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樹里ちゃん、左京に仕事が入った事を喜ぶ

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 上から目線作家の大村美紗の愛娘であるもみじと日本最大手のホームセンターグループである内田ホームの社長の息子の京太郎との結婚式と、女優時代に交流のあった二枚目俳優の加古井かこいおさむと人気女優の稲垣琉衣の結婚式の日取りも無事解決し、どちらも樹里が出席して事なきを得ました。


「ううう……」


 そのせいで、不甲斐ない夫の杉下左京は、若かりし頃、いろいろとお世話になった元アイドルの森山千種と会えなくなり、がっかりしました。


「いろいろと語弊のある言い方をするな!」


 顔を真っ赤にして正しい事しか言っていない地の文に切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


「樹里、森山さんは、俺が若い頃ファンだったというだけで、別に今は何とも思っていないからな」


 嫌な汗をしこたま掻きながら、左京は必死になって樹里に言い訳しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。ある意味、一番怖いリアクションだと思う地の文です。


「ひいい!」


 左京は地の文の予想通り、震えあがりました。


「では、行ってきますね、左京さん」


 樹里はいつものように笑顔全開で出勤です。


「樹里、寒くなってきたし、そろそろ仕事を休まないか? 心配だよ」


 左京が心にもない事を言いました。


「そんな事はない!」


 捏造王の地の文に切れる左京です。


「大丈夫ですよ」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。左京は涙ぐんで、


「俺は樹里の身体が心配なんだよ」


 樹里の手を包み込むように握りました。


「左京さん……」


 樹里も涙ぐんで左京を見つめました。


 このお話には似合わない感動シーンなので、面白くない地の文です。


「でも、私が仕事を休むと、家計が苦しくなってしまいます」


 樹里が悲しそうな顔で真実を告げたので、もう少しで心臓が止まりそうになった左京です。


(俺が不甲斐ないから、樹里に苦労をかけているんだった……)


 今更ながら、自分が愚か者だったのを思い知る左京です。


「そうでしたね……」


 顔面蒼白になり、樹里から手を放す左京です。


「では、瑠里と冴里の事、よろしくお願いしますね」


 樹里は再び笑顔全開になりました。


「はい……」


 引きつり全開で応じる左京です。


「樹里様にはご機嫌麗しく」


 そこへ昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。


 長女の瑠里と次女の冴里の姿が見えないので、キョロキョロしている瑠里信者と冴里信者の隊員達です。


 警察に通報した方がいいと思う地の文です。


「我らはそのようなよこしまな考えなど持ってはいない!」


 挙動不審過ぎる程動揺して否定する隊員達です。


「瑠里と冴里は外が寒いから、家の中にいるよ」


 左京に真相を告げられ、ギクッとする隊員達ですが、


「そうなんですか」


 嫌な汗を掻きながらも、樹里の口癖で応じ、うまく誤魔化しました。


「樹里を頼んだぞ」


 左京は眼鏡男に顔を近づけ、囁きました。


「言われるまでもありません。樹里様の御身は、我が命に代えてもお守りする所存です」


 眼鏡男は左京を見て力強く語りました。


 左京と眼鏡男は、大きく頷き合い、お互いに樹里への熱い思いを再認識しました。


「はっ!」


 その時、ある事に思い至った二人は我に返りました。


「やっぱり……」


 予想通り、樹里と隊員達は、左京と眼鏡男を残し、JR水道橋駅へと向かっていました。


(ああ、この変則的な放置プレー……。五臓六腑に染み渡る……)


 感動に打ち震えている眼鏡男です。


「樹里……」


 放置プレーにあまり慣れていない左京は項垂れ全開です。すると、


「パパ、いってくるね!」


「パパ、いてくるね!」


 瑠里と冴里が言いました。


「え?」


 キョトンとした顔で二人の声がした方を見た左京は、思わぬ情景に目を疑いました。


「では、瑠里ちゃんと冴里ちゃんをお預かり致します」


 保育所の男性職員の皆さんが、園児バスで登場していました。


「最近、この付近で不審者情報が頻発しておりますので、お迎えにあがりました」


 男性職員の一人が告げました。


「そうなんですか」


 走り去る園児バスを呆然と一人で見送る左京です。


「はあ……」


 大きな溜息を吐き、家に戻ろうとした左京ですが、


「あの、杉下左京探偵事務所を探しているのですが、ここでいいのでしょうか?」


 後ろから女性に声をかけられました。


「はい?」


 振り返ると、そこには左京の好みとは真逆の胸の貧相な細身の若い女性が立っていました。


「誤解を招く言い方はよせ!」


 真実をありのままに告げたはずの地の文に理不尽に切れる左京です。


「あの……?」


 女性は胸を手で胸を隠すようにして、不審そうな顔で左京を見ています。


「ああ、すみません、そうです、そうです。ここが杉下左京探偵事務所です」


 左京は慌てて革ジャンのポケットから折れ曲がった名刺を取り出しました。


「私が杉下左京です」


 女性は名刺を覗き込み、左京の顔を見ました。そして、恐る恐るそれを受け取ると、


「実は、夫が浮気しているらしいので、その調査を依頼したいのですが」


「そ、そうでしたか。ここで立ち話も何ですから、事務所へどうぞ」


 左京は門扉を押し開き、玄関ではなく、事務所の入り口のドアの方へと女性を案内しました。


「あ、はい」


 それでもまだ女性は左京を不審そうな顔で見ていました。


 


 樹里は、いつものように無事に五反田邸に到着しました。


「では、樹里様、お帰りの時、また」


 眼鏡男達は敬礼して去って行きました。


「ありがとうございました」


 樹里は深々とお辞儀をしました。そして、メールの着信音に気づき、携帯をバッグから取り出しました。


 それは左京からのものでした。


 浮気調査で、報酬はいくらでも出すという依頼が入ったというこれ見よがしなメールです。


「そうなんですか」


 樹里はすぐに、


「よかったですね。頑張ってください」


 返信メールを送りました。


 


 さて、また波乱の予感がする地の文です。

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