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樹里ちゃん、結婚式の出席を無事解決する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 人間関係が多岐に渡っている樹里は、上から目線作家の大村美紗の愛娘であるもみじと、日本最大級のホームセンターを経営している内田ホームの社長の息子である内田京太郎との挙式・披露宴、若手二枚目俳優の加古井かこいおさむと人気女優の稲垣琉衣の挙式・披露宴に招待されました。


 奇しくも、双方の式の日程が重なり、樹里はその事を不甲斐ない夫の杉下左京に相談しました。


 左京は、最初のうちはもみじと京太郎の結婚式に出席すべきだと主張していましたが、加古井と琉衣の結婚式にかつてのアイドルである森山もりやま千種ちぐさが出席すると知り、突如としてそのスケベな本性を剥き出しにして、


「俺が出席する!」


 目を血走らせて言い放ちました。


「語弊がある言い方をするな!」


 血の涙を流して、正直な地の文に切れる左京です。


 すると樹里は、


「では、左京さんがもみじさん達の挙式・披露宴に出席してください。加古井さんと稲垣さんの方がは、私が出席します」


 左京のよこしまな心を見破ったかのような結論を下しました。


 正義は必ず勝つと思った地の文です。


「俺は悪じゃねえよ!」


 更に血の涙をだだ漏れにして切れる左京ですが、貴方が悪であろうとなかろうと、滅びる対象である事には代わりないと断言する地の文です。


「くうう……」


 完全に急所を突かれた形の左京は、四つん這いになって項垂れました。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


 


 その数日後の事です。


 美紗は自宅の居間の高級革張りのソファでくつろいでいました。


 寛ぐとは言っても、上から目線のおばさんですから、のけ反っている状態なのは言うまでもありません。


(今、悪口を言われたような気がするけど、気にしてはダメ! 反応してもダメ! 病気に勝つにはそれが一番なのよ!)


 美紗は新しく主治医になった心療内科の担当医の言いつけを思い出し、必死にえていました。


 その担当医を探し出して、呪ってやりたいと思う地の文です。


 すると、


「お母様、樹里さんから返事が届きました」


 もみじが一枚の往復はがきの返信部分を持って入ってきました。


「あらそう? 当然出席よね。樹里さんがあれ程の人気女優になったのは、私が目をかけたお陰なのですからね」


 これ以上のけ反ったらソファごと後ろにそっくり返ってしまうと思われる状態になる美紗です。


「出席はされるそうですけど、ご主人の杉下左京さんがおいでになるそうよ」


 もみじは苦笑いして告げました。すると美紗はピョンと跳ねるようにして立ち上がり、まさしく鬼の形相になりました。


「どうしてあんなヘボ探偵が代理出席なのよ!? 私をバカにしているのね、樹里さんは! もう私が落ち目の作家だと見下しているのね!?」


 美紗は左京を的確に評価しながらも、樹里の欠席理由を酷い妄想でヘボ推理しました。


「代理出席ではないわ、お母様。私達は、杉下ご夫妻をご招待したのだから」


 今にも本物の鬼になってしまいそうなくらい激怒している美紗をなだめようとするもみじです。


「それは建前よ! あんなヘボ探偵、樹里さんのおまけみたいなものでしょ! すぐに樹里さんに連絡して! 欠席の理由を問い質すから!」


 美紗はますますヒートアップし、もみじに怒鳴り散らしました。


「理由は私が聞いたわよ。同じ日に俳優の加古井理さんと女優の稲垣琉衣さんの結婚式があるので、そちらに出席するそうなの」


「何ですってええええええ!?」


 美紗の怒りが更にボルテージを増しました。もみじは機先を制するように、


「そちらの式は、樹里さんだけが招待されているので、そちらに出席するそうよ」


「そっちこそ、おまけのヘボ探偵を出席させなさいよォッ!」


 美紗はすでに自分が何を言っているのかわからないくらい興奮しています。


 あと一息だと思う地の文です。もみじはフウッと溜息を吐き、


(最終兵器を出すしかないわね)


 やれやれという顔で、


「そちらには、加藤佐和子先生がご出席されるの。樹里さんと是非会いたいとおっしゃっているそうよ」


 加藤佐和子は美紗の小説の師匠で、この世で只一人、頭が上がらない人物です。


 しかも、佐和子を式に呼ぼうとしたもみじに向かい、


「絶対に招待してはダメ!」


 佐和子には内緒で式の日程を決めたのです。


「樹里さんには、加藤先生に欠席の理由を連絡してもらわないとならないわね」


 ドヤ顔で言うもみじです。美紗の怒りが急速に解け、顔は引きつり全開になりました。


「そ、そういう事なら、仕方がないわねえ」


 棒読み全開で応じる美紗です。


「納得してくれた、お母様?」


 笑いを噛み殺しながら尋ねるもみじです。美紗はソファに座り直して、


「納得しました。それより、あの子は大丈夫なんでしょうね?」


 不意に話題を変えてきました。もみじも慣れたもので、


「なぎさお姉ちゃんは、樹里さんと同じく、加古井さん達の式に出席するそうよ」


「何ですってえええええ!?」


 またピョンと立ち上がる美紗です。


「なぎさお姉ちゃんにも、こちらの式に出席するように頼んだ方がいい?」


 もみじはニヤリとして意地悪な質問を繰り出しました。


「そんな連絡、する必要はありません!」


 プイッと顔を背ける美紗です。


「わかりました」


 もみじは堪え切れなくなり、笑い出してしまいました。


「何がおかしいの、もみじ!?」


 ムッとしてもみじを睨みつける美紗です。


 


 そして、更にその数日後の事です。


「左京さん、どちらの結婚式も、私が出席する事にしました」


 帰宅するなり、樹里が告げました。


「そうなんですか?」


 キョトンとした顔で、樹里の口癖で応じる左京です。


「加古井さんと稲垣さんの式の出席者のほとんどが、もみじさん達の式に出席するのを理由に欠席になったので、日程を組み直すのだそうです」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 更にキョトンとして応じる左京です。


 


 一方、大村邸では……。


「加藤先生が、是非出席させて欲しいと連絡をくださったわよ、お母様」


 もみじの報告に美紗はその場で卒倒したそうです。


 


 めでたし、めでたし。

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