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樹里ちゃん、しばらくぶりに命を狙われる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


「では、行って参りますね」


 樹里は笑顔全開で三女の乃里をベビースリングで抱いて告げました。


「行ってらっしゃい」


 先日、樹里の姉の璃里に欲情したケダモノのような夫の杉下左京は項垂れ全開で応じました。


「思い出させるな!」


 血の涙を流して地の文に抗議する左京です。


(璃里さんと樹里がそっくりなのがいけないんだ!)


 左京は自己正当化のためにそんな屁理屈を考え出しました。


 いずれにしても、ろくでもない男なのは確定だと思う地の文です。


「行ってらっしゃい、樹里」


 樹里の父親の赤川康夫は笑顔全開で応じました。


「いってらっしゃい、ママ!」


「いてらしゃい、ママ!」


 長女の瑠里と次女の冴里も笑顔全開で応じました。


「ワンワン!」


 ゴールデンレトリバーのルーサは元気いっぱいに吠えました。


「お父さんも出かける準備をしないといけないでしょ? NASAに話をしに行くのですよね?」


 樹里が寂しそうな顔で言ったので、左京は早速、


(樹里のその顔、可愛い!)


 朝から欲情タイムに入ってしまいました。


「うるさい!」


 自分の三欲を抑える事ができない元猿の左京は地の文に理不尽に切れました。


「シリーズを間違えるな!」


 元猿ネタを話の垣根を越えて使ってしまう地の文に切れる左京です。


「そうなのかね? まだ余裕があるよ」


 康夫は笑顔全開で応じました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「樹里様とお父上様と瑠里様と冴里様と乃里様にはご機嫌麗しく」


 そこへいつものように昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。


「おはようございます」


「おはよう、たいちょう!」


「おなよう、たいちょ」


「おはよう」


 樹里と瑠里と冴里と康夫の笑顔の四十奏に乃里のやや笑顔が加わった「攻撃」をまともに食らった眼鏡男達は、クラクラしてしまいました。


(これ以上樹里様のお子様が増えると、我らの命が危うくなる。対策を考えねばならん)


 眼鏡男は腕組みをして思案に耽りました。そして、


「はっ!」


 我に返ると、大方の予想通り、樹里は隊員達とJR水道橋駅にむかっており、瑠里と冴里は左京と一緒に保育所を目指しており、康夫はルーサに餌を与えると、家に入ってしまいました。


(このプレーも、何度も受けていると、快感を通り越して、ヒットポイントを削られるような気がしてしまう……)


 眼鏡男は激しいジレンマに襲われていました。ロールプレイングゲームのやり過ぎだと思う地の文です。


 今回も何事もなく五反田邸に着くかと思われましたが、


「御徒町樹里さん、お久しぶりですね」


 どこからともなく、声が聞こえました。


 眼鏡男達が途端に周囲を警戒し始めます。


「江川さんですか?」


 樹里は笑顔全開で尋ねました。


「嬉しいですね、覚えていてくださったのですか」


 そう言って現れたのは、脱獄囚の人でした。


「だから脱獄囚じゃねえよ! 逮捕された事ねえし!」


 地の文の紹介にいちゃもんをつける江川紹治です。そうです。以前、樹里に腕の関節を外されて、泣きながら逃げたへなちょこな殺し屋です。


「泣いてなんかいねえよ!」


 怖い顔をもっと怖くして地の文に切れる江川です。


「おのれ、樹里様に危害を加えようとは何と思い上がった男だ。我ら親衛隊が成敗してくれる!」


 眼鏡男と愉快な仲間達は北斗七星の形に並びました。


「アホか」


 江川は鼻で笑って、たちまち眼鏡男達を倒してしまいました。


 哀れな眼鏡男達は悲惨な最期を遂げたのでした。


「死んでいません!」


 江川の手刀で倒されたものの、身に着けていた鎖帷子で致命傷は免れた眼鏡男達です。


「乃里を頼みます」


 樹里は笑顔全開で眼鏡男に眠っている乃里を預けました。


「乃里様は命に代えてもお守り致します」


 眼鏡男は敬礼して応じました。


「ほお。やる気満々ですね、樹里さん」


 江川は舌舐めずりし、嫌らしい笑みを浮かべました。


「私達をいつも守ってくださっている皆さんに酷い事をした貴方を許しませんよ」


 笑顔全開で告げる樹里です。眼鏡男達は顔を引きつらせました。


(樹里様、初めて思ってしまいますが、怖いです!)


 心の中で身震いする眼鏡男達です。


「許しません? どうするのですか?」


 江川は余裕綽綽の顔で尋ねました。すると樹里は笑顔全開のままで走り出し、


「投げます!」


 間合いを詰めました。


「貴女と組み合わなければ、どうという事はないのですよ、樹里さん」


 江川は樹里から距離を取るために駆け出しました。


 七十代の割には速い江川です。


「まだ五十代だよ!」


 年齢のサバを読み過ぎた地の文に切れる江川です。


「樹里様!」


 眼鏡男達は樹里が江川に突き離されるのを見て叫びました。


(樹里様より速いとは、一体何者だ?)


 眼鏡男は思いましたが、乃里が目を覚まして泣き出したので、仰天しました。


「乃里が泣いているので、終わりにしますね」


 樹里は笑顔全開で告げると、バンと加速して、一気に江川の前に出ました。


「何!?」


 樹里の神速ぶりに驚愕した江川は、樹里に奥襟を掴まれるのを防ぐ事もできずに一本背負いで数十メートル飛ばされて地面に叩きつけられました。


「ぐええ……」


 その衝撃で江川は口から泡を吹いて気絶してしまいました。


「よし!」


 それを見届けた眼鏡男達は、泣き叫ぶ乃里を樹里の元に運びました。


「ありがとうございました」


 樹里は息一つ乱さずに乃里を受け取りました。乃里は途端に泣き止み、樹里のマシュマロに吸い付きました。


「くはあ!」


 一瞬だけ樹里のマシュマロを見てしまった眼鏡男は、意識が飛んで、仰向けに倒れました。


「隊長、奴が逃げます!」


 隊員の一人が、意識を回復した江川が走り出すのを見て叫びました。


「しまった!」


 眼鏡男が慌てて追いかけようとすると、


「任せてください!」


 隊員の一人がそれを追い抜いて江川を追いかけました。


(我が隊にもあれ程脚が速い者がいたのか)


 眼鏡男はフッと笑って振り返しました。しかし、隊員は六名が全員、そこにいました。


「え? どういう事?」


 理解不能に陥る眼鏡男です。


「そうなんですか?」


 乃里への授乳を終えた樹里は笑顔全開で応じました。




 江川は必死になって走り、親衛隊員と思しき者の追跡を何とか振り切りました。


「またしくじったのですか?」


 その江川の前に現れたのは、誰でしたっけ?


野矢亜のやあごうだよ!」


 地の文のボケにイラッとして切れる野矢亜です。


 彼は世界犯罪者連盟、通称セバスチャンに所属している男です。


「世犯連だよ!」


 しつこくボケる地の文にもう一度律儀に切れる野矢亜です。


「この責任、きっちりと取ってもらいますよ」


 野矢亜はニヤリとして言いました。


 どうやら、江川は某テレビ局のしく◯り先生に出る事になるようです。


「違うよ!」


 更に切れる野矢亜です。


「お、お許しを、野矢亜様!」


 あの強面の江川が怯えて土下座をしました。


「連れて行きなさい」


 野矢亜が命じると、黒ずくめの屈強な男三人が現れ、抵抗する江川を拘束し、近くに止められていた黒のワンボックスカーに押し込めました。


 野矢亜はフッと笑うと、ワンボックスカーに男達と乗り込み、走り去りました。


 それを電柱の陰から親衛隊員と思われる者が見ていました。


(やはり、連中が黒幕だったのね)


 愉快な仲間達の一人に変装していたのは、五反田邸の住み込み医師の黒川真理沙ことヌートでした。


 さて、この先どうなるのか楽しみな地の文です。

 

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