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樹里ちゃん、しばらくぶりに上から目線作家に話をされる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


「では、行って参りますね、左京さん」


 樹里は笑顔全開で告げました。


 今日は、五反田邸に朝早くから賓客が来るので、いつもより早く出勤する樹里です。


「行ってらっしゃい」


 不甲斐ない夫の杉下左京は他に誰もいないので、早速、よこしまな事を企んでいます。


「よ、邪な事なんか企んでねえよ!」


 行ってらっしゃいのチュウをしようとしていた左京は、図星をガッツリ突いてきた地の文に切れました。


「左京さん」


 樹里が目を瞑って唇を突き出してきました。


「おおお!」


 左京はその仕草のあまりの可愛さに動揺してしまいました。


「気をつけてな、樹里」


 小鳥のようなキスをして、顔を赤らめる左京です。


「はい」


 樹里は笑顔全開で応じ、玄関を出ました。


「おはよう、松下さん」


 するとそこへ、Tシャツ短パン姿の松下なぎさが現れました。


 左京は天井にぶつかりそうなくらい飛び上がって驚きました。


「お、おはようございます、なぎささん。俺は松下ではなくて、杉下ですよ」


 樹里とのキスを見られたと思い、非常に焦りながらも名字を覚えてくれないなぎさに訂正する左京です。


「あれ、そうなの? 松下って聞き覚えがあるんだけど、違うんだ」


 なぎさはムチムチの太腿をポリポリ掻きながら言いました。


 それを見て、欲情してしまう変態左京です。


「欲情してねえよ!」


 噴き出しそうになった鼻血を必死になって止めながら地の文に切れる左京です。


「朝から仲良しだね。樹里が羨ましいなあ」


 なぎさはニコッとして背を向けると、スタスタと居間に行ってしまいました。


(やっぱり見られてた……)


 左京はがっくりと項垂れました。


(それにしても、なぎささん、もう少し服装に気をつけて欲しいよな)


 左京は思いました。あれでは、襲ってくれと言っているようなものだと。


「思ってねえよ!」


 深層心理をすっかり見抜いた地の文に泣きべそを掻きながら切れる左京です。


 


「樹里様にはご機嫌麗しく」


 いつもより早い出勤の樹里に、家の前ではなく、JR水道橋駅の前でばったり出会い、焦って挨拶する昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「おはようございます」


 樹里は笑顔全開で応じました。眼鏡男は自分達の動揺を何とか取り繕おうと思い、


「今日はいつにも増してお美しいですね。何か好い事がありましたか、樹里様?」


 突然そんな事を言ったので、


「何もありませんよ」


 樹里が妙にソワソワして、改札口に向かってしまったので、


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で応じてしまいました。



 そして、樹里はいつものように何事もなく、五反田邸に到着しました。


「では樹里様、お帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼して立ち去りました。


「ありがとうございました」


 樹里は深々とお辞儀をして言いました。


「樹里さん、おはようございます」


 いつもより早い出勤の目黒弥生は、生欠伸なまあくびを噛み殺しながら挨拶しました。


「おはようございます、弥生さん」


 今日は地の文も樹里も名前でボケなかったので、何となく拍子抜けしている弥生です。


 そして、弥生のパンチラが見られないので、舌打ちをする警備員さん達です。


「そんな事はありません!」


 異口同音に地の文に抗議する弥生と警備員さん達です。


「はっ!」


 我に返ると、樹里はすでに玄関の扉を開き、中に入っていました。


「待ってください、樹里さん!」


 慌てて走り出す元泥棒です。


「やめて!」


 突然過去を暴露する地の文に涙目で切れる弥生です。


 


 樹里は今日は三女の乃里をなぎさにお願いして一人で来たので、着替えるとすぐに掃除を始めました。


「おはよう、樹里さん。今日はいつもより早いんだね」


 そこへ五反田氏がやってきました。


「おはようございます、旦那様。本日はお客様がお見えとの事で、いつもより早く出勤しました」


「ああ、そうか、今日だったね。いや、しまったな。これはサッサと出かけた方が良さそうだな」


 何故か苦笑いして言う五反田氏です。


「そうなんですか?」


 樹里は不思議そうに首を傾げて応じました。


「じゃ、行ってくるよ。後の事は、目黒さんと二人でよろしく頼むよ」


 五反田氏は逃げるように玄関を出て行きました。


「行ってらっしゃいませ」


 樹里と弥生は車寄せで五反田氏を見送りました。


「旦那様、いつになく慌てていらしたような気がしますけど、何かあったんですか?」


 弥生がつまらない質問をしました。


「うるさいわね!」


 思った事を正直に口にしただけの地の文に切れる弥生です。


「わかりません」


 樹里は笑顔全開で応じました。ついイラッとしてしまう弥生です。


(しばらくぶりに樹里ちゃんにイラッとしてしまったわ)


 弥生は引きつり笑い全開で応じました。


 


 樹里と弥生が一階の掃除を始めようとした時、インターフォンが鳴りました。


「お客様がお見えですね」


 何故か憂鬱そうな顔になる弥生です。世の中で一番苦手な上から目線作家が来たからです。


「余計な事を言わないでよね!」


 ムッとして地の文に釘を刺す弥生です。


「いらっしゃいませ、大村様」


 樹里は笑顔全開で玄関の扉を開いて言いました。


「ご機嫌よう、樹里さん、恵比寿さん」


 すでに新作を何年も書いていない名ばかり作家の大村美紗はいつもより仰け反った状態で応じました。


(また誰かが悪口を言ったような気がするけど、反応してはダメなのよ!)


 美紗は必死になってこらえました。


「私は目黒です、大村先生。一駅違いますよ」


 弥生は目一杯の皮肉を込めて言いました。


「大して違わないでしょ」


 しかし、美紗は全くそれには屈せず、あっさりそう言いました。


 弥生は陰で歯ぎしりしました。


 そして、美紗はいつものように応接間に通されました。


「今日はね、ある事で話があるのよ」


 美紗はソファにふんぞり返って言いました。


「そうなんですか」


 樹里は紅茶を出しながら応じました。


「今、貴女のお宅にあの子達が居候していますでしょ?」


 美紗は相変わらずなぎさの名前を言いません。頑固なバアさんです。


(また聞こえたわ! でも、堪えるのよ!)


 必死に「幻聴」と戦う美紗です。


「なぎささんですね?」


 樹里は確認の意味で尋ねました。すると美紗は、


「その名前は口にしないでちょうだい! 虫酸が走るのよ!」


 鬼の形相で怒鳴りました。


「申し訳ありません」


 樹里は深々と頭を下げました。


「貴女にはとても迷惑をかけていると思うので、私が不動産屋に口を利いて、好物件を見繕ってもらいました。すぐにでも出て行かせますから、ごめんなさいね」


 とてもお詫びをしているとは思えない態勢で話す美紗です。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


「お優しいのですね、大村様は」


 樹里が言うと、それがすごく嬉しかったのか、美紗は照れ笑いをし、


「そんな事はないのよ。出来の悪い姪で、私は翻弄されてばかりだから」


 殊勝な事を言っているのですが、態勢は相変わらず仰け反ったままです。


「叔母様、ありがとう! 家を見つけてくれたんですって? 六ちゃんから聞いたよ」


 そこへいきなりなぎさが入ってきました。


「なぎさ、なぎさ、なぎさー!」


 美紗はピョコンと立ち上がると絶叫し、なぎさから逃げるように応接間を飛び出して行きました。


「叔母様ったら、照れ臭いからって、逃げたりして。子供みたいだね」


 肩を竦めて言うなぎさです。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。


 


 めでたし、めでたし。

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