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樹里ちゃん、呪いをかけられる(前編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 さて、樹里は世界犯罪者連盟、通称世良◯則さんのメンバーである野矢亜のやあ号に命を狙われました。


「いろいろとボケをかまさないでもらえますか?」


 地の文の複合ボケに冷静にツッコミを入れる野矢亜綱です。


 全力で切れてもらいたかったのに、ごく普通の返しをされてしまうと、持病のしゃくが起こってしまう地の文です。


「御徒町樹里さんの警護をあのトボけた連中がしているうちならば、何も問題はなかったのですが、ドロント一味が本格的にガードに付くようになると、事情が変わってきますね」


 野矢亜は自分の部屋に直属の部下十名を集めて作戦会議を開いていました。


「ならば、ドロント達がどうする事もできない殺し屋に依頼するのは如何でしょうか?」


 揉み手をしながら、スキンヘッドの男が言いました。


 どうやら、あの某テレビ局の指紋がなくなるほどの高速揉み手をしていたプロデューサーと親戚のようです。


「そんな奴、知らん!」


 名推理を展開したまるで某眼鏡坊主のような地の文に切れる男です。


平六へいろく、それは誰です?」


 野矢亜は目を細めて平六と呼ばれた男を見ました。平六はヘラヘラ笑いながら、


「陰陽師の安部あんべ晴明はるあきです」


「陰陽師、ですって?」


 オカルトの類いが何より嫌いな野矢亜は露骨に嫌な顔をしました。


「はい。今までにこなした殺しの依頼は千を超えます。世界中から依頼が殺到している凄腕の男です」


 平六はヘラヘラ笑いながら揉み手をして言いました。


「それほどの男ならば、依頼をしてもすぐに対応してもらえないのではないですか?」


 野矢亜は平六に詰め寄って尋ねました。平六は一瞬ビクッとしましたが、


「それは大丈夫です。安部は私の親友ですから、最優先で引き受けてくれるでしょう」


 胸を張って告げました。


「ほお」


 野矢亜はまた目を細めて平六を見ました。信じていないようです。


「では、今すぐに依頼をしますので、お待ちください」


 平六はスーツの内ポケットからスマホを取り出して、通話を開始しましたが、


「おかけになった電話番号には、お客様のお電話はおつなぎできません」


 着信拒否されてました。嫌な汗が滝のように顔を流れ落ちる平六です。


「親友に着信拒否されているのですか」


 野矢亜の目が更に細くなりました。


「あ、いや、そのですね……」


 気が動転して、言い訳もできない状態に陥る平六です。


「連れて行きなさい」


 スマホを取り上げた野矢亜が指を鳴らすと、ドヤドヤと黒尽くめの屈強な男達三人が入ってきて、


「うわ、お待ちください、野矢亜様、もう一度かけてみますので!」


 抵抗する平六を羽交い締めにして、部屋の外に引きずり出しました。


「世界犯罪者連盟にホラ吹きは不要です」


 バタンと閉じられたドアを見たままで、野矢亜が言いました。


 そこにいた他の部下達は全員左京も顔負けの引きつり顏になりました。


 野矢亜は平六から取り上げたスマホを差し出して、


「安部晴明に連絡を入れ、御徒町樹里の呪殺を依頼しなさい」


「ははっ!」


 九人の部下達は直立不動になって応じました。


 大変な事になりました。すぐに樹里に知らせようと思う地の文です。


「貴方も呪殺してもらいたいのですか?」


 野矢亜がフッと笑って言いました。すぐに手のひらを返して、世界犯罪者連盟に忠誠を誓う地の文です。


 


 そんな事になっているとは、クマムシの足の先ほども思っていない樹里は、いつものように三女の乃里をベビースリングで抱き、出勤です。


「では、行って参りますね」


 樹里が笑顔全開で告げると、


「樹里、俺が車で送るよ」


 どこかの知らない人が言いました。


「夫の杉下左京だよ!」


 地の文の会心のボケに全力で切れてくれる左京です。


「定期券があるから、大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開であっさりと拒否しました。


「いや、そういう事じゃなくてね、危ないからさ」


 顔を引きつらせながらも、何とか樹里を説得しようと試みる左京ですが、


「車の方が危険です。渋滞に巻き込まれたら、狙い撃ちされますよ」


 そこへ突然、五反田邸の住み込み医師である黒川真理沙が現れて言いました。


「え?」


 真理沙に惚れている左京は顔を赤らめて彼女を見ました。


「やめろ!」


 心情を事細かにバラしてしまう地の文に血の涙を流して切れる左京です。


「おはようございます、真理沙さん」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で挨拶しました。


「おはよう、まりたん!」


「おはよ、まりたん!」


 長女の瑠里と次女の冴里も笑顔全開で挨拶しました。


「おはようございます」


 真理沙は品のある笑顔で応じました。そして、


「樹里さんの警護は私達がしますので、ご主人は瑠里ちゃんと冴里ちゃんをお願いします」


「そうなんですか」


 真理沙に言われた左京は、樹里、瑠里、冴里とハモって言いました。


「樹里様と瑠里様と冴里様と乃里様にはご機嫌麗しく……」


 いつものように現れた昭和眼鏡男と愉快な仲間達でしたが、


「今日から私達が護衛します」


 真理沙に言われてしまい、硬直しました。


(ああ、樹里様一筋と誓ったはずなのに、何故この世にはこれほど見目麗しき女性がいらっしゃるのだ!?)


 意味不明な事で苦悩する眼鏡男達です。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。


 


 そして。


「わかりました。世界犯罪者連盟様は、私にとっても上得意様です。最優先でお引き受けしましょう」


 白装束を着た長身痩躯の男がスマホで通話をしています。


「呪殺するのは、御徒町樹里、ですね。わかりました」


 不敵な笑みを浮かべ、半紙に毛筆でメモをする安部晴明です。

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