樹里ちゃん、乃里と共に出勤する
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
先月誕生した三女の乃里は、驚く程成長が早く、首が生後一ヶ月にしてすでに座ったので、樹里はメイドの仕事に戻る事になりました。
早く復帰しないと、エロメイドが五反田邸の金目のものを全部盗み出してしまうからです。
「そんな事、しないわよ! それに私はエロメイドじゃありません!」
地の文の鋭い推理に血の涙を流して切れる目黒弥生です。
「では、左京さん、お父さん、瑠里、冴里、行ってきますね」
樹里はベビースリングで乃里を抱き、笑顔全開で告げました。
「行ってらっしゃい」
一番最初に名前を言われた不甲斐ない夫の杉下左京は笑顔全開で応じました。
このシリーズ始まって以来の珍事だと思う地の文です。
「気をつけて行ってくるんだよ、樹里」
父親の赤川康夫も笑顔全開で言いました。
「いってらっしゃい、ママ、のり!」
長女の瑠里はまだ言葉はわからないと思われる妹の乃里にも言いました。
心優しい子に育ってホッとする地の文です。
一時は、お祖母ちゃんの由里に似てきていたので、非常に不安だったのです。
「何だって!?」
樹里の母親で、康夫の元妻の由里が得意の地獄耳で聞きつけて、地の文に詰め寄りました。
漏らしてしまった地の文です。
「いってらっしゃい、ママ、のりたん!」
次女の冴里も笑顔全開で応じました。冴里は妹ができたので、すごく張り切っています。
「樹里様と瑠里様と冴里様と乃里様、そしてお父上様にはご機嫌麗しく」
そこへいつものようにいつもの人達が現れて挨拶をしました。
何か抗議の声を上げているようですが、無視する地の文です。
「おはようございます」
樹里は笑顔全開で応じました。
「おはよう、たいちょう」
「おはよ、たいちょ」
瑠里と冴里も笑顔全開で応じました。
「おはよう、皆さん。いつも樹里のためにありがとう」
康夫はまさに慈悲深い言葉をその人達にかけました。
「もったいないお言葉です、お父上様」
その人達は涙ぐんで応じました。相変わらずリアクションが大袈裟だと思う地の文です。
(ああ、今日という日に生きていられてよかった! 神に感謝しなければ!)
その人は必要以上に感激し、樹里達が行ってしまったのにも気づかず、涙を流しています。
「はっ!」
しばらくして、ようやく自分が取り残されたのを理解し、慌てて樹里達を追いかけました。
「私は昭和眼鏡男と愉快な仲間達と呼ばれている集団の隊長の目賀根昭和です!」
地の文が一向に紹介をしてくれないので、遂に自ら名乗りを上げた眼鏡男です。
それにしても安直なネーミングだと作者の頭を疑う地の文です。
(あいつらと出会って何年も経つが、ようやく本名が知れたな)
瑠里と冴里を保育所に連れていきながら、妙な事に感激している左京です。
そして、樹里と乃里は何事もなく五反田邸に到着しました。
「では樹里様、お帰りの時にまた」
眼鏡男達は敬礼して立ち去りました。本名がわかっても、あだ名で呼ぶ地の文です。
「ううう……」
そのせいで項垂れて帰る眼鏡男です。
「ありがとうございました」
樹里は深々とお辞儀をしました。
「樹里さーん!」
そこへ弥生が走ってきました。
しばらくぶりにパンチラが見られると思い、警備員さん達が嬉しそうに集まりました。
「そんな事は考えていません!」
地の文のかなり確度の高い先読みに抗議する警備員さん達です。
「おはようございます、キャビーさん」
しばらくぶりに名前ボケをした樹里のせいで、久しぶりに転けて、見事なまでのパンチラをしてしまう弥生です。
「おお!」
警備員さん達は思っても見なかった瞬間に立ち会えたので、歓喜の声を上げました。
「エッチ!」
弥生は素早く起き上がって警備員さん達を睨みつけましたが、警備員さん達は何食わぬ顔でサッサと持ち場に戻りました。
「私は目黒弥生です。キャビーなんていうヘンテコな名前じゃありませんよ、樹里さん」
嫌な汗を掻きながら、樹里に言う弥生です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。弥生は乃里が笑っているように見えたので、
「わあ、まだ生後間もないのに、今笑ったんじゃないですか、乃里ちゃん」
すると樹里は、
「はい、もう笑いますよ。ウチの家系は笑顔が最初にできるようになるんです」
事も無げに言ったので、
「そうなんですか」
思わず樹里の口癖で応じてしまう弥生です。
(私も二人目が欲しいなあ)
弥生は思いました。でも、夫の目黒祐樹との間は冷え切っているので、とても二人目は望めないと思う地の文です。
「嘘を吐かないで!」
捏造を繰り返す◯池元理事長のような地の文に切れる弥生です。
「樹里さん、お久しぶりです」
するとそこへ住み込み医師の黒川真理沙が現れました。
「お久しぶりです、黒川さん」
樹里は笑顔全開で応じましたが、
(どうしてヌートさんには名前でボケないのよ!)
自分と扱いが違うので、ちょっとムッとしてしまうお茶目な弥生です。
「お茶目じゃないでしょ!」
表現が特殊な地の文にまたしても切れる弥生です。
「乃里ちゃんも樹里さんにそっくりですね。本当に樹里さんの一族の方は、よく似ていますね」
真理沙はやや引きつり気味の笑顔で言いました。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開で応じました。
「樹里さん、気をつけてくださいね。貴女の命を狙っている殺し屋がいますから」
更に五反田氏の愛娘の麻耶の家庭教師である有栖川倫子がやって来て言いました。
自分で捕まえ損ねたくせによくいうよ、と思う地の文です。
「う、うるさいわね!」
本当の事なので、地の文への切れ方がもう一つの倫子です。
「そうなんですか、ドロントさん?」
樹里は笑顔全開で一拍置いての名前ボケをかましてきました。
「そうなんですよ。でも、私はドロントではなく、有栖川倫子ですよ、樹里さん」
引きつり全開で応じる倫子です。
「そうなんですか」
それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。
めでたし、めでたし。




