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樹里ちゃん、瑠里と冴里を心配する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、もうすぐ引退するママ女優でもあります。


 先日、愛娘の瑠里と冴里が誘拐されるという大事件に見舞われた樹里でしたが、おばさんとお姉さんとエロメイドの活躍で事なきを得ました。

 

「誰がおばさんだ!」


「誰がエロメイドだ!」


 地の文の紹介にイチャモンをつける有栖川倫子のことドロントと、目黒弥生ことキャビーです。


 誰もいない空間に向かって叫ぶ二人を白い目で見ている黒川真理沙ことヌートです。


 


「では、行って来ますね、左京さん、瑠里、冴里」


 ドロント一味のコントをものともせず、樹里は笑顔全開で言いました。


「行ってらっしゃい」


 不甲斐ない夫だった杉下左京は、今日からは樹里の下僕です。長女の瑠里と次女の冴里を守るために命を捨てるつもりです。


「瑠里と冴里のためなら命も惜しまないが、下僕じゃねえよ!」


 ちょっと表現を大袈裟にしただけの地の文に切れる左京です。


 あれだけ樹里と瑠里と冴里に迷惑をかけたのに全く反省の色が見られません。


「ううう……」


 痛いところを思い切り強く突かれたので、四つん這いになってしまう左京です。


「いってらっしゃい、ママ」


「いてらしゃい、ママ」


 いつになく元気のない顔で応じる瑠里と冴里です。


「今日は保育所は休ませるよ」


 父親ヅラをした左京が言いました。


「父親なんだよ!」


 地の文の軽いジョークにも過敏に反応して切れる左京です。


 あのまま離婚してしまえばよかったのにと思う地の文です。


「くうう……」


 更に痛いところを突かれたので、仰向けになってもがき苦しむ左京です。


「熱が下がらないようでしたら、かかりつけのお医者様に連れて行ってくださいね」


 樹里が真顔で告げたので、


「畏まりました」


 左京は直立不動になって応じました。


(できれば樹里にも休んでほしい)


 左京は瑠里と冴里の面倒をみる自信がありません。


 やはり、あのまま……。


「やめろー!」


 もう一度痛いところを突こうとした地の文を事前に黙らせる左京です。


 樹里は後ろ髪を引かれるように出かけました。


(樹里も本当は休みたいんだよな)


 左京は自分が樹里の思いをすぐに感じ取れなかった事を恥じました。


 今更貴方が何を恥じ入る必要があるのですかと思う地の文です。


 瑠里と冴里は樹里が見えなくなるまで見送っていましたが、左京に促されて家に戻りました。


 そう言えば、いつも呼んでもいないのに登場する昭和眼鏡男と愉快な仲間達はどうしたのでしょうか?


 遂に自分達が役に立たない事に気づき、自ら降板したのでしょうか?


「違います!」


 地の文の勝手な憶測に切れる眼鏡男達です。


 実は眼鏡男達は苦しんでいました。


 先日、プラカードを持ってデモ行進をしたせいで、身体のあちこちにガタがきて、高熱を発してしまったのです。


(情けない。樹里様と瑠里様と冴里様に緊急事態が起こっていたのに駆けつけられないとは!)


 その事がショックだったのも手伝い、余計に熱が出てしまった案外虚弱体質な眼鏡男達です。


 このまま、降板するのが潔いと思う地の文です。


「あんまりですー!」


 血も涙もない仕打ちを口にした地の文に号泣して抗議する眼鏡男達です。


 瑠里と冴里も、樹里を見送って家に戻ると、急に力が抜けてしまったのか、ソファにぐったりと横になってしまいました。


「瑠里、冴里、部屋のベッドで寝ような」


 左京は瑠里と冴里を抱きかかえて立ち上がろうとしましたが、


「ぐおおお!」


 ぐったりしている瑠里と冴里が想像以上に重かったので、腰をやってしまったようです。


「ぬおおお……」


 そのまま動けなくなってしまった左京に気づいた瑠里は、


「どうしたの、パパ?」

 

 熱っぽい目で左京を見ました。


「どうちたの、パパ?」


 冴里は眠そうな目で左京を見ました。


「る、瑠里、救急車を呼んでくれ……」


 左京はジーパンのポケットに入っているスマホを目で示しました。


「うん、わかったよ、パパ!」


 瑠里は左京がつらそうなのは理解できたので、左京の腕をそっと振りほどき、ジーパンの尻のポケットに入っているスマホを抜き出しました。


「もしもし」


 瑠里が通話を開始した時、左京は何とか冴里をソファに下ろし、そのまま固まってしまいました。


「きゅうきゅうしゃさんですか?」


 瑠里は相手が出たので尋ねました。


(瑠里にはまだ無理だったか……)


 腰の痛みに堪えながら、項垂れる左京です。


「はい」


 瑠里は嬉しそうに通話を終えました。


「救急車は来てくれるのか?」


 左京は激痛に堪えながら、瑠里を見ました。すると瑠里は笑顔全開で、


「いま、いくって」


「そ、そうか」


 左京はホッとしましたが、激痛は治まってくれません。


「ふぐおおお……」


 奇妙な雄叫びをあげて、痛みに堪える左京です。でも、某首相は感動してくれません。


 ハッと顔を上げると、冴里がソファで眠っていました。


(いかん、こんなところに寝させて、熱が上がったりしたら、樹里に怒られる!)


 樹里が怒ると結構怖いのは身にしみて理解している左京は、何とか冴里を部屋に連れて行こうとしました。


 しかし、激痛のあまり、身体が全く動かせません。


「瑠里……」


 今度は瑠里に目を向けると、


「うん、あっちゃん、きょうるりはおやすみだよ」


 いつの間にか、ボーイフレンドである淳君とスマホで喋っていました。


(瑠里……)


 瑠里は間違いなく祖母である由里の遺伝子を受け継いでいると思った左京です。


 もうダメだと左京が思いかけた時です。


 誰かが玄関を開けて入ってくるのが聞こえました。


(まさか、救急車?)


 感動で涙ぐんでしまった左京ですが、


「何やってんの、左京? 新しい遊び?」


 入ってきたのは、元グウタラ所員の加藤ありさでした。


「どうしてお前が来るんだよ!?」


 涙を浮かべた目でありさを睨む左京です。ありさは左京の間抜けな姿を見て、


「瑠里ちゃんから電話があったのよ。間違い電話なのはわかったから、すぐ行きますってボケたら、切られちゃったの。で、すぐに折り返したんだけど、ずっと話し中だったから来てみたら……」


 こらえきれなくなって噴き出しました。そして更に、


「恥ずかしいな、左京! もしかして、ぎっくり腰? 何をやらかしたのよ、受けるゥッ!」


 腹を抱えて笑い出しました。


「笑うな!」


 悔しさと恥ずかしさと心細さでまた泣きそうになる左京です。


 


 めでたし、めでたし。

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