表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
422/839

樹里ちゃん、実家に帰る

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 只今、樹里は産休中です。でも、有給休暇なので、不甲斐ない夫の杉下左京の稼ぎがなくても、何も心配は要りません。


「勘弁してください」


 その件に関しては、ぐうの音も出ない左京は、地の文に土下座をして離婚届にサインをしました。


「サインはしてねえよ!」


 地の文の新春ジョークに切れる左京です。今年も相変わらず心が狭いキャラで押していくようです。


「狭くねえよ!」


 更に地の文に切れる左京です。


 もう十分出番があり、セリフも言えたので、しばらく休んでほしい地の文です。


「それも勘弁してください」


 左京はもう一度見事な土下座をしました。


 外伝の「私立探偵 杉下左京」の新連載が無期延期になったので、ここしか出番がないためです。


「そっちはまだ諦めていねえぞ!」


 血の涙を流して抗議する左京です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「あれ?」


 左京は樹里の姿を見てギョッとしました。


 樹里はマタニティードレスの上にダウンジャゲットを羽織り、長女の瑠里と次女の冴里を連れています。


(まさか、別居?)


 嫌な汗が全身からしこたま噴き出す左京です。


「私達がいると、左京さんに迷惑をかけますから、出産か終わるまで、実家に帰っていますね」


 樹里が笑顔全開で衝撃的な事を告げたので、


「そうなんですか」


 引きつり全開で樹里の口癖で応じる左京です。


「パパ、げんきでね」


 瑠里が笑顔全開で言いました。


「パパ、げんきでね」


 以前より言葉がはっきり言えるようになった冴里も笑顔全開で言いました。


「瑠里と冴里も元気でね」


 最近、更に涙脆くなった左京は、号泣して言いました。


「来月には戻りますね、左京さん」


 樹里は笑顔全開で告げると、左京に口づけしました。


「そうなんですか」


 不意打ちだったので、左京は顔を真っ赤にして応じました。


「ああ、ママ、ずるい! るりもキスする!」


 瑠里は左京を強引にしゃがませて右の頬にキスをしました。


「さーたんも!」


 お姉ちゃんには絶対に負けたくない冴里も、左の頬にキスをしました。


 妻と二人の愛娘にキスをされた左京は、心置きなく離婚届にサインをしました。


「だからサインはしてねえよ!」


 涙ぐんで地の文に切れる左京です。


「樹里様、瑠里様、冴里様、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」


 そこへ昭和眼鏡男と愉快な仲間達が紋付袴姿で登場しました。


 どこから盗んできたのでしょうか?


「盗んでなどいません! レンタルです!」


 見事な分析をした地の文に切れる眼鏡男達です。


「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」


 樹里は深々とお辞儀をしました。


「おめでとう、たいちょう!」


 瑠里も笑顔全開で挨拶しました。


「おめでとう、たいちょ!」


 冴里も負けずに笑顔全開で挨拶しました。

 

「おお!」


 新年早々に笑顔全開の三重奏を見た眼鏡男達は、歓喜に打ち震え、涙を流しました。


「何と神々しい!」


 思わず柏手を打って願い事をしてしまう眼鏡男達です。


(今年こそ瑠里様とデートができますように)


 瑠里命の危ない親衛隊員は密かに祈りました。


(今年こそ冴里様と結婚できますように)


 冴里命の親衛隊員はすでに犯罪レベルの事を祈っていました。


 通報した方がいいと思う地の文です。


「はっ!」


 その時、我に返る眼鏡男達です。予想通り、樹里達はすでにJR水道橋駅に向かって歩き出していました。


「樹里様、お待ちください」


 慌てて追いかける眼鏡男達です。


(相変わらずおかしな連中だ)


 それを微笑ましそうに見ている左京ですが、貴方の方がおかしいと断言する地の文です。


「うるせえ!」


 正しい事を述べた地の文に理不尽に切れる左京です。


「ワンワン!」


 ゴールデンレトリバーのルーサが、


「お前、相変わらずバカだな」


 まるでそう言っているかのように吠えました。


 でも、犬の言葉が理解できない左京はご機嫌で家の中に戻りました。


 何故ご機嫌なのかと言うと、もうすぐ探偵事務所の所員である加藤ありさが来るからです。


「ありさが来るなら、全然ご機嫌にはならねえよ!」


 左京は人違いをした地の文に抗議しました。


 ああ、そうでした。巨乳で美人で、ちょっと天然気味の斎藤真琴が来るからご機嫌なのでしたね。


 樹里が実家に帰った途端、浮気を敢行する左京です。


「違う! 著しく違う!」


 涙ぐんで地の文の捏造を否定する左京です。


「真琴ちゃん、あ、いや、斎藤さんは新年の挨拶に来るだけで、家には寄らないで帰るんだよ!」


 左京はちょっとした言い回しで、事実を捻じ曲げました。


 本当は家で合流し、デートに出かけるのです。


「それも著しく違う!」


 今度は血の涙を流して断固として否定する左京です。


「所長、どうしたんですか?」


 左京が一人でコントを繰り広げていたので、その斎藤真琴が到着してしまいました。


「あ、ま、真琴ちゃん、いらっしゃい」


 左京は晴れ着を着ている真琴に見とれながら言いました。


「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


 真琴は深々と頭を下げましたが、着物なので、胸が揺れるのがわからないのが残念な左京です。


「そ、そんな事は思っていねえぞ!」


 図星を突かれ、ひどく動揺しながら地の文に切れる左京です。


「ちょっと寄っていくかい?」


 左京は冗談のつもりで言ってみましたが、


「はい、そのつもりでしたから」


 真琴が呆気なく承諾したので、嫌な汗が噴き出しました。


「お友達も一緒にいいですか?」


 真琴が言ったので、左京はギクッとしました。


 もし、以前の浮気相手の女性弁護士だと、それはまずいと。


「思ってねえし、浮気もしてねえし!」


 続けざまに捏造を繰り返す地の文に切れる左京です。


「やっほー、松下さん。なぎさだよ」


 そこに現れたのは、樹里の親友の松下なぎさでした。相変わらず「名字間違い」ボケをぶっこんできます。


 なぎさも晴れ着で可愛いのですが、左京にはそんな事はどうでもよくなっています。


(どうしてこの人が真琴ちゃんと友達なんだ?)


 更に別の意味で嫌な汗が噴き出す左京です。


「さ、上がって、真琴ちゃん。遠慮しないで」


 左京より先になぎさが玄関のドアを開け、真琴を通してしまいました。


(大丈夫か?)


 すごく心配にな左京は、項垂れたままで家に入りました。




 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ