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樹里ちゃん、左京を殺し屋に狙われる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里が働いている五反田邸にしばらくぶりに元河童の神戸蘭が来ました。


「しばらくぶりに前世の話をしないでよ!」


 唐突に過去をほじくり返した地の文に切れる蘭です。


 何年か前、樹里の不甲斐ない夫の杉下左京がまだ警視庁に在籍していた時、同僚の加藤真澄警部と共に政治家を逮捕した事がありました。


 その政治家が刑期を終えて出所し、左京に殺し屋を差し向けたと蘭が樹里に伝えに来たのです。


 わざわざ足を運んで伝えるなんて、どこまでアナログ人間で、暇人なのだろうかと思う地の文です。


「うるさいわね!」


 事実をありのままに指摘した地の文に切れる蘭です。


「その写真は貴女にあげるから、顔をよく覚えて、もし、見かけたら、すぐに連絡を頂戴」


 蘭は殺し屋二人の写真を樹里に手渡しました。


「そうなんですか」


 そんな緊迫した話なのに笑顔全開で応じる樹里に前回に引き続き、イラッとしてしまう蘭です。


「こちらの男の人はどこかで見た事がある気がします」


 樹里が言いました。蘭は肩をすくめて、


「私も見た事があるなあって思ったんだけど、それ、多分、加藤君よ。強面こわもてなところがそっくりでしょ?」


「ああ、バ加藤さんに似ているのですね」


 樹里は笑顔全開で応じました。蘭は苦笑いして、


(加藤君、樹里の記憶には、「バ加藤」で固定されているみたいね)


 加藤を哀れに思った無駄に巨乳の蘭です。


「無駄じゃないわよ! 子供に授乳したわよ!」


 一人娘のつかさがいる事を強調し、巨乳は伊達ではない事を叫ぶ某ア◯ロのような蘭です。


「女性の方は、ドロントさんに似ていますね」


 樹里は全く悪気なく言いました。すると蘭はプッと噴き出し、


「確かにね。貧相な胸なんか、そっくりよね」


 応接間のドアの向こうで、その当人である有栖川倫子ことドロントが聞き耳を立てている事も知らずに大笑いしました。


(あの無駄に巨乳警部め!)


 両手をギュウッと握り締め、蘭を呪う気満々の倫子です。


「違いますよ、蘭さん。黒いつなぎがそっくりなんですよ」


 樹里が真顔で否定したので、


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で応じてしまう蘭です。


「ヌート、気になるわ。調べて」


 倫子は一緒に聞いていた住み込み医師の黒川真理沙ことヌートに言いました。


「はい、首領」


 真理沙はスッとその場を離れました。


「樹里さん、大丈夫ですかね? 神戸警部じゃ、心許ないですよ」


 もう一人のメイドの目黒弥生ことキャビーが不安そうに言いました。


「あんたがついてあげなさい。殺し屋となると、どんな手で近づいてくるかわからないから」


 倫子は真顔で告げました。


「はい、首領」


 弥生も真顔で応じました。


 何だか、しばらくぶりにサスペンス調なので、ドキドキが止まらない地の文です。


 


 その頃、浮気の調査依頼を受けた左京は、もう一度調査対象である男の写真を見ていました。


(どうしても、こんな顔の夫が浮気ができるとは思えない)


「所長」


 新しく採用された真琴という女性が左京に声をかけましたが、左京は反応しません。


「所長!」


 ムッとした顔で近づいた真琴は、左京の耳元で大声で言いました。


「ひい!」


 びっくりした左京は、椅子から転げ落ち、腰を強く打ってしまいました。


「真琴ちゃん、耳元で大きな声を出さないでくれ」


 腰をさすり、机に掴まって何とか立ち上がる左京ですが、


「だって、呼んだのに無視するんですもの。聞こえないのかなって思ったんですよ、所長」


 真琴は、その暴力的とも言える大きな胸をユッサユッサ揺らして、左京の机をバンと両手で叩きました。


「あ、所長って、俺の事?」


 そこでようやく気づくポンコツオヤジです。


「誰が出◯◯朗だ!」


 実名を出して誹謗中傷するまるで◯◯◯◯のような左京です。


「そうですよ。探偵事務所のボスなんですから、所長でしょ?」


 今度はニコッとして応じ、上体を反らせて、またユッサユッサと胸を揺らす真琴です。


「そうなんですか」


 左京はついつい真琴の巨乳に見入ってしまい、樹里の口癖で応じました。


「コーヒー、淹れますねえ」


 真琴はニコニコしたままで、給湯室に行きました。左京はその後ろ姿を見ながら、


「真琴ちゃん、何度も念を押すようだけど、本当に無給でいいの?」


 すると真琴は給湯室から顔だけ覗かせて、


「いいんですよ。所長は私の命の恩人なんですから、お給料なんて要りませんよ」


 右目でウィンクをしたので、左京は顔を赤らめてしまい、


「そ、そうなんだ……」


 嫌な汗を背中に大量に流しました。


龍子りょうこの事は心配しなくて大丈夫ですよ。何も言ってませんから」


 小首を傾げて微笑み、また給湯室に消える真琴です。


「そ、そうなんだ……」


 左京の汗が尋常ではなくなりました。


 龍子とは、左京の浮気相手と言われている坂本龍子弁護士です。


 左京が五反田駅前のビルに事務所を構えていた時、同じビルの最上階に事務所と住居を持っていた人です。


「浮気相手じゃねえよ!」


 地の文の正確な解説にイチャモンをつける左京です。


(確か彼女、俺が事務所を引き払ってからまもなく、あのビルから引っ越したって聞いたな)


 坂本弁護士は、昔、左京が命を助けた事がある女性なのです。しかも、どういう事なのか、左京に惚れています。


「どういう事なのかって、どういう意味だよ!?」


 地の文の絶妙な言い回しに何故か切れる左京です。


(その後の事は情報が入ってこないから、何もわからないんだよな)


 左京は腰をさすりながらゆっくりと椅子に座りました。


 どうやら、また不倫がしたいようです。


「違うよ!」


 更に嫌な汗を掻き、地の文の名推理を全力否定する左京です。


「龍子の今の住所、知りたいんですか、所長?」


 妙に鋭い真琴が、ニヤニヤしながらコーヒーカップを載せたトレイを持って戻ってきました。


「おっとっと!」


 かかとの高い靴を履いているせいなのか、真琴がよろけました。


「危ない!」


 左京は腰の痛みを忘れ、真琴を助けるために駆け寄りました。


 その瞬間、左京の真後ろにあった窓ガラスが割れ、左京が座っていた椅子に二本の手術用のメスが突き刺さりました。


「何だ?」


 左京は真琴を支えて給湯室に避難させ、割れた窓ガラスからソッと外を見ました。


 しかし、そこには隣の家の壁が見えているだけで、誰もいませんでした。


(どういう事だ?)


 何も事情を知らない左京は、恐怖のあまり、漏らしてしまいました。


「漏らしてねえよ!」


 捏造を繰り返す地の文に切れる左京です。

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