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樹里ちゃん、瑠里と冴里に再会する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、遂に念願の不甲斐ない夫の杉下左京との離婚が成立した大女優でもあります。


「うるせえ!」


 事実をありのままに表現した地の文に切れる元夫の左京です。


「離婚届は出してねえから、まだ夫だよ!」


 更に切れる左京です。この後に及んで、キレ芸がさまになってきました。


 かつて、左京が警視庁の警部だった時、刑事部長だった大塚竜次が刑務所を脱獄して誘拐した瑠里と冴里を返す条件として、何故か左京と樹里の離婚を提示してきました。


 何度も左京達に煮え湯を飲まされてきたせいで、おかしくなってしまったようです。


「違う! ちゃんとした理由があるんだ!」


 どこかで切れる大塚です。もうすぐ刑務所に逆戻りだと思う地の文です。


「うるさい!」


 左京と張り合うように切れる大塚です。左京を降板させて、彼を登用すればいいかもと思う地の文です。


「やめてくれー!」


 血の涙を流して地の文に懇願する左京です。


 


 左京はそっと樹里から離れると、彼女の頬を伝う涙を指で拭いました。


「必ず瑠里と冴里は無事に取り戻す。だから泣かないでくれ、樹里」


 左京はこのシリーズが始まって以来の気取った顔で告げました。


「私が泣いているのは、その事ではありません」


 樹里は潤んだ瞳で左京を見上げました。


(可愛い!)


 樹里の上目遣いの視線にノックアウト寸前になるダメ左京です。


「左京さんと離婚したくないんです」


 樹里が左京に抱きつきました。


「樹里……」


 左京は思わず樹里を押し倒しそうになりました。


「違う!」


 感情表現を正確に描写したはずの地の文に抗議の目を向ける左京です。


 そばで見ていた元カノの平井蘭も、目を潤ませていますが、全く可愛くありません。


「余計なお世話よ!」


 涙を拭いながら、地の文に切れる蘭です。


 その時、ドアがノックされました。左京は樹里と顔を見合わせ、蘭と目配せしてから、ドアを開けました。


「大塚様の使いの者です。お二人の離婚届を取りに参りました」


 そこに立っていたのは、角◯卓造と結婚した人でした。


「その剛じゃねえし、そいつも角◯卓造と結婚したんじゃねえよ!」


 地の文の途方もないCM絡みのボケについ全力で切れてしまう世界犯罪者連盟の野矢亜のやあごうです。

 

「大岡さん、お久し振りです」


 しばらくぶりに樹里が笑顔全開でボケをかましました。


「その剛でもねえし!」


 更に切れてしまい、思わずハッとする野矢亜ですが、決してト◯ちゃんではありませんから、グッとはきません。


「とにかく、離婚届をお渡し願いましょうか、樹里さん」


 野矢亜は何とか冷静さを取り戻し、フッと笑って言いました。


「そうなんですか」


 樹里は更に笑顔全開で応じ、あっさりと離婚届を渡してしまいました。


 左京と蘭が唖然とする中、野矢亜は勝ち誇ったような顔で、


「では、失礼致します」


 そう言い残すと、歩き去ってしまいました。


「ああ……」


 左京は崩れるように床にへたり込みました。蘭も力が抜けてしまったのか、ドスンとソファに座ってしまいました。


「そう言えば、樹里はさっきの男と面識があるの?」


 我に返った蘭が尋ねました。野矢亜がイケメンだったので、電話番号が知りたいようです。


「違います!」


 ちょっとだけ当たっていたので、切れ方が生温くなってしまった蘭です。


「え?」


 蘭の質問にギクッとした左京が樹里を見ました。


「以前、水道橋駅のそばでお会いした事があります」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じたので、左京はますますドキドキしてきました。


(もしかして、樹里が本当に好きな人なのか?)


 地の文の妄想に取り込まれたアホな左京は、救い難い勘違いをしていました。


「この人ですよ」


 樹里は野矢亜から受け取った名刺を見せました。


「世界犯罪者連盟!?」


 名刺を覗き込んだ蘭が大袈裟に驚きました。


「あ、あいつがそうなのか?」


 左京は樹里から前に聞かされていた事を思い出し、立ち上がりました。


「世界犯罪者連盟が絡んでいるとなると、大変よ。すぐに本庁に応援を要請しないと」


 蘭が慌てて携帯を取り出すと、


「大丈夫ですよ、蘭さん」


 樹里は笑顔全開で自分の携帯の画面を見せました。


「はあ?」


 キョトンとして、左京と一緒にそれを見る蘭です。


「ドロントさんからのメールですよ」


 樹里は更に笑顔全開で言いました。


「これ、本当なの?」


 蘭は画面と樹里と交互に見ながら尋ねました。


「本当だと思いますよ。発信者はヌートさんですから」


 樹里は笑顔全開で問題発言をしました。


 要するに、ドロントの言う事では眉唾ですが、その部下で一番信頼が置けるヌートが言っているのなら、信用できるという事なのです。


「どういう事よ!」


 五反田邸の自分の部屋で、誰もいない空間に向かって切れる有栖川倫子ことドロントです。


 


 樹里の言葉を裏付けるように、それから数時間経って、樹里と左京の愛娘の瑠里と冴里は無事に杉下左京迷探偵事務所に送り届けられました。


「『迷』は余計だ!」


 細かい事が気になってしまう左京は、地の文に元気よく切れました。


「お帰りなさい、瑠里、冴里」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「ただいま、ママ! きょうはおもしろかったよ! フレンドランドで、たっくさん、のりものにのったんだよ!」


 興奮気味に語る瑠里は、自分が誘拐されていたとは理解していないようです。


「のったんだよ!」


 お姉ちゃんに釣られてハイテンションで語る冴里も、怖がっている様子はありません。


 PTSD(心的外傷後ストレス障害)にならなくてよかったと思う地の文です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で二人を抱きしめると、見えないように涙をこぼしました。


「よかったな、瑠里、冴里」


 左京が反対側から二人を樹里ごと抱きしめました。


「くるしいよ、ママ、パパ!」


 嬉しそうに言う瑠里です。


「しいよ、ママ、パパ!」


 お姉ちゃんの真似をして叫ぶ冴里です。


 


 そして、ここはどこかのホテルの一室です。


「杉下左京と御徒町樹里の離婚が成立しました」


 野矢亜剛がニヤリとして告げた相手は、大塚竜次でした。大塚もニヤリとし、


「さすがですな、野矢亜さん。世界犯罪者連盟のお手並み、見事でした」


「お粗末様です」


 野矢亜はうやうやしく頭を下げました。


「ありがとう、叔父様。本当に感謝しているわ」


 そう言って、部屋の奥のソファから立ち上がったのは、左京の幼馴染にして、ドロント特捜班の管理官でもある今野敏子でした。


「なあに、可愛い姪っ子のお前の頼みだ、大した事はないさ」


 大塚はデレデレした顔で応じました。敏子はフッと笑って、


「後は只の文無し探偵になった左京お兄ちゃんを私が慰めて、結婚してあげるだけね」


 その時でした。


「揃いも揃って、お間抜けばかりね」


 どこからか、おばさんの声が聞こえてきました。


「おばさん言うな!」


 そう言って、天井裏から舞い降りたのは、前髪で顔が隠れている地味な服装の女性でした。


「あ、貴女は区役所の窓口の!?」


 何となく事情を察した野矢亜が仰天して叫びました。


「え?」


 敏子と大塚は何が起こっているのかわからず、顔を見合わせました。


「貴方が提出した離婚届は、ここにあるわ。正式には受理されていないわよ」


 その女性は離婚届を見せてから、バッと変装を解きました。


「お前は!?」


 その姿を知っている野矢亜と大塚が異口同音に叫びました。


「世界的大泥棒のドロントよ。もうおしまいよ。覚悟なさい」


 ドロントはフッと笑って告げ、姿を消しました。


「何ィッ!?」


 大塚と敏子が目を見開いた時、ドアを蹴開けて蘭が警官隊と乗り込んできました。


「なるほど、そういう事でしたか」


 野矢亜は苦々しそうな顔をしましたが、ダッと駆け出し、窓ガラスを破って逃げてしまいました。


「ここ、五十階よ!」


 驚愕した蘭が走り寄ると、野矢亜はハンググライダーで飛び去っていくところでした。


「今野管理官、脱獄中の大塚と一緒にいた事をご説明いただけますか?」


 蘭は勝ち誇った顔で敏子に告げました。


「チッ!」


 敏子は舌打ちし、警官隊に大塚と共に連行されました。


 


 めでたし、めでたし。

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