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樹里ちゃん、警告を受ける

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


「では、行って参りますね」


 樹里は、ベビースリングで三女の乃里を抱き、笑顔全開で告げました。


「行ってらっしゃい」


 不甲斐ない夫の杉下左京は、不甲斐なさ全開で応じました。


「どういう状況だよ!」


 地の文の緩急を織り交ぜたボケに理不尽に切れる左京です。


 貴方の存在自体が不甲斐ないのだと思う地の文です。


「うるせえ!」


 ボキャブラリーが乏しい左京は言葉に詰まるとすぐに「うるせえ!」と言います。


 だから、警視庁を懲戒免職になったのだと思う地の文です。


「懲戒免職になんかなってねえよ! 自分で辞めたんだよ!」


 地の文の軽いジョークにも激ギレしてしまう某国の委員長よりも心が狭い左京です。


「国難を呼び込むようなボケをするな!」


 空を見上げてビビりながら切れる左京です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず樹里は笑顔全開で応じました。


「いってらっしゃい、ママ!」


「いてらしゃい、ママ!」


 長女の瑠里と次女の冴里も笑顔全開で応じました。


 樹里の父親の赤川康夫は、NASAを退職するために渡米しているので不在です。


 今の情勢ですから、康夫はすぐには帰って来られないかも知れないと思う地の文です。


「ワンワン!」


 康夫がいなくなったので、今度は誰が散歩に連れて行ってくれるのだろうと思い、不安そうに吠えるゴールデンレトリバーのルーサです。


「心配するな、ルーサ。俺が散歩に連れて行ってやるから」


 左京が言いました。すると、ルーサは嫌そうに舌打ちをし、小屋に入ってしまいました。


「舌打ちなんかしてねえだろ!」


 半泣きになりながらも、地の文の話の盛り方に抗議する左京です。


 でも、ルーサが小屋に行ってしまったのは事実なので、ショックが大きいようです。


「樹里様と瑠里様と冴里様と乃里様にはご機嫌麗しく」


 そこへ前回樹里がピンチの時に全く役に立たなかった木偶でくの坊たちが登場しました。


「かはあ……」


 強烈な地の文の指摘に血反吐を吐いて四つん這いになってしまう昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


(確かにその通りだ。我々は一体何のために樹里様達を警護しているのだ? 今、まさに存在意義が問われているのだ!)


 眼鏡男は左京の言葉に奮起し、これからの自分達の在り方を考えようと思いましたが、


「あっ!」


 我に返って顔を上げると、樹里は隊員達とJR水道橋駅に向かっており、左京は瑠里と冴里を伴って、保育所へと歩き出していました。


(この放置プレー、もうすぐドクターストップがかかるかも知れない……)


 心臓のあたりに右手を当てて、涙ぐむ眼鏡男です。


 今までなら、ルーサが慰めのように吠えてくれるのですが、今日はそれすらありません。


「樹里様、お待ちください!」


 涙をこらえて走り出す眼鏡男です。


 


 そして、今回は何事もなく、樹里は五反田邸に到着しました。


「それでは樹里様、お帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼をして立ち去りました。


「ありがとうございます」


 樹里は深々とお辞儀をしました。


「樹里さーん!」


 そこへ毎度お馴染みのもう一人のメイドの目黒弥生が走ってきました。


「ちり紙交換みたいに言わないでよ!」


 地の文がボケる前に突っ込む弥生ですが、例えがひどく昭和臭がするので、年齢詐称をしているのではないかと勘ぐる地の文です。


「私は平成生まれよ! 樹里さんと同い年なの!」


 年齢の事でボケると、いつも以上に感情的になる弥生です。


「おはようございます、キャビーさん」


 そこへ唐突に樹里が名前ボケをぶっ込んできたので、思い切り転んでしまい、盛大にパンチラしてしまう弥生です。


 しかし、警備員さん達はすっかり油断していたので、見る事はできませんでした。


「そ、そんな事は期待していませんから!」


 嫌な汗を大量に掻きながら、地の文に抗議する警備員さん達です。


「樹里さん、私はキャビーなんていうヘンテコな名前ではありません! 目黒弥生です!」


 弥生は素早く起き上がりながら樹里に告げました。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


「樹里さん、有栖川先生がお話があるそうです」


 弥生が引きつり全開で言うと、


「そうなんですか? まだ、乃里には難しいと思うのですが」


 久しぶりに「お話ボケ」をかましました。


「そのお話じゃないです!」


 しばらくぶりにイラッとする弥生です。


 


 樹里は邸に入り、乃里に授乳をしてから着替えをすませ、紅茶を淹れて、五反田氏の愛娘の家庭教師である有栖川倫子がいる部屋に向かいました。


「どうぞ」


 樹里のノックの音に倫子が応じると、


「失礼致します」


 樹里がドアを開いて入室しました。部屋には倫子の他に住み込み医師の黒川真理沙もいました。


「おはようございます、ドロントさん、ヌートさん」


 樹里は笑顔全開で挨拶しました。倫子と真理沙は苦笑いしましたが、樹里の名前ボケには突っ込まず、


「樹里さん、実は先日、貴女を襲撃した江川紹治の背後にいる人物がわかりました」


 倫子が真顔になって言いました。


「そうなんですか」


 それでも樹里が笑顔全開で応じるので、倫子は顔を引きつらせました。


「黒幕は世界犯罪連盟の野矢亜のやあ剛です」


 後を引き継ぐように真理沙が言いました。


「NTTのCMに出ている人ですか?」


 樹里が笑顔全開で尋ねたので、


「その人じゃありません! 野矢亜剛です!」


 倫子はイラッとして訂正しました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開で応じました。唖然とする倫子ですが、


「これからは、私達が樹里さんを陰ながら警護します。絶対に守りますから」


 真理沙が真剣な表情で告げました。


「ありがとうございます」


 樹里は笑顔全開で深々と頭を下げました。


「江川は間抜けな殺し屋でしたから、事なきを得ましたが、もっと腕の立つ暗殺者だと、かなり危険になります。不要不急の外出はできるだけ避けるようにしてください」


 何とか気を取り直した倫子が言いました。


「そうなんですか」


 またしても笑顔全開で応じる樹里です。


 


 話題に上った江川紹治が、同じ頃、東京湾の底に沈んでいたのは誰も知らないと思う地の文です。

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