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樹里ちゃん、歴史ドラマの最後の撮影にゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、もうすぐ引退してしまうママ女優でもあります。


「では、行って参りますね、左京さん、瑠里、冴里」


 樹里はいつものように笑顔全開で告げました。


「気をつけて行ってくるんだぞ、樹里」


 不甲斐ない夫の杉下左京でしたが、今日からは晴れて樹里の家の使用人になりました。


「違う! 俺は樹里の夫だ!」


 ストーリー展開を勝手に変更した地の文に切れる左京です。


「大丈夫ですよ、左京さん」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「そうなんですか」


 左京は引きつり全開で応じました。


「いってらっしゃい、ママ!」


 今月の十一日で五歳になった長女の瑠里は、樹里にますます似てきて、笑顔全開も瓜二つです。


「いてらしゃい、ママ!」


 ますますお姉ちゃんと張り合う気満々の次女の冴里も、更に樹里に似てきています。


(あと何年かすると、俺は瑠里と冴里の見分けがつかなくなるかもしれないな)


 そんな妄想を展開し、涙ぐむ左京ですが、その頃には、晴れて樹里とは離婚しているので、何の心配もいらないと思う地の文です。


「どこが晴れてだ! 離婚は断じてしねえよ!」


 未来が見える地の文にまたしても切れる左京です。


「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」


 そこへ久しぶりにまともな登場をする事ができた昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。


「おはようございます」


「おはよう、たいちょう!」


「おはよ、たいちょ!」


 笑顔全開の三重奏を見て、感動の涙を流す眼鏡男達です。


 多分、見納めだと思うので、じっくり見ておけばいいと思う地の文です。


「どういう意味ですか!?」


 地の文の親切な指摘に理不尽に抗議する眼鏡男達です。


「はっ!」


 我に返ると、いつものように樹里はJR水道橋駅に向かっており、瑠里と冴里は知らないおじさんと共に保育所に向かっていました。


「知らないおじさんじゃねえよ!」


 ちょっとした言葉遊びをしただけの地の文に激ギレする心の狭い左京です。


(ああ、しばらくぶりの放置プレー……。五臓六腑に染み渡る……)


 相変わらず思考が変態的な眼鏡男達です。


 


 今日は樹里は、日本テレビ協会(NTK)で来年放映予定の歴史ドラマの最後の撮影に向かいます。


 ですから、いつもとは違い、池袋へと向かいます。


 歴史ドラマの主役が謙虚にも電車に乗るという展開に涙を禁じ得ない地の文です。


「あ、御徒町樹里さんだ! 握手してください」


 電車の中で、女子高生の一団が樹里に気づき、近づいてきました。


「そういう事はご遠慮願います」


 眼鏡男達が立ち塞がりましたが、


「どきなさいよ、童◯!」


 禁句を言われ、フリーズしてしまう眼鏡男達です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で握手に応じ、サインにも応じました。


「あ、樹里さんだ!」


「あ、樹里ちゃんだ!」


「あ、樹里たんだ!」


 それを切欠きっかけに、車内は大混乱になりました。


「樹里様あ!」


 眼鏡男達は、樹里ファンに踏みつぶされてしまいました。


 


 そんな事がありましたが、樹里自身は何事もなく、無事にNTKに到着しました。


「樹里様がご無事で何よりです」


 満身創痍の眼鏡男達は、局の前で敬礼し、立ち去りました。


「ありがとうございました」


 樹里は深々と頭を下げ、眼鏡男達を見送りました。


「樹里さん、お待ちしておりました」


 そこへ担当プロデューサーの丹東たんとう斜男はすおがやってきました。


「お待たせして申し訳ありません」


 定番のボケをしっかりと決める樹里です。


「あ、いやそういう意味で言ったのではありませんので……」


 嫌な汗をハンカチで拭いながら、樹里を中へと誘導する丹東です。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


 樹里と丹東が撮影スタジオに入っていくと、


「樹里姉!」


 真里、希里、絵里の妹達が駆けてきました。


 その四人のそっくりさに慣れたつもりの丹東でしたが、眩暈めまいがしそうです。


 初めて四人が揃ったのを見た新人のADは卒倒しかけてしまいました。


「真里、希里、絵里、今までご苦労様」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「うん。私達も今日で撮影おしまいなんだ。何だか、名残惜しいね」


 一番上の妹である小学五年生の真里が涙ぐんで言いました。


(真里ちゃん、可愛い……)


 新人のADは実はそちらの世界の住人のようです。


「違います! 純粋に可愛いと思っただけです!」


 地の文の鋭い指摘に動揺が隠し切れずに反論するADです。


「撮影が終わりましたら、打ち上げがありますので」


 丹東が揉み手をしながら告げました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


「そうなんですか」


 真里と希里と絵里も樹里と寸分違わぬ笑顔で告げたので、また気を失いかけるADです。


(樹里さんは引退だが、妹さん達はこれからだ。楽しみだな)


 丹東はニヤついて真里達を見ています。


 ここにもロリコンがいたと思う地の文です。


「違う! 断じて違う!」


 某アニメの古◯君のモノマネで地の文に切れる丹東です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里はなおも笑顔全開です。


 


 めでたし、めでたし。

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