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樹里ちゃん、エロ俳優とキスシーンを撮る

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、ホラー映画と歴史ドラマの主演もするママ女優でもあります。


 前回から引き続き、樹里はホラー映画「魔名手まなて 第二章 壇野浦だんのうら美代みよ誕生」の撮影です。


 今回から映画に登場する中堅俳優の外藤そとふじ龍二りゅうじは、共演女優を「食ってしまう」と噂の妖怪俳優です。


「違う!」


 額面通りの言葉を使用してしまう地の文に切れる外藤です。


 どうやら、「食う」の意味が違うようです。


「そうなんですか」


 そんな外藤の思惑も知らず、樹里は笑顔全開です。


 という事ですので、いつもの変態集団のコントは全面カットだと思う地の文です。


「変態集団ではありません!」


 地の文の説明にどこかで切れる昭和眼鏡男と愉快な仲間達並びに保育所の男性職員の皆さんです。


(いやあ、近くで見ても、樹里さんは美しいな。とても二人の子持ちには見えない)


 外藤はセットの陰からこっそりと樹里を見て思いました。三人の子持ちに見えるのでしょうか?


 シリーズを間違えていると思う地の文です。(御徒町樹里の源氏物語参照)


「違う! 子持ちに見えないんだよ!」


 間違えているのは自分でしたという昭和なオチのボケをかます地の文にまたしても切れる外藤です。


「そう? 子持ちだよ、私」


 何故か全く話に関係ない松下なぎさが言いました。


「そうなんですか」


 思わず樹里とハモってしまう外藤です。


(この映画で頑張って、監督に認めてもらわないと!)


 外藤の思惑でキャスティングされたとは知らない若手無実力派女優の貝力かいりき奈津芽なつめは決意を新たにしました。


「無実力派って何よ!」


 外藤の思惑のくだりには無反応なのに、「無実力派」には激しく反応する奈津芽です。


 演技力もないのにドラマに起用される事が多いという噂を気にしているようです。


「そ、そ、そんな噂なんて、な、ないわよ!」


 あからさまに動揺して見え透いた否定をする奈津芽です。


 動揺の仕方が昭和みたいだと思う地の文です。


 改めてお伝えしますが、この物語は完全にフィクションですと強調する地の文です。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。


 


 撮影は順調に進行し、とうとう外藤が待っていた樹里とのキスシーンが演じられる給湯室の撮影です。


 あまりにも楽しみなので、よだれを拭ってしまう外藤です。


「はっ!」


 そして、自分の行為に我に返り、慌てて周囲を見渡しましたが、幸い誰も見ていませんでした。


(長い役者人生だが、これほど気持ちが高ぶるのは初めてだ)


 外藤は自分が本当に樹里に惹かれているのを感じ、驚いていました。


「では、本番、お願いします」


 もうすぐ監督になれるはずの助監督が告げました。


「え?」


 またしても、監督の岩清水信男と共にプロデューサーの丸山秋男を見てしまう助監督です。


「何?」


 意味がわからずキョトンとする丸山です。


 樹里と外藤は助監督と給湯室の立ち位置を確認します。


 カメラと照明がセッティングされ、いよいよ本番です。


 物語の流れでは、同僚の女子社員からの陰湿なイジメに遭っている樹里演じる壇野浦美代がつらさのあまり、給湯室で泣いているところに外藤演じる葉山はやま雄二ゆうじが現れる、というくさいものです。


「うるさい!」


 進行をけなした地の文に切れる岩清水監督です。


「用意、スタート!」


 それでも気を取り直して号令をかける岩清水監督です。


 樹里が給湯室に駆け込み、すすり泣きます。


 その迫真の演技に思わず見とれてしまう男性スタッフ達です。


(泣いた樹里さん、素敵!)


 奈津芽までうっとりしてしまっています。エロメイドの目黒弥生のライバルになるつもりでしょうか?


「私はエロメイドじゃないし、樹里さんとそういう関係でもないわよ!」


 強引に声だけで登場し、地の文に切れる弥生です。


「どうしたんだい、壇野浦さん?」


 外藤がその後から給湯室に入ってきます。


「何でもありません」


 少しだけ葉山に心を惹かれている設定の美代なので、泣いていたのを見られまいと顔を俯かせます。


「何でもない事はないだろう? 僕は知っているんだよ、貴女が他の女子達にいじめられているのを」


 外藤は樹里の両肩を掴んで振り向かせました。


 そこで目を閉じる樹里です。美代がキスを待つ設定なので、ここからは外藤の独壇場です。


(いただきます!)


 ニヤリとして顔を近づけ、本当にキスをしようとする外藤ですが、


「う……」


 涙で潤んだ目をそっと閉じている樹里の顔を間近に見て、思わず動きを止めてしまいました。


(何て美しいんだ……。俺はこんな美しい人に対して、何をしようとしているんだ?)


 樹里の神々しいまでの美しさに怖気づいてしまったのです。


 不甲斐ない夫の杉下左京ですら、樹里とキスしているのですから、「やっちゃえ、◯◯」だと思う地の文です。


「うるせえ! 俺は樹里の夫だからいいんだよ! それから、キスは最近すっかりご無沙汰だよ!」


 聞いてもいない事まで言って、地の文に切れてみせる強引な登場の左京です。


「カット!」


 外藤が怖気づいているうちに、撮影は終了しました。


「ありがとうございました」


 樹里は笑顔全開でお礼を言いました。


「ああ、いえ……」


 外藤はすっかり毒気を抜かれ、顔を引きつらせて応じました。


「樹里さん、よかったですね。外藤さん、いつもは強引に唇を奪ってくるそうですよ」


 メイクの女の子が樹里に囁きました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


 


 めでたし、めでたし。

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