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樹里ちゃん、女優引退の記者会見に臨む

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、とうとう引退の記者会見を開く事になったママ女優でもあります。


 樹里の引退を聞き、樹里の親友で、同じく女優の上、作家活動もしている松下なぎさが、


「樹里が引退するなら私も引退する!」


 ギガどころか、テラ級の爆弾発言をしました。


 そのせいで、ロリコンの社長が発狂寸前です。


「ロリコンじゃないし、発狂寸前でもない!」


 やや勇み足だった地の文の発言に猛抗議する芸能事務所大手のオッカーの社長の山村豪です。


 昔、漫画を描いていた人ですよね?


「その豪じゃねえよ!」


 昭和の香りがプンプンするボケをかました地の文に鋭く突っ込みを入れる山村社長です。


「なぎささん、どうか思い留まってくれませんか? すでに貴女の新作小説の映画化も決まっていて、続編も決定しているのですよ?」


 山村社長は必死になって大人の事情を解説しましたが、


「そんな事、私のせいじゃないよ。豪ちゃんが勝手に決めたんでしょ?」


 なぎさは口を尖らせて反論しました。


「そうなんですか」


 樹里はこの状況にも関わらず、笑顔全開です。


(山村さん、なぎさちゃんにそういう話をしても、全く通用しないよ)


 なぎさとの付き合いが長い五反田氏は、苦笑いしています。


「えええ!? 松下さんも引退するんですか?」


 会見の時間になった事を告げに来た指紋が擦り切れる程の高速揉み手の達人であるプロデューサーが話を回りくどくするような発言をしました。


(今度は房総に別荘を発注してしまったのに、そんな事になれば、私の出世街道が!)


 身体中の汗腺から嫌な汗が噴き出すプロデューサーです。


「まさか、作家は辞めませんよね、松下さん?」


 そこへ更に、なぎさの小説を発刊している出版社の編集者が顔を引きつらせて登場しました。


 するとなぎさは編集者を見て、


「大丈夫だよ。作家は続けるから。私が作家を辞めちゃうと、大村の叔母様が悲しむの」


 ニコッとして言いました。


「そうなんですか」


 樹里とハモって応じる編集者はホッとした顔をしています。


(私は悲しまないわよ! だから、作家も辞めるって言いなさい、なぎさ!)


 柱の陰から鬼の形相で見ている上から目線作家の大村美紗です。


「記者会見の時間になりましたので、樹里さん、スタンバイしてください」


 事情が変わった事を知らない事務所関係者の男性が樹里を呼びに来ました。


「今はそれどころじゃないんだ! 会見は延期させろ!」


 半泣き状態で怒鳴る山村社長です。男性はびっくりして立ちつくしてしまいました。


「いえ、延期はしないでください。会見は時間通りに致します」


 樹里が笑顔全開で告げました。


「そうなんですか」


 山村社長とプロデューサーと五反田氏が樹里の口癖でハモりました。


「よし、行こう、樹里」


 引退する気満々のなぎさが樹里を促しました。するとそこへ、


「なぎささん、海流わたるが泣きやまないので、助けてください」


 やはり事情を知らないなぎさの夫である松下栄一郎が走ってきました。


「え? そうなの?」


 なぎさは樹里と栄一郎の顔を交互に見ました。


「なぎささん、貴女はまだ引退するなという事ですよ。海流君のところに行ってあげてください」


 樹里が笑顔全開で言いました。なぎさはニコッとして、


「うん、わかったよ、樹里。次は、一緒に引退会見しようね」


 奇妙な事を言い残して、栄一郎と共に海流がいる別室に向かいました。


「よかった……」


 山村社長とプロデューサーは顔を見合わせて溜息を吐きました。


(くうう! 何て事なのよおおお!)


 美紗は髪を掻きむしると、その場から駆け去りました。


 落ち着くところに落ち着いたと思う地の文です。


 


 樹里は笑顔で記者会見場である大会議室の演壇に登壇しました。


「予定の時刻を若干過ぎましたが、御徒町樹里さんがいらっしゃいましたので、会見を始めさせていただきます」


 司会を務めるのは、大日本テレビ放送の人気アナウンサーである安掛あんかけ一郎いちろうです。


 テレビ夕焼の人気女性アナウンサーの松尾彩に振られたのは内緒です。


「内緒にしとけよ!」


 涙ぐんだ目で地の文に切れる安掛アナです。


「付き合ってもいませんから!」


 どこかで切れる松尾アナです。


「それでは、テレビ、映画と大活躍された人気女優の御徒町樹里さんの引退記者会見を始めます。司会の安掛一郎です」


 安掛が型通りの挨拶をしました。


「うるさいよ!」


 いちいちチャチャを入れる地の文にまた切れる安掛アナです。


 決して、竹内◯子とは関係ありません。


「では、御徒町さん、どうぞ」


 安掛アナは気を取り直して、樹里に告げました。


 樹里はまず深々と一礼してから、


「本日は私のような者のためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。私の個人的な都合で、このたび、女優を引退する事となりました事を、ここにご報告致します」


 記者達を見渡しながら、言いました。その目は涙で光っています。すでにもらい泣きしているおバカな記者もいるようです。


「樹里さん、引退の理由をお聞かせください」


 一人の男性記者が言いました。樹里はその記者を見て、


「三女を妊娠しましたので、引退を決意しました」


 会場全体がざわつきました。すると年増の女性記者が、


「三女? もう女の子とわかっているのですか?」


 くだらない質問をしました。


「うるさいわね! それに年増って何よ!」


 二重に地の文に切れる女性記者です。


「私の家系は、女の子しか生まれないのです」


 樹里は笑顔全開で応じました。また会場がざわつきました。


「以前にも、妊娠がわかった時に引退されましたが、その後復帰なさいましたよね? また同じパターンですか?」


 三角眼鏡の嫌らしい顔つきの男性記者が尋ねました。多分、センテンススプリングの人だと思う地の文です。


「違うよ!」


 ハタ迷惑な思い違いをした地の文に切れる三角眼鏡の記者です。


「いえ、もう復帰は致しません」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「本当ですか?」


 更に嫌味な笑みを浮かべて尋ねる三角形記者です。


「三角眼鏡の記者だよ!」


 地の文のちょっとした言い間違いに激ギレする三角眼鏡の記者です。


「私が女優を続ける事で、家族や周りの皆さんに多大な迷惑をおかけしているので、もう決して復帰する事はありません。メイドの仕事に専念する所存です」


 そんな厳しい質問にも、樹里は笑顔全開で応じました。


「そうなんですか」


 その神対応に思わず樹里の口癖で応じてしまう三角眼鏡の記者です。


「今まで、本当にありがとうございました」


 樹里はもう一度深々と頭を下げました。


(樹里、本当に完全に引退しちゃうのか……)


 樹里の引退を誰よりも悲しんでいるのは、会見をテレビで見ている不甲斐ない夫の杉下左京でした。




 めでたし、めでたし。

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