樹里ちゃん、定期検診にゆく
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
樹里はまだ産休中です。
でも、有給休暇なので、稼ぎが少なくて不甲斐ない夫の杉下左京も思う存分ヒモ生活を堪能しています。
「ヒモじゃねえよ!」
正しい指摘をした地の文に理不尽に切れる左京です。最近、すっかりヒモとしての自覚がなくなってしまう程仕事への意欲を失っています。
「くはあ!」
今度は地の文の指摘に堪え切れずに口から血を吐いて悶絶する左京です。
「そうなんですか」
「そうなんですか」
「しょーなんですか」
それにも関わらず、樹里と長女の瑠里と次女の冴里は笑顔全開で応じました。
「それでは左京さん、行ってきますね。瑠里と冴里の事をよろしくお願いします」
樹里は三女の乃里をベビースリングで抱き、笑顔全開で告げました。
「そうなんですか」
左京は引きつり全開で応じました。
「気をつけて行ってくるんだよ、樹里」
樹里の父親の赤川康夫が笑顔全開で言いました。
「はい、お父さん」
樹里は笑顔全開で応じました。
「いってらっしゃい、ママ!」
「いてらしゃい、ママ!」
今年で六歳になる瑠里と、もうすぐ三歳になる冴里は笑顔全開で応じました。
「行ってきますね、瑠里、冴里」
樹里も笑顔全開で応じました。
「樹里様と瑠里様と冴里様と乃里様、そしてお父上様にはご機嫌麗しく」
そこへ何の役にも立たない意味不明な集団が現れました。
「ぐはあ……」
地の文の危険球並みの鋭い指摘に四つん這いになって苦しむ昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。
「意味不明などと言われると、さすがに自分達の存在意義を考えてしまいます」
眼鏡男は何とか立ち上がりながら言いました。
そこが引っかかったのかと意外に思う地の文です。
いずれにしても、近い将来降板するのですから、どう足掻いても無駄だと思う地の文です。
「聞き捨てなりません! それは一体どういう事ですか!?」
地の文の気まぐれな発言に真剣に反応しているうちに、樹里は乃里を抱いてJR水道橋駅に向かってしまいました。
(しばらくぶりに登場できたと思ったら、間髪入れずに樹里様の放置プレーとは……。まさに五臓六腑に染み渡る……)
眼鏡男達は感涙に咽びながら幸せとは何かを知り、震えました。
変態道を突き進んでいると思う地の文です。
そして、樹里は何事もなく乃里の定期検診を受ける病院に着きました。
「それでは樹里様、お帰りの時にまた」
眼鏡男達はまだ感動の余韻に浸りながら、敬礼をして立ち去りました。
「ありがとうございました」
樹里は乃里を抱いているにも関わらず、深々とお辞儀をしました。
めでたし、めでたし。
「おい!」
綺麗に締めを決めた地の文に謎の女が突っ込みを入れました。
このお話に登場する女性の中で数少ない貧乳です。
あとは五反田邸の家庭教師のおばさんと刑務所に服役中のイタいおばさんくらいしかいません。
「うるさいわよ! それとおばさん言うな!」
どこかで地の文に切れる有栖川倫子ことドロントです。
「誰が綾瀬◯るかよ!」
勘違いの名前ボケが相変わらずのベロトカゲこと六本木厚子です。
ああ、そう言えば、五反田邸のエロメイドもいましたね。
「私を巻き込まないで! まだ大きくなっているんだから!」
自分は貧乳ではなく成長途上だと言い張る目黒弥生です。
どっちでもいいので、無視する地の文です。
「話を元に戻しなさいよ!」
更に切れる貧乳です。誰でしたっけ?
「片山ァ祐子だよ!」
まるで昔SMの女王様スタイルで一世を風靡した女性芸人のように叫ぶ殺し屋の片山祐子です。
今回は看護師の制服を着ています。新しいプレーでしょうか?
「違うわよ! 看護師に変装して、御徒町樹里を殺すのよ!」
祐子はあっさりと言ってはいけない事を言いました。
「はっ!」
慌てて口を塞ぐ祐子ですが、何の意味もないと思う地の文です。
「ああ!」
そんな一人コントを繰り広げているうちに樹里は受付をすませて、見た目はそうでも樽さんではなく、垂井さんに付き添われて奥へ行ってしまいました。
(しまった!)
祐子は急いで樹里を追いかけようとしましたが、
「貴女、何してるの? 私と一緒に来なさい」
樹里を診察室に案内して戻って来た垂井さんに捕まり、別の方向へ引きずられて行きました。
「くひい!」
襟首を掴まれているので、のどがしまってしまい、危うく窒息死しかける祐子です。
「ありがとうございました」
しばらくして樹里が診察室から出てきました。
乃里は問題なく成長しているようです。ホッとする地の文です。
(間に合った!)
祐子はうまく垂井さんから逃げ出して、ロビーに戻って来ました。
樹里は精算をすませて、玄関に向かうところです。以前にもこんなシーンがあったと既視感に囚われる地の文です。
(死ね、御徒町樹里!)
祐子はニヤリとして隠し持っていたメスを取り出すと、樹里の背中に向かって投げつけようとしました。
「危ないですよ、看護師さん」
その腕を後ろから掴んだ者がいました。
「お、お前は?」
祐子は歯軋りして振り返り、その人を見ました。
「観念しなさい、片山祐子」
そこにいたのは、もう一人の貧乳でした。
「うるさいわよ!」
密かに樹里をつけていた有栖川倫子は、いいシーンに水を差す地の文に切れました。
「ああ!」
地の文に切れている隙に片山祐子は逃げてしまいました。
間抜けだと思う地の文です。
「あんたのせいでしょ!」
顔を真っ赤にして責任転嫁する倫子です。
「あ、有栖川先生、お久しぶりです」
何も知らない樹里は笑顔全開で挨拶しました。
「あ、樹里さん、お久しぶり」
苦笑いして挨拶を返す倫子です。
(取り敢えず、樹里さんが無事だったから、よしとしましょうか)
倫子は根本的な問題に目を瞑るまるで元都知事のような事をしました。
「何度もうるさいわよ!」
都民ファーストを標榜する地の文に更に切れる倫子です。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開です。
めでたし、めでたし。