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樹里ちゃん、神戸蘭に嫉妬される

 御徒町おかちまち樹里じゅりは、居酒屋と喫茶店で働くメイドです。


 但し、大富豪の五反田六郎氏がアメリカから帰国したら、メイドに戻る事になっています。


 


 ある日、樹里が喫茶店で働いている時間に、あの神戸かんべらん警部が現れました。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 樹里が応対します。すると蘭はムッとして、


「その『お嬢様』って嫌味、メイドさん?」


「いいえ。ご挨拶の決まりですので」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「フーン。そうなの」


 神戸警部は窓際の席に勝手に座ります。


「今日はお一人ですか?」


 樹里が尋ねました。左京の姿がないからです。


「ええ、私はどうせ独り者ですよ! この歳まで結婚もせずにね!」


 何が気に食わないのか、神戸警部は荒れ気味です。


 独身の三十代後半女性には、「お一人ですか?」は禁句のようです。


「ご注文は?」


 でも樹里は全然それに気づかず、オーダーを取ります。


「コーヒー。一番高い奴を」


「かしこまりました、お嬢様」


 樹里は深々と頭を下げてから立ち去りました。


「……」


 神戸警部は寂しそうに窓の外を眺めます。


 先日、この喫茶店で樹里に当てつけて左京に張り付いた自分が情けないのです。


(あれで左京に完全に拒否されたからなあ)


 後悔する神戸警部です。


(あんないい子に嫉妬するなんて、バカよね)


 樹里は神戸警部に何を言った訳ではないのですから、完全に神戸警部の独り相撲です。


(それに、あの子、左京の事を男として好きという訳ではないみたいだし)


 左京は以前酔った時に、


「樹里は俺を母親と結婚させたがってる」


とぼやいていたのです。


一縷いちるの望みはあるって事よね)


 神戸警部はそれに懸けてみる事にしました。


「お待たせいたしました、当店で一番高いコーヒーになります」


 樹里がコーヒーを持って来ました。


「げ」


 神戸警部はギョッとしました。


「な、何よ、これ?」


 テーブルには、バケツほどの大きさのカップに並々と入ったコーヒーがあります。


「ご注文の、当店で一番高いコーヒーです」


 樹里は笑顔全開です。神戸警部はガックリと項垂れ、


(ここ、そういう店だったのか……)


 でも、自分で頼んだのですから、どうしようもありません。


「伝票はこちらに置いておきます」


 樹里はクリップボードを裏返しに置いて行きました。


「はあ」


 神戸警部は、溜息を吐き、


「どうやって飲むのよ、これ?」


 バケツカップを抱え、少し飲んでみます。


「おいしいけど、こんなには無理……」


 神戸警部は飲むのを諦め、席を立ちます。


「いくらよ、これ?」


 クリップボードをひっくり返して、更に驚く神戸警部です。


「い、い、一万円!?」


 今日は散々な神戸警部でした。

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