樹里ちゃん、記者の質問に答える
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、ホラー映画と歴史ドラマで主役を張るママ女優でもあります。
その樹里のところに、不甲斐ない夫である杉下左京の浮気現場を押さえた写真を持った週刊誌の記者が訪れました。
「浮気なんかしてねえよ!」
真実をどうしても認めようとしないある意味某高知◯◯と似ている左京が、地の文に切れました。
「似てねえよ!」
幼馴染の今野敏子といい感じになっているのを浮気ではないと言い張る左京です。
「ううう……」
左京は敏子とのやりとりを思い出し、項垂れました。
「そうなんですか」
それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。
その樹里の反応を見て、週刊誌の記者はニヤリとし、
「樹里さんは、ご主人が浮気をしているのをご存知なのですね? そして、それを黙認されているという事ですか?」
しかし、樹里は、
「主人は浮気はしていませんよ」
笑顔全開であっさりと否定しました。記者は苦笑いして、
「いやいや、この写真はどう見ても不倫現場の写真でしょ? それ以外、何に見えるんですか?」
樹里の目の前に左京と敏子が裸でベッドに寝ている写真を突きつけました。
「捏造はやめろ!」
写真を勝手に加工した地の文に全力全開で血の涙を滝のように流して切れる左京です。
すみません、某高知さんと混同してしまいました。
「主人と今野敏子さんは幼馴染ですから、不倫ではありませんよ」
樹里は尚も笑顔全開で応じました。
(樹里さん、それ、かなり無理があると思うよ)
二人のやりとりを端で見ている怪盗ドロントは思いました。
「私は有栖川倫子です! 怪盗ドロントなんて知りません!」
この後に及んでも、白々しい嘘を吐く自称有栖川倫子です。
「ううう……」
情け容赦のない地の文の突っ込みに項垂れる倫子です。
(首領、何してるんですか……)
倫子の奇行を羨ましそうに見ている自称目黒弥生のキャビーです。
「自称じゃありません! 正真正銘、目黒弥生です! それから、羨ましくなんかないから!」
どこから出したのか、印鑑証明を見せつける弥生です。
有印公文書偽造の罪になると思う地の文です。
「本物だから! 犯罪じゃないから!」
執拗に嫌がらせを繰り返すまるで◯◯◯のような地の文に涙目になって切れる弥生です。
「幼馴染だからこそ、そういう関係になるのではないですか?」
記者はその陰険な顔を更に陰険にし、狡猾な笑みをプラスして樹里を見ました。
「そうなんですか?」
樹里は笑顔全開のままで首を傾げました。記者は、
「それとも、本当に何も気づいていなかったのですか?」
どこかで聞いた事があるような台詞を吐き、樹里に詰め寄りかけました。その時、
「お帰りください。さもないと、警察を呼びますよ」
ドロントの一の部下であるヌートが現れました。
「貴女は?」
ヌートが女優並みの美人なので、デレッとしてしまうバカ記者です。
「私は五反田邸の住み込み医師の黒川真理沙です」
地の文のボケを完全に無視して、記者に応じる真理沙です。心が折れそうになる地の文です。
「おや、私はきちんと取材の申し込みを樹里さんの所属事務所に取り、警備員さんに入構証もいただきましたよ。どのような犯罪になるのですか?」
記者はドヤ顔で真理沙に質問しました。すると、
「許しを得て敷地内に入った場合でも、退去するように言われた場合、刑法第百三十条の後段に記載されている『要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者』に該当し、犯罪になりますよ」
樹里が笑顔全開で告げました。
記者ばかりではなく、真理沙、倫子、弥生もびっくりして樹里を見ました。
「わかりましたよ。そろそろ退散するとしましょう。でも、このままではすまなくなりますよ、樹里さん。ご主人はとんでもない事をしでかしているのですからね」
記者はもう一度陰険に笑い、くるりと踵を返すと、邸から立ち去りました。
「ヌート、キャビー、あの記者、只の記者ではなさそうよ。身辺を探ってみて」
倫子は小声で真理沙と弥生に告げました。
「はい、首領」
真理沙と弥生も小声で応じました。
「何を探るのですか?」
ところが、樹里もしっかりそれを聞いており、いきなり会話に割り込んできました。
「ひゃああ!」
倫子と弥生はもちろんの事、いつもは冷静沈着な真理沙も妙な雄叫びをあげてしまいました。
「な、何でもないですよ、樹里さん」
倫子は額を流れる嫌な汗をハンカチで拭いながら、苦笑いしました。
「そうなんですか」
素直が服を着て歩いているような樹里は実にあっさりと納得し、邸に入って行きました。
「首領はあの記者の事、何者だと思っているんですか?」
弥生は樹里が邸の中に入るのを確認してから尋ねました。
「考えたくはないけど、同業者」
倫子は真理沙と弥生を見て言いました。
「同業者って……」
弥生は目を見開きました。対する真理沙は頷きました。
「あいつの目つき、そしてそこはかとなく漂ってくる匂い。かたぎとは思えないのよね」
倫子は腕組みをして、深く溜息を吐きました。
「誰がかたぎとは思えないのですか?」
いつの間にかメイド服に着替えをして箒を持って戻って来た樹里が尋ねました。
「ひいいいい!」
倫子と弥生はまた虚を突かれたのか、魂が口から出そうな程驚いてしまいました。
(首領とキャビー、無用心過ぎ)
それを呆れて見ている真理沙です。
「何でもありませーん!」
倫子と弥生は見事なハモりで否定し、駆け去りました。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開です。真理沙は苦笑い全開です。
めでたし、めでたし、ではないと思う地の文です。