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樹里ちゃん、またしても左京を殺し屋に狙われる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 自称陰陽師の安部あんべ晴明はるあきに呪詛をかけられた樹里ですが、無意識のうちにこれを撃退し、安部は陰陽師を辞めて田舎に帰ってしまいました。


「やはり、呪術などに頼ったのが間違いでしたね」


 世界犯罪者連盟の野矢亜のやあごうは自嘲気味に呟きました。


「御徒町樹里は何故か強力な運勢の下にあるようです。彼女を抹殺するのは難しいようですね」


 野矢亜はもっと手っ取り早い方法を思いつきました。


「夫の杉下左京は只のダメ人間のようですから、すぐに始末できるでしょう。そして、御徒町樹里に何よりのダメージになり、彼女の運勢を大きく狂わせる切欠きっかけになるでしょう」


 野矢亜はニヤリとして言いました。


 しかし、それは大きな間違いです。 


 左京がこの世からいなくなれば、樹里は更に強運になると思う地の文です。


 ついつい野矢亜を応援したくなってしまう地の文です。


 


「では、行って参りますね、左京さん、瑠里、冴里」


 樹里は三女の乃里をベビースリングで抱き、笑顔全開で告げました。


「行ってらっしゃい」


 左京は引きつり全開で応じました。


(以前、お義母さんの由里さんが『御徒町の名を残したい』って言ってたけど、すでに誰も御徒町の名を名乗っていないじゃねえか)


 樹里の旧姓が実は「赤川」だったのを結婚七年目にしてようやく知ったヘボ夫の左京です。


「うるせえ!」


 事実をありのままに述べた地の文に理不尽に切れる左京です。


 でも、樹里自身も長い間自分の名字を「御徒町」だと思っていたのも事実です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「いってらっしゃい、ママ」


 そんな事は全く知らない長女の瑠里は笑顔全開で応じました。


「いってらっしゃい、ママ」


 三歳になった冴里は、言葉をはっきりと発音できるようになりました。


「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」


 そこへ、毎度毎度役に立たない昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。


「樹里様、我らの組織の構成員の中には、呪術に詳しい者がおります。その者を親衛隊に編入して、樹里様を守る事に致しました。こちらがその提案書です」


 眼鏡男が結構な厚さのあるA4サイズの冊子を樹里に手渡しました。


「そうなんですか」


 それを笑顔全開で受け取る樹里です。


 眼鏡男達の組織は、近い将来、共謀罪で逮捕されると思う地の文です。


「我々はテロ集団ではありません!」


 地の文のモーニングジョークに烈火の如く怒る眼鏡男達です。


 人間は図星を突かれると怒るという典型だと思う地の文です。


「断じて違います!」


 もう一度切れながら、ハッと我に返る眼鏡男達です。


 思った通り、樹里はすでにJR水道橋駅に向かって歩いており、瑠里と冴里も左京と一緒に保育所に向かっており、更には、ゴールデンレトリバーのルーサもそっぽを向いていました。


「くはあ……」


 悶絶しながら四つん這いになってしまう眼鏡男達です。


(何故いつも同じ事を繰り返してしまうのだ、我らは?)


 哲学的な悩みを抱き始める眼鏡男達です。


 それは貴方達がそういう役回りだからだと思う地の文です。


 


 眼鏡男達が樹里に追いつき、電車に乗り込んだ頃、左京は瑠里と冴里を保育所に送り、戻り始めていました。


 今回も登場できない保育所の男性職員の皆さんです。


「今日は依頼人が来るんだった」


 左京はスマホの時計を見ると、舗道を全力疾走しました。


(真琴ちゃんは休みなんだよな)


 そんな時に限って、頼みの綱の所員の斎藤真琴はライブがあるので休みです。


「お笑い芸人じゃないですから」


 地の文が何かを言おうとしたのを察知して、先に釘を刺してくる真琴です。


 ちょっと悔しい地の文です。


「え?」


 左京は舗道の端で、うずくまって苦しんでいる女性を見かけました。


 でも、貧乳だったので、そのまま行こうとしました。


「そんな事ねえよ!」


 左京は先回りし過ぎの地の文に切れました。


「どうしましたか?」


 左京は女性の声をかけました。


「ちょっと眩暈めまいがして……」


 女性は振り返らないで応じました。


「立てますか? 病院までお連れしましょう」


 左京は女性に肩を貸して立ち上がらせました。


「ありがとうございます、杉下左京さん」


「え?」


 突然旧姓で呼ばれたので、仰天する左京です。


「旧姓じゃねえよ!」


 生まれてからずっと同じ姓名の左京は地の文に切れました。


「ぐふっ」


 左京は腹部を鋭利な刃物らしきもので刺されました。


「あの世で江川紹治さんが待ってるよ」


 そう言って顔を見せたのは、全然知らない人でした。


「違うでしょ! 私よ! 片山祐子!」


 その女は地の文に切れながら叫びました。


 ああ、以前、殺し屋の江川紹治と左京を暗殺しようとして失敗した貧乳さんでしたね。


「貧乳は関係ないでしょ!」


 身体的特徴を指摘した地の文に切れる片山です。


「ええと、誰だっけ?」


 地の文はボケでしたが、左京はガチで忘れていました。


「片山ァ祐子だよ!」


 またしても、某女芸人と同じイントネーションで自己紹介する片山です。


「すまん、思い出せない」


 左京はそこまで言うと、バタッと舗道にうつ伏せに倒れてしまいました。


「私をバカにした報い、受けなさい。苦しんで死ね!」


 片山は左京の身体の下から流れ出る赤い液体を見て言い放つと、駆け去ってしまいました。


 周囲にいた人達が、左京に止めを刺すために集まりました。


「違います!」


 共犯者に仕立て上げようとした地の文に切れる通行人の皆さんです。


「大丈夫ですか?」


 一番近くにいた老人が声をかけると、


「大丈夫です。これ、血じゃないですから」


 左京は顔を上げて、蒼ざめている老人に苦笑いをして応じました。


(由里さん、すごいな。『明日、お腹を刺されるって出たから、何か仕込んでおきなさい』って言われたんだよな)


 左京は、占い師である由里に警告されていたので、血糊をケチャップで作って厚目の綿と一緒に腹の周りに巻いておいたのでした。


(樹里をつけ狙っていた連中が、樹里は無理だと判断して俺を狙うって言われたんだが、もしかして、元々は俺が狙われていたって事だよな)


 左京は血糊で染まった舗道を後で掃除させられて、こっぴどく自治会の人達に説教されましたとさ。


 


 めでたし、めでたし。


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