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樹里ちゃん、左京と遂に離婚する?

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、ホラー映画と歴史ドラマの主役を同時にこなすママ女優でもあります。


 樹里の不甲斐ない夫である杉下左京の幼馴染の今野敏子が、昔左京と結婚の約束をしたと言ってきました。


 樹里は何故か敏子の言い分に逆らう事なく、突きつけられた離婚届に署名捺印しました。


 大慌てで五反田邸に現れた左京は、後は自分が署名するだけで提出ができてしまう状態の離婚届を見て、愕然としました。


 ようやく、樹里は本当に好きだった人と結婚する事ができるようです。


「その話はやめろー!」


 いつまでも、「好きだった人と結婚」のボケを引き摺り続ける地の文に血の涙を流して切れる左京です。


「さあ、左京お兄ちゃん、最後の仕上げをお願いね」


 どこまでも不敵な笑みを浮かべ、勝ち誇った様子の敏子です。


「そうなんですか」


 思わず樹里とハモってしまう左京です。但し、樹里は笑顔全開ですが、左京は引きつり全開です。


「樹里さん、一体どういうつもりなのかしら?」


 そばで見ている怪盗ドロントが部下のヌートに小声で尋ねました。


「私は有栖川倫子よ!」


 しつこくボケる地の文に切れる倫子ことドロントです。


「ううう……」


 更に畳み掛けてきた地の文のせいで、項垂れてしまう倫子です。


「もしかすると……」


 顎に右手を当ててジッと樹里達を見ている黒川真理沙です。


 相変わらず、ボケを完全に無視されて悲しくなってくる地の文です。


「樹里さん……」


 もう一人のメイドの目黒弥生は涙を目に浮かべて見守っています。


「……」


 地の文がボケをぶち込まなかったので、妙に力が抜けてしまった弥生です。


「樹里……」


 左京は樹里の真意が知りたくて彼女を見ましたが、相変わらず笑顔全開でこちらを見ている樹里なので、


(もしかして、本当に俺と離婚したいのか、樹里?)


 涙で樹里の姿が霞んでしまいました。とっととサインして離婚してしまえと思う地の文です。


「うるせえ!」


 こぼれ落ちそうになった涙を手で拭い、目を血走らせて地の文に切れる左京です。


「く……」


 左京は敏子から渡された離婚届と万年筆を持ち、ロビーの端にあるテーブルに歩み寄りました。


 いよいよ樹里の黒歴史の幕が閉じる時が訪れようとしていると思う地の文です。


「ううう……」


 左京はテーブルに離婚届を置き、万年筆を持ち直しました。


 字を書こうとしたのですが、右手が震えて狙いが定まりません。


 なかなか迫真の演技をすると思う地の文です。


「演技じゃねえよ!」


 どんな場面でも容赦なくボケをぶち込む地の文に滝のような血の涙を流して切れる左京です。


「くそ!」


 左京は震える右手を左手で押さえ、何とか字を書こうとします。


 倫子と真理沙と弥生はそれを固唾を呑んで見ています。


「さあ、早くして、お兄ちゃん」


 敏子がフッと笑って促しました。左京はもう一度樹里に救いを求めるように目を向けましたが、樹里は相変わらず笑顔全開のままです。


(樹里……)


 左京は樹里の考えがわからなくて、混乱しました。


「後は左京さんに全てお任せしますね」


 樹里の言葉が左京の頭の中でリフレインしました。


 でも、左京は決して◯任谷由実のファンではありません。


 どちらかと言うと、嫌いです。


「勝手に俺の好みを断言するな!」


 一部の方々の不興を買うような事を言うまるで◯◯◯◯◯のような地の文に切れる左京です。


(あれはどういう意味なんだ、樹里? お前の本当の気持ちを教えてくれ)


 左京はまたしても樹里を見ました。しかし、樹里は五反田邸にかかってきた電話の応対をしていました。


 がっくりと項垂れる左京です。


 どうして、弥生が電話に出ないのかと言うと、ドロントと今夜の仕事の算段を話し合っていたからです。


「そんな事、してません!」


 見事にハモって切れる倫子と弥生です。昔の演歌歌手みたいな響きです。


「そんなボケをしても、誰も知らないわよ!」


 倫子が更に切れました。そうですね、貴女と左京くらいしかわからないボケでしたね。


「ううう……」


 昭和生まれの倫子はぐうの音も出ない程打ちのめされました。


(首領……)


 リアクションがいちいち大きい倫子を呆れ顔で見ている平成生まれの真理沙と弥生です。


(樹里ちゃん、電話に出ている場合じゃないのに)


 いつも通りに仕事を淡々とこなしている樹里を見て、弥生は疑問に思っていました。


「気がついた、キャビー?」


 真理沙が小声で弥生に告げました。弥生はハッとして、


「やっぱりそうなんですか?」


 真理沙は樹里を見て、


「少なくとも、私はそうだと思っているわ」


 ところが弥生は、


(そうか、樹里ちゃん、本当は離婚したかったのか)


 不正解に辿り着いていました。さすが、ドロント一味のボケ担当です。


「違うわよ! ボケ担当は首領よ!」


 つい口が滑ってしまい、思い切り倫子に睨みつけられる弥生です。


「あっ!」


 項垂れていた左京も、何とか思い至ったようです。樹里の本当の思いに。


(樹里、すまない。どうして俺はすぐに気づけなかったんだ……)


 そうです。さっさと署名捺印して、全部終わらせましょう。


「違うんだよ!」


 どこまでもボケまくる地の文に全力全開で切れる左京です。息が上がっています。


 左京は万年筆のキャップを戻し、テーブルの上の離婚届をグシャッと掴むと、敏子を見ました。


「左京お兄ちゃん?」


 思ってもいなかった左京の行動に眉をひそめる敏子です。


「敏子ちゃん、すまない。俺は樹里と離婚はしない」


 左京はそう告げると、離婚届を真ん中から二つに裂きました。そして、ツカツカと敏子に歩み寄ると、それを突き返し、


「樹里!」


 すぐさま、まだ笑顔全開のままの樹里に向かって駆け寄り、彼女を強く抱きしめました。


「すまない、樹里。こんな俺だけど、許してくれるか?」


 左京は涙を堪え切れなくなり、鼻をすすりながら樹里を見ました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開のままでしたが、真珠のような涙をポロポロとこぼしていました。


「お兄ちゃん、今日はこれで引き下がるけど、私は諦めないからね」


 敏子は捨て台詞を吐き、玄関から出て行きました。


 


 一応、めでたし、めでたしの地の文です。

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