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樹里ちゃん、なぎさの引っ越し先を見にゆく(後編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里は、現在樹里の家に居候をしている親友の松下なぎさとその夫の栄一郎と愛息の海流わたるの新居を決めるため、なぎさの叔母である上から目線作家の大村美紗の決めた新築の一軒家を見学に行きました。


 仲介した不動産屋は、見るからに悪徳そうで、純粋な樹里と何も考えていないなぎさが騙されてしまいそうで心配な地の文です。


「悪徳じゃねえよ!」


 地の文の核心を突いた指摘に若干動揺しながら切れる不動産屋です。


「私、松下なぎさ様の叔母様である大村美紗先生には大変お世話になっております、アクト不動産の堀田栗男です」


 その不動産屋は墓穴を掘るような社名と名前の書かれた名刺をなぎさと樹里に手渡しました。


「墓穴なんか掘ってねえよ!」


 鋭い指摘をした地の文にまたしても激ギレするボッタクリオです。


「堀田だよ!」


 どこかの芸人のようなキレ芸を披露する堀田です。


「はっ!」


 我に返ると、樹里となぎさは勝手に玄関を開けて中に入っていました。


「あああ、お待ちください、松下様!」


 慌てて追いかける堀田です。中に入ると、そこは広いロビーになっており、脇にはウォークインクローゼットもあります。


「すごい! これなら、子供をたくさん産めるね、樹里!」


 感動したなぎさが大声で言いました。


 感動ポイントが微妙に一般人とずれているなぎさに苦笑いする堀田ですが、


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「玄関は吹き抜けになっておりまして、自然光をたくさん取り込む事ができる構造になっております」


 早速揉み手をしながら告げる堀田です。


「センザンコウ? そんなのがたくさん家の中に入ってきたら、大変だよ。ここ、やめようよ、樹里」


 怯えながら樹里にすがりつくなぎさです。


 ちなみに、センザンコウとは、ペガサス野獣類に属している極めて稀な種です。


 でも、決して流星拳は放ちません。


「センザンコウじゃないです、自然光です!」


 嫌な汗を大量に掻きながら訂正する堀田です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず樹里は笑顔全開です。


 それよりも、何故なぎさが「センザンコウ」を知っているのか気になる地の文です。


「自然光なら自然光ってはっきりってくれればいいのにね」


 ムッとしながら樹里に囁くなぎさです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(最後まで冷静でいられるだろうか?)


 自分の感情を抑制できるか不安な堀田です。


 気を取り直して、ロビーの奥にあるリヴィングルームに二人を案内しました。


「ここはキッチンと一体になっておりまして、合わせて三十畳の広さがあります」


 誇らしそうに告げる堀田ですが、


「こじんまりしていますね」


 大富豪の大豪邸のメイドである樹里にあっさりと否定されてしまいました。


(うおおおお!)


 心の中で絶叫して何とか理性を保とうとする堀田です。


「これなら、樹里の家にずっと住む方がいいね」


 なぎさが更に追い討ちをかけます。


「そうなんですか」


 樹里も悪気のない笑顔全開で応じました。


(何なんだ、この人達は!?)


 臨界点に達してしまいそうになる堀田です。


(ならば!)


 この家の目玉ともいうべき浴室に案内しました。


「奥行きのあるバスルームです。ゆったりとした浴槽には、ご家族全員で入れますよ。気泡も出せますから、健康面のサポートもできます」


 ドヤ顔で説明する堀田でしたが、


「狭いなあ。これじゃあ、泳げないじゃん」


 なぎさも、五反田邸の大浴場に入った事があり、そこで個人メドレーをした事があるのです。


 ですから、家族で入れるくらいでは、全然驚きません。


「うおおおおお!」


 遂に我慢できなくなり、大声で叫んでしまう堀田です。


 そして、浴室から飛び出すと、そのまま家から出て行ってしまいました。


「何よ、無責任な人ね。ちゃんと全部見せてくれないと、決められないよ」


 なぎさは口を尖らせて文句を言いました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


 貴女が最後まで説明させないような言動をしたのですよと言いたい地の文です。


 そして、案内人不在のまま、樹里となぎさは寝室、子供部屋、二階の書斎、トイレ、半地下のガレージを見て回りました。


「ここならいいかもって思ったんだけど、あの不動産屋さんだとちょっと心配だから、やめとこうと思うんだ。樹里はどう思う?」


 なぎさはやれやれという風に肩をすくめて樹里に尋ねました。


「もう少し、探してみましょう、なぎささん」


 樹里は笑顔全開でアドバイスしました。


「そうだね。叔母様には悪いけど、あの不動産屋さんだといろいろとミスをしそうだから、ダメだよね」


 なぎさは強烈なダメ出しをして、今回の見学を終えました。


 そして、メールで従妹のもみじに連絡をしました。


「家はいいんだけど、不動産屋さんがおかしい人なので、やめにします」


 それを見た美紗は卒倒しました。


「もうなぎさには絶対に家を紹介しません!」


 その後、硬く誓う美紗でした。


 何を今更と思う地の文です。

 


 めでたし、めでたし。

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