました。


「レッサーパンダの母親じゃないわよ! あれは風太で、私の息子は颯太!」


 しばらくぶりのパンダボケをした地の文に切れる弥生です。


 ジャイアントパンダの赤ちゃん誕生で人気を奪われたので、落ち込んでいると思って励ましたつもりの地の文です。


「だから、パンダから離れて!」


 涙ぐんで更に地の文に切れる弥生です。


「そろそろ二人目が欲しいんですけどね」


 弥生はベビーカーで眠っている乃里をつねりながら言いました。


「つ、つ、つねってないわよ!」


 いきなり乳児虐待疑惑をかけられた弥生は、酷く動揺しながら地の文に切れました。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず笑顔全開で応じました。


「きょうだいがいた方が、子供は嬉しいと思いますよ」


 樹里は笑顔全開でまともな事を言いました。


 でも、夫婦仲が冷え切った目黒家では、二人目は望むべくもないと断言する地の文です。


「冷え切ってないわよ! 祐樹が忙しくて、なかなかそういう訳にいかないだけよ!」


 仮面夫婦を演じている弥生が地の文に切れました。


 哀れな弥生は、夫の祐樹がすでに外で別の女性と深い関係になっているのを知りません。


「やめてー!」


 妄想を暴走させる地の文に耳を塞いで猛抗議する弥生です。


 明日にでも、○ーチューブに動画をアップしようと目論む弥生です。


「そんな事しません!」


 泣きながら完全否定する弥生です。あ、○コ○コ動画ですか?


「アップ先の問題じゃないわよ!」


 ボケを連発する地の文にフラつきながら切れる弥生です。


「はっ!」


 我に返ると、すでに樹里は玄関を入り、乃里に授乳をすませて着替えをし、掃除を始めていました。


「樹里さーん、今日は大村先生がお見えなんですう!」


 泣きながら邸に走る弥生です。


 


 樹里が紅茶を淹れて応接間に入っていくと、予想通り、上から目線のおばさんがいました。


(幻聴には反応してはダメなのよ!)


 高名な作家の大村美紗は、必死に堪えながら樹里を見ました。


「ご機嫌よう、樹里さん。今日は、招待状をお持ちしましたのよ」


 ソファで仰け反ったままで、樹里に封書を突き出す美紗です。


「そうなんですか」


 樹里はそれをうやうやしく受け取りました。


「私の名前がついた文学賞の授賞式に出席していただきたいのよ。貴女には、娘も姪もお世話になっていますからね」


 それでも仰け反ったままの美紗です。


(まだその賞は続いてたのか)


 ドアの外で聞き耳を立てていた元泥棒が思いました。


「やめてよ!」


 涙ぐんで地の文に懇願する弥生です。何年か前なら可愛かったのですが、もう只のおばさんなので、何も感じない地の文です。


「おばさんじゃないわよ! まだ私は二十代よ!」


 誰もいない方角に向かって叫ぶ弥生を見て、


「大丈夫かしら?」


 心配そうに呟く本当のおばさんです。


「うるさいわよ!」


 五反田氏の愛娘の麻耶の家庭教師の有栖川倫子は、正しい事を言ったはずの地の文に切れました。


(あの二人、大丈夫かしら?)


 来年には三十路を迎える黒川真理沙は思いました。


「一度地獄を見に行きますか?」


 目が笑っていない笑顔で地の文に詰め寄る真理沙です。


 地の文は身体中の水分をいろいろなところから出し切ってしまいました。


「そうなんですか」


 長いインターバルを経て、笑顔全開で応じる樹里です。


「でも、あの子には内緒よ。絶ェッ対に喋ってはダメですからね!」


 仰け反った姿勢で樹里に詰め寄る美紗です。


「はい」


 樹里は「あの子」が誰なのかわからないまま、返事をしました。


「では、お待ちしていますわ」


 美紗は薄気味悪い笑顔で応じると、応接間を出て行きました。


「ありがとうございました」


 樹里は玄関で美紗を見送り、後片付けをしました。


「お疲れさまでした、樹里さん」


 弥生は苦笑いをして樹里に言いました。


「大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 その頃、美紗の娘のもみじは、


「えええ!? なぎさお姉ちゃんに話しちゃったの!?」


 スマホで夫の内田京太郎と話していました。


「ごめん、もみじ。杉下左京さんの事務所に行った時に、左京さんに話していたら、給湯室になぎささんが偶然いてさ……」


 京太郎が悪くないのはわかっているもみじなので、


「京太郎さんは悪くないわよ。でも、このままだとまた母となぎさお姉ちゃんの仲が険悪になってしまうわね」


「そうだね。どうしよう? 日程を変更する?」


 もみじはしばらく思案してから、


「それは無理だから、左京さんと栄一郎君に協力してもらいましょう」


 何かを思いついたようです。


 果たしてどうなるのか、ワクワクが止まらない地の文です。

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