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樹里ちゃん、家族で新年を迎える

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 出産が近く、しかも、殺し屋に命を狙われている樹里は、五反田氏の勧めもあり、早めの産休を取りました。


 有給なので、不甲斐ない夫の杉下左京もホッとしました。


「うるせえ!」


 本音をバラされた左京は、理不尽に地の文に切れました。


 ですから、昭和眼鏡男と愉快な仲間達、そして、保育所の男性職員の皆さんは登場しません。


「何故ですかあ!?」


 どこかで抗議の声を上げる眼鏡男達と男性職員の皆さんです。


「そうなんですか」


 それでも、樹里は笑顔全開で応じました。


 長女の瑠里と次女の冴里も、保育所が冬休みに入ったので、まだ寝ています。


「今日は、左京さんのお仕事のお手伝いをしますね」


 樹里は全く悪気なく、笑顔全開で告げました。


「そうなんですか」


 左京は引きつり全開で樹里の口癖で応じました。


 左京の探偵事務所は、閑古鳥すら鳴かない程の開店休業状態なので、手伝う必要はないと思う地の文です。


「手伝わなくても大丈夫ですね」


 樹里があっさりと前言撤回したので、


「ううう……」


 大きく項垂れてしまう左京です。


「斎藤真琴さんがいらっしゃいますから」


 樹里は笑顔全開で、左京の心臓が止まりそうになる事を言いました。


 斎藤さんとは、新しく探偵事務所で雇った若くて美人で巨乳な事務員です。


「あははははは……」


 左京は顔を引きつらせたまま、嫌な汗全開で乾いた笑いで応じました。


(樹里に疑われているのか?)


 左京はヘボ推理を展開しました。そして、


「真琴ちゃん、あ、いや、斎藤さんには休みを取ってもらったんだよ。あんな危険な事があったからね」


 言い訳がましい事を告げました。


 あんな危険な事というのは、左京が斎藤さんを押し倒した事を言っています。


「違う! やめろ!」


 真実を話した地の文に切れる左京です。


「真実の欠片もねえだろ!」


 血の涙を流して切れる左京です。


 本当は、左京が正体不明の殺し屋に命を狙われたのでした。


「そうなんですか?」


 樹里は首を傾げて応じました。


(可愛い!)


 自分の妻の仕草に欲情してしまう変態夫の左京です。


「可愛いんだから、仕方ねえだろ!」


 遂に開き直る左京です。


「だから、手伝ってくれるとありがたいんだけど」


 左京は何故か恥ずかしそうに樹里に言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「では、朝食を食べたら、事務所に行きましょう」


 樹里は食事の準備を始め、左京は瑠里と冴里を起こしに行きました。


 


 結局、朝食がすんだ後、


「るりもいくう!」


「さーたんもいくう!」

 

 娘二人に可愛く甘えられた左京は、デレデレしながら、自宅の横にある事務所へ、渡り廊下を通って行きました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で瑠里と冴里と手をつなぎ、左京の後ろを歩きました。


(幸せだなあ)


 左京は柄にもない事を思いました。似合わないと思う地の文です。


「うるせえよ!」


 正しい事を言ったはずの地の文に切れる心が狭過ぎる左京です。


 そして、さして仕事がないので、仕事はあっさり片づき、すぐに自宅に戻る事になりました。


「つまんない! もっとおしごとしたいー!」


「したいー!」


 瑠里と冴里も、全く悪気なく、左京の心をえぐるような事を言い放ちました。


「くうう……」


 あまりの衝撃に、左京は四つん這いになってしまいました


「瑠里、冴里、聞き分けのない事を言ってはいけません」


 樹里が真顔で言ったので、瑠里と冴里はピクンとしました。


「ごめんなさい、ママ」


 泣きそうな顔で樹里に謝る瑠里と冴里です。


(樹里、怖いよお)


 実は左京もビビっていました。


 


 自宅に戻った樹里と左京は、大掃除を始めました。


 まだ新築なので、それ程汚れてはいませんが、四人で住むには広過ぎる造りなので、それなりに重労働です。


「左京さん、お風呂場をお願いします。私は二階の掃除をしてきますね」


 お腹がせり出してきている樹里が笑顔全開で告げたので、


「樹里は身重なんだから、休んでいてくれ。後は俺が全部やるから」


 左京は苦笑いして、樹里を引き止めました。


「そうなんですか? 母は私を産む直前まで働いていましたよ」


「頼むよ、樹里」


 それでも左京は折れず、樹里は仕方なく居間に戻り、瑠里と冴里に絵本を読む事にしました。




 左京は汗だくになり、風呂場と二階の掃除を終えました。


「後は事務所の掃除だな」


 渡り廊下を歩いて行くと、ポリバケツを片手に持った樹里が戻ってきました。


「あれ、樹里、どうしたんだ?」


 ちょっと嫌な予感がした左京は尋ねました。すると樹里は、


「瑠里と冴里が眠ってしまったので、事務所のお掃除をしてきました」


「ええ?」


 左京が二階を掃除している間に、樹里は瑠里と冴里に絵本を読み、事務所の掃除もしてしまったようです。


(さすがメイドだな。仕事が早い)


 樹里が掃除をしてしまったのは左京にとっては残念でしたが、仕方がないと諦めました。


「じゃあ、後はキッチンと居間の掃除だね」


「それも終わりましたよ」


 樹里は笑顔全開で告げました。


「そうなんですか」


 引きつり全開で樹里の口癖で応じるしかない左京です。


「すると、残りは年越しそばを茹でで、昼食と夕食の準備か?」


 左京は回れ右をして自宅に向かい始めました。


「それも終わりましたよ。後は食べるだけですよ」


 樹里は事も無げに笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 項垂れ全開で応じる左京です。


 


 そして、夕食もすみ、家族団欒の時間です。召使いの左京はおいとましました。


「召使いじゃねえよ!」


 地の文の年末ジョークに切れる左京です。


 瑠里と冴里は、お昼寝をたっぷりしたので、夜が更けても元気いっぱいです。


 いつもなら、樹里が真顔で叱って寝させるのですが、大晦日なので、特別に起きていていい事になりました。


 それでも、さすがに午後十一時を過ぎると、冴里は居眠りを始め、


「さーたん、まだねちゃダメだよ」


 そんな妹を必死になって起こそうとする瑠里も、目をこすり始めました。


「もう寝るか、瑠里?」


 左京が苦笑いして尋ねると、


「ねらいよ! かうんとらうんをきいてから、めるんだよ!」


 口が回らなくなってきているにも関わらず、強がりを言う瑠里です。


「そうか。じゃあ、頑張れ」


 左京は瑠里の頭を撫でて言いました。そして、娘二人はとうとう眠ってしまいました。


 いつしか時刻は十一時五十七分を過ぎ、残りわずかになりました。


「明けましておめでとうございます!」


 テレビの向こうから、樹里も馴染みのあるテレビ夕焼の松尾彩アナウンサーが呼びかけました。


 まだ、DTBの安掛一郎アナと付き合っているのでしょうか?


「付き合っていません!」


 テレビの向こうで切れる松尾アナです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。そして、


「あけましておめでとうございます、左京さん。今年もよろしくお願いしますね」


 そう言って、左京に口づけしました。


「よろしくお願いします」


 おたおたしながら、口づけを返す左京です。


 


 めでたし、めでたし。

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