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樹里ちゃん、左京から離婚届を受け取る

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、もうすぐ引退してしまうママ女優でもあります。


 今、自分が生きていられるのも、樹里が結婚してくれたからだと理解していない世界で一番身の程知らずの夫である杉下左京は、樹里に対して、


「好きな女ができたから、離婚してほしい」


 神をも恐れぬ思い上がった事を言いました。


 樹里は涙を流してそれを聞き、左京の待つ自宅へと向かいました。


(ああ、大事な事、言えなかった)


 もう一人のメイドである目黒弥生ことキャビーは、首領のドロントから告げられた話を樹里に言いそびれてしまうというギャグ漫画のような間抜けぶりです。


「う、うるさいわね!」


 これはまさに真実なので、地の文に対する切れが鈍くなっている弥生です。


(どうしよう、首領に怒られる……)


 弥生は涙ぐみました。ドロントは怒ると怖いのです。


 特に自分より若くて可愛い女性には容赦がありません。


「そんな事ありません!」


 突如として弥生の背後に現れ、地の文に切れる有栖川倫子ことドロントです。


「しゅ、首領!」


 弥生は目を見開いて仰天し、一歩飛び退きました。


「仕方ないわよ、キャビー。まさかこんな展開になるなんて、思いもしなかったから」


 微笑んで言う倫子に、逆に恐怖を感じてしまう弥生です。


「一体左京さんはどうしてしまったんでしょうか? 樹里さんと離婚したら、生活に困ると思うのですが?」


 そこへ住み込み医師の黒川真理沙ことヌートがやってきました。


「確かに」


 弥生は大きく頷きましたが、倫子は、


「何かあったのよ。いくら左京さんが頭が悪いとは言っても、樹里さんと離婚したらどうなるかくらいはわかっているでしょうから」


 左京は誰からも好かれていないのだとわかった地の文です。


 


 そして、ここは樹里の家の一角にある杉下迷探偵事務所です。


「『迷』は余計だ!」


 いつものように陽気に地の文に切れる左京です。


「陽気じゃねえよ!」


 涙ぐんで地の文の感情表現を否定する左京です。では、妖気ですか?


「シリーズが違う!」


 いつまでも西遊記の影響を受け続けている地の文に更に切れる左京です。


「これからどうするつもりなの、左京?」


 何故かそこには元カノの平井蘭がいました。


「元カノは余計よ!」


 過去を執拗にほじくり返すのが好きな地の文に切れる蘭です。


「どうするも何も、俺の人生なんて、瑠里と冴里の将来に比べれば、大した事はないさ」


 苦笑いして意味不明な事を言う左京です。どうやら精神的に破綻してしまったようです。


「違うよ!」


 ほぼ正解な事を言ったはずの地の文に再び切れる左京です。


「まさか、あの刑事部長がもう一度脱獄して、瑠里ちゃんと冴里ちゃんを誘拐するなんて……」


 説明口調が過ぎる蘭が言いました。


「やかましい!」


 鋭い指摘をした地の文に理不尽に切れる蘭です。


「しかも、二人の命が惜しければ、樹里と離婚しろだなんて、一体何を考えているんだ、あの腐れ野郎は?」


 左京は憤懣やる方ない顔で机を拳で殴りました。


 ちょっと強く殴り過ぎたので、涙ぐんでいるのは内緒です。


 刑事部長とは、左京がまだ警視庁にいた頃、いろいろと公私に渡って面倒を見てくれた恩人です。


「全然違うだろ!」


 左京と蘭が見事にハモって地の文に突っ込みました。また付き合うのでしょうか?


「断じてない!」


 またハモって切れるかと思いきや、切れたのは蘭だけで、左京は考え込んでいました。


「付き合うつもりが少しでもあるの、あんたは!?」


 その場しのぎの事しか考えていない左京の襟首をねじ上げる蘭です。


「そうじゃなんだけどさ……」


 息も絶え絶えに何とか応じる左京です。蘭は白い目で左京を見ましたが、襟から手を放し、


「それはともかく、あの男、どこに脱獄のコネがあったのか、不思議ね。もう絶対に復活できないと思っていたのに」


 元刑事部長の経歴が書かれた書面を左京に差し出しました。


「あの野郎、大塚竜次って名前だったのか。全然知らなかった」


 左京が言うと、


「相変わらず、人の名前を覚えていないわね、あんたは」


 更に呆れる蘭です。


「大塚は、あんたに何度も苦杯を舐めさせられているから、恨みも深いようね」


 蘭は左京を睨みつけ、書面をひったくるように取って言いました。


「お前だって恨まれているだろう? どうして俺なんだよ?」


 納得がいかない左京は、蘭を睨み返しました。


「知らないわよ」


 往年の鋭さを取り戻した蘭が睨んだので、少しだけチビりそうになった左京です。


「蘭さん、お世話になります」


 そこへ笑顔を封印した顔の樹里が入ってきました。


「樹里……」


 左京は言葉が出てきません。あまりにも樹里が悲しそうな顔をしているので、声が出ないのです。


「樹里、ちょっといい?」


 左京が固まってしまっているのに気づいた蘭が、代わりに事情を説明しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔を封印したままの悲しみ全開の顔で応じました。


「さっき、左京が携帯で連絡した時、大塚がそれを私の携帯を通じて聞いていたの。だから、左京もあんな風にしか言えなかったのよ。わかってあげて、樹里」


 蘭は左京が歯ぎしりをし、目を潤ませて通話をしているのを横で見ていたので、キュンとしてしまったのです。


「キュンとはしてない!」


 そこは違うので鋭く地の文に突っ込む蘭です。


「時間がないわ。これに署名をして」


 左京が渡せないでいる離婚届を奪い取り、樹里に差し出す蘭です。


「もうすぐ、大塚の手下が離婚届を取りに来るの。奴の関係者が証人の欄に署名して、役所に提出する段取りなのよ。それが完了したら、瑠里ちゃんと冴里ちゃんを送り届ける事になっているわ」


 まるで大塚一味のように詳しく説明する蘭です。


「聞かされたから知ってるのよ!」


 疑わしきは罰するが信条の地の文に切れる蘭です。


「はい」


 樹里は離婚届を受け取ると、左京の机に置き、署名をして押印しました。


「……」


 無言で見つめ合う左京と樹里を見て、蘭が涙ぐみました。


「すまない、樹里。俺のせいだ……」


 左京は樹里を抱きしめました。


「そうなんですか」


 樹里は少しだけ笑顔になりましたが、その両目からは宝石のような涙がこぼれていました。


 


 まだこんな重苦しい展開が続くのかと思う地の文です。

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