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樹里ちゃん、結婚式の招待状をもらう

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、遂に名声を残して引退したママ女優でもありました。


「では、行ってきますね、左京さん、瑠里、冴里」


 樹里は普段通りの笑顔全開で告げました。


「行ってらっしゃい」


 どこか悲しそうな雰囲気を漂わせた不甲斐なさなら右に出る者はいないと言われて四十年の杉下左京は応じました。


 樹里が女優を引退したので、今までの理想的なヒモ生活が謳歌できなくなったからのようです。


「違う! 断じて違う!」


 某アニメの某進君のモノマネで切れる左京です。


 相変わらず昭和全開だと思う地の文です。


「余計なお世話だ!」


 更に切れる左京です。


「いってらっしゃい、ママ!」


 長女の瑠里は、ますますママに似てきた笑顔全開で応じました。


「いてらしゃい、ママ!」


 次女の冴里も、お姉ちゃんに負けずに笑顔全開で応じました。


「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」


 そこへ、いつも通りの間の抜けた登場をする昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「今後ともよろしくお願い致します」


 何故か眼鏡男達は、地の文のボケに無反応です。


「我らがどれだけ長い間、樹里様の警護をしてきたと思っているのですか?」


 勝ち誇った顔で言い放つ眼鏡男です。


 どうやら、対地の文の策として「無視」を選択したようです。


 敵ながらあっぱれだと思うと共に、言いようのない寂しさを感じる地の文です。


 でも、女の子ではないので泣きません。


 樹里は眼鏡男達と共に、いつものようにJR水道橋駅に向かって歩き出しました。


「パパ、いくよ」


 左京は瑠里と冴里に促され、デレデレしながら、保育所に向かいました。


 こうして娘達に関われるのも、あと二年くらいで、そこから先は、


「パパ、臭いからそばに来ないで」


 そんな非情な言葉を浴びせられ、家庭内でどんどん孤立していくだけだと思う地の文です。


「やめろー!」


 自覚しているだけに、リアリティのある未来を予測してみせた地の文に血の涙を流して切れる左京です。


「ワンワン!」


 そんな左京の心の中を察したのか、ゴールデンレトリバーのルーサが吠えました。それはまるで、


「お前の事は俺が最後まで面倒見てやるよ」


 そんな風に慰めているように聞こえました。


「ううう……」


 飼い犬に慰められ、夫としてのメンツも、父親としてのプライドもズタズタにされ、首が折れるくらい項垂れる左京です。




 樹里は何事もなく、無事に五反田邸に到着しました。


「それでは樹里様、お帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼して立ち去りました。


「ありがとうございました」


 その後ろ姿に深々と頭を下げる樹里です。


(これがまさに至福のひと時)


 眼鏡男達は震える程喜んでいました。変態道まっしぐらだと思う地の文です。


 眼鏡男はノーリアクションで立ち去りました。


 それでも負けない地の文です。


「樹里さん、おはようございます」


 そこへ元エロメイドの目黒弥生が現れました。


「おはようございます、弥生さん」


 眼鏡男だけではなく、弥生にまで無視を決め込まれ、さすがに心が折れそうになる地の文です。


「今日、大村美紗先生のお嬢様のもみじ様が、婚約者の内田京太郎様とお見えになるとご連絡がありました」


 弥生は作り笑顔で告げました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。またしても弥生に無視され、放置プレー地獄に陥る地の文です。


 そんなブルーな気分の地の文をよそに、とっとと邸の中に入っていってしまう樹里と弥生です。


 今更ながら、左京や眼鏡男達や弥生には酷い事をしたと後悔する地の文です。


 


 樹里はメイド服に着替え、邸の掃除を始めました。弥生は朝食の後片付けです。


 するとそこへ、年増の家庭教師がやってきました。


「うるさいわね! 私はまだ三十一歳よ!」


 地の文のボケに過敏に反応してくれたまるで女神のような有栖川倫子です。


 本日只今から、熟女好きに転向する地の文です。


「だから、まだ熟女じゃないわよ!」


 また切れてくれる優しい倫子です。好きになってしまいそうな地の文です。


「それは気持ち悪いからやめて」


 冷静な顔で拒絶する倫子です。また心が折れそうになる地の文です。


「大村先生のお嬢さんがご結婚ですって? 何だか、焦ってしまうわ」


 苦笑いをして「私は結婚したいんだ」アピールをする倫子です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開、弥生は引きつり全開で応じました。


「お二人で、樹里さんに結婚式の招待状を持ってくるそうですよ」


 何となく一緒に行きたそうな雰囲気を醸し出している弥生ですが、


「そうなんですか」


 そういう雰囲気には全く気づかない樹里は笑顔全開で応じるだけです。


(樹里ちゃんにはこういう伝え方は無駄だった……)


 項垂れる弥生です。


 そんなコントみたいな事をしているうちに、もみじと京太郎の爽やかカップルがやってきました。


「おめでとうございます、京太郎さん、もみじさん」


 樹里は笑顔全開でお祝いの言葉を述べました。


「ありがとうございます、樹里さん。是非、結婚式にご出席ください」


 京太郎は爽やかにお礼を言って、招待状を手渡しましたが、もみじは、京太郎を食い入るように見ている倫子にギョッとしています。


「あの、何か?」


 京太郎も倫子の暑苦しい視線を感じ、微笑んで尋ねました。すると倫子ははにかみながら、


「京太郎さんには、お兄さんとかいらっしゃいます?」


 その質問にまたギョッとするもみじです。


(何訊いてるんですか、首領!?)


 ドン引きしている元部下の弥生です。


「いえ、僕は一人っ子なんです」


 また爽やかな笑顔で応じる京太郎に倫子はメロメロです。


(結婚式に忍び込んで、京太郎さんを奪っちゃおうかしら?)


 よからぬ事を妄想する倫子です。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


 


 めでたし、めでたし。

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