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樹里ちゃん、ホラー映画の第二弾の撮影にゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、今や日本を代表するママ女優でもあります。


「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」


 樹里達が玄関を出ると、そこにはすでに昭和眼鏡男と愉快な仲間達が勢揃いしていました。


 どうやら、たびたび登場を省略される傾向に焦り、いつもより早めに動いたようです。


 どこまでも抜け目がない連中だと思う地の文です。


「我々は樹里様達をお守りするのが役目。そのようなよこしまな気持ちは持ち合わせておりません」


 しゃあしゃあと嘘八百を並べてみせるまるで◯◯◯◯◯のような眼鏡男です。


「ううう……」


 例えに出した人が想像を超えた人物だったので、さすがにショックが大きい眼鏡男です。


「はっ!」


 項垂れていてある事に気づき、慌てて周囲を見回すと、すでに樹里はおらず、瑠里と冴里は知らないおじさんと歩き去っていました。


「知らないおじさんじゃねえよ!」


 不甲斐なさなら誰にも負ける気がしないと豪語する杉下左京が、真実をありのままに告げた地の文に切れました。


「そんな豪語した事ねえよ!」


 保育所に向かいながら、地の文に切れる左京です。


(いつもより早く来たのに、結局いつも通りの放置プレーなのか……。ああ、でもこの感覚は……)


 陶然とした表情で感涙にむせぶ変態集団です。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 別の場所にいながら、見事なハーモニーで笑顔全開に応じる樹里と瑠里と冴里です。


 


 今日は、樹里はホラー映画「魔名手まなて 第二章 壇野浦だんのうら美代みよ誕生」の撮影です。


 どうやら、第一作のヒットを想定していなかったので、主人公である美代の生い立ちを辿るという在り来たりな展開になったようです。


「余計なお世話だ!」


 映画プロデューサーの丸山秋男が、口が過ぎる地の文に切れました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


 撮影場所は、都内にある空き家です。一見、何か出そうな雰囲気の建物で、敷地の周囲を鬱蒼うっそうとした森が取り囲んでいます。


「樹里さん、本当に何か出そうですね」


 共演者の貝力かいりき奈津芽なつめが樹里にすがりついて呟きました。


「そうなんですか? 何が出るのですか?」


 樹里は不思議そうな顔で奈津芽に尋ね返しました。


「樹里さんが何も感じていないのなら、安心しました」


 奈津芽は樹里のリアクションに顔を引きつらせて応じました。


「このお邸は、美代が幸せな幼少期を過ごした思い出の家という設定ですので、決して怖いシーンはありません」


 第一作に引き続き、監督を務める岩清水信男が苦笑いして言いました。


「そうなんですか」


 樹里と奈津芽は異口同音に応じました。


「では、美代の幼少期を演じる女優さんの撮影からです」


 助監督が言いました。本来なら、樹里の妹軍団が演じればいいのですが、真里・希里・絵里の三人は、NTKの歴史ドラマの撮影で忙しいので、別の子役が演じる事になりました。


 芸能界の力関係を垣間見た思いがする地の文です。


「ああ、天才子役の本間ほんま真波まなみちゃんだ!」


 共演者の一人である樹里の親友の松下なぎさが、またしてもミーハー丸出しの大声で言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「全然、樹里の子供の頃と似てないよね」


 なぎさは全く悪気なく、非常に場の空気を悪くする事を大声で言いました。


 スタッフ一同の顔が一斉に引きつりました。


(何よ、コネ女優のくせに!)


 真波は顔では微笑み、心の中ではなぎさに毒づきました。現在小学五年生で、子役からの脱皮に苦悩している真波は、周りの人間の言動に必要以上に過敏になっているのです。


「うるさいわね! 余計な事を言わないで!」


 真実を解説した地の文に理不尽に切れる真波です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


(真波ちゃん、目が笑っていなかった)


 奈津芽は真波の本性を伝え聞いているので、すぐにその事に気づきました。


 さすが、意地悪女優だと思う地の文です。


「意地悪女優じゃありません!」


 しつこく同じボケをぶっ込んでくる地の文に切れる奈津芽です。


 それから、美代の母親役の女優と父親役の女優が入ってきましたが、名前もないので省略する地の文です。


「きちんと紹介してください!」


 今回限りの登場なのに、名前を欲しがる図々しい二人を無視する地の文です。


 助監督は何度も登場しているのに名前がないのですから、我慢して欲しいと思います。


「ううう……」


 間接的に傷つけられた助監督は撮影機材の陰でひっそりと項垂れました。


「本番!」


 それでも気を取り直して、号令をかける助監督です。次回作は彼が監督をすると思う地の文です。


「え?」


 助監督ばかりでなく、岩清水監督もビクッとして、丸山を見ました。


「何?」

 

 意味がわからない丸山は首を傾げました。


 撮影が始まり、美代の幼少期が描かれていきます。


 真波の演技は抜群で、美代の幸せが見ている者達にも伝わってきました。


「さすが、天才子役ですね」


 奈津芽が樹里に囁きました。それを聞きつけた真波は人知れずフッと笑いましたが、


「そうかなあ。真里ちゃんや希里ちゃんや絵里ちゃんの方がうまいと思うよ」


 また現場を凍りつかせる事を言い放つ自由奔放ななぎさです。


(あの女!)


 ほんの一瞬ですが、真波が射るような目でなぎさを睨んだのを奈津芽は見てしまいました。


(ひいい!)


 危うく失禁しそうになる奈津芽です。


「そうなんですか」


 そんな事とは知らない樹里は笑顔全開で応じました。

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