樹里ちゃん、義理の父親に相談される
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
樹里の実の父親である赤川康夫が、樹里の母親の由里に一緒にアメリカに行って欲しいと言いました。
是非、そうして欲しいと思う地の文です。
「私がアメリカに行けば、登場しなくなると思っているだろ? 大間違いだよ」
地の文の深層心理を見抜いた由里はまるで悪代官のように高笑いしました。
「私は例え火星に移住したって、登場するからね。覚悟しときな」
悪魔も逃げ出す恐ろしい笑顔で地の文に囁く由里です。
地の文は早速大人用紙おむつが役に立ったと思いました。
「では、行って参りますね」
いつものオープニングに戻り、笑顔全開で告げる樹里です。
「行ってらっしゃい」
左京も由里がアメリカに行ってしまうのでとても嬉しそうに応じました。
「やめろー!」
捏造を重ねて、偽りの同志を募ろうとした地の文に血の涙を流して切れる左京です。
左京は、誰よりも由里の怖さを知っているので、仮に心の中ではそう思っていても、決して口にはしないのです。
「だから更にやめろ!」
両目を充血させて地の文に懇願する左京です。
「第一、まだ由里さんがアメリカに行くって決まってないだろ!」
物語の先取りが大好きな地の文に正論で押す左京です。
「そうなんですか」
樹里はそれにも関わらず笑顔全開で応じました。
「そうなのかね」
康夫も何故か笑顔全開で応じました。
「ねえねえ、ジイジとバアバは、ふどうさんおうのくににいってしまうの?」
長女の瑠里が涙ぐんで樹里に尋ねました。
アメリカの大統領をやんわりと皮肉るという高度なテクニックを見せる瑠里です。
「まだ決まった訳ではありませんよ」
樹里は笑顔全開で三女の乃里に授乳しながら応じました。
「そうなんですか」
瑠里はホッとして笑顔全開で応じました。
「しょーなんですか」
次女の冴里は取り敢えずお姉ちゃんの質問の意味がわからないのに笑顔全開で応じています。
「どちらにしても、真里と希里と絵里は学校の関係ですぐには無理だね。新学期が始まったばかりだし」
寂しそうに言う康夫を見て、樹里は涙ぐみました。
(樹里、可愛い!)
変態夫は樹里の涙ぐんだ顔を見て欲情しました。
早く迷惑防止条例違反で逮捕して欲しいと思う地の文です。
「何でだよ!」
正当な主張をした地の文に切れる左京です。
「樹里様とお父上様と瑠里様と冴里様と乃里様にはご機嫌麗しく」
いつものように目賀根昭和こと昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。
「逆ですよ!」
軽いボケをかました地の文に本気になって抗議する熱くなり易い眼鏡男です。
「おはようございます」
「おはよう、たいちょう」
「おはよ、たいちょ」
「おはよう」
樹里と瑠里と冴里に加えて、ベビースリングで抱かれている乃里もやや笑顔全開で、その上康夫も笑顔全開なので、クラクラしてしまう眼鏡男達です。
「おおお!」
感動のあまり、涙を流してお互いの労苦を労い合う眼鏡男達です。
(生きててよかった)
そして、いつものようにハッと我に返る眼鏡男達です。
周囲を見渡すと、樹里は一人でJR水道橋駅に向かって歩き出しており、瑠里と冴里は左京と保育所に向かっており、康夫はゴールデンレトリバーのルーサと散歩に行ってしまっていました。
(またしてもこの放置プレー……。前回とは違って、同志と共にそれを分かち合えるのもまた愉し)
感涙に咽ぶ眼鏡男達です。
そして、樹里は何事もなく五反田邸に到着しました。
「では樹里様、お帰りの時にまた」
眼鏡男達は敬礼して立ち去りました。
「ありがとうございました」
樹里は深々とお辞儀をしました。
「樹里さーん!」
そこへもう一人のメイドの目黒弥生が走ってきました。
「おはようございます、キャビーさん」
忘れた頃にやってくる樹里の不意打ち名前ボケに、対応し切れずにパンチラして転ぶ弥生です。
(おお!)
期待していなかった警備員さん達は思わぬ収穫に感激しました。
「樹里さん、私は弥生です。それから、義理のお父様がお見えですよ」
弥生は警備員さん達を一睨みしてから告げました。
「そうなんですか」
樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。
「私、お庭掃除していますね」
弥生は、樹里の義父である西村夏彦が苦手です。実は夏彦はロリコンだからです。
弥生はもう子供もいるおばさんなのに、どうしてそんな心配をする必要があるのかと疑問に思う地の文です。
「まだおばさんじゃないわよ! 私は二十代よ!」
地の文の分析にいちゃもんをつける弥生です。
「そうなんですか」
樹里は弥生と別れて、玄関を入り、乃里に授乳をすませてから着替えをして、紅茶を淹れると応接間に行きました。
「お久しぶりです、お義父さん」
樹里が笑顔全開で挨拶をすると、ソファに座っていた夏彦は、
「久しぶりだね、樹里ちゃん。ちょっと相談に乗って欲しいんだけど」
泣きべそを掻きながら言いました。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開で応じました。
「どうぞ」
樹里は紅茶をテーブルに置くと、向かいのソファに座りました。
「実は、由里たん、いや、お母さんの事なんだけどさ」
夏彦は紅茶を一口飲んでから切り出しました。
「また、前のご主人とヨリを戻そうとしているのかな?」
更に涙ぐんで尋ねる夏彦です。すると樹里は笑顔全開で、
「違いますよ。お友達として、アメリカに一緒に行って欲しいのです」
ところが夏彦は、
「普通さ、友達にそこまで頼むかな? やっぱり、僕と別れさせて、渡米するつもりじゃないのかな?」
かなり被害妄想が激しくなっています。
「父は、お義父さんにアメリカで居酒屋のチェーンを展開して欲しいそうですよ。お聞きになっていないのですか?」
樹里は首を傾げて尋ね返しました。
「ええ!?」
夏彦は目を見開き、立ち上がりました。
「聞いてないよ」
どこかの芸人グループの真似をする夏彦です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
どうやら、由里が居酒屋のチェーンを自分で経営し、大儲けするつもりのようです。
さすが、このお話で一番の悪党だと思う地の文です。
続きは次回に譲る地の文です。