表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
382/839

樹里ちゃん、ホラー映画の第二弾の打ち合わせにゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、ホラー映画と歴史ドラマの掛け持ちをする大女優になりました。


 但し、本人は全くそんな自覚はないようです。


「では、行ってきますね、左京さん、瑠里、冴里」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「行ってらっしゃい」


 不甲斐ない夫の杉下左京は、いつものように項垂れ全開です。


 それでも、若干誇らしそうなのは、番外編で主役を務めているからのようです。


「ううう……」


 全然主役扱いされていない「御徒町樹里の信長公記」の事を引き合いに出されて、更に項垂れる左京です。


 さり気なく他作品の宣伝をぶっ込む地の文です。


「いってらっしゃい、ママ!」


 長女の瑠里は、笑顔全開元気全開で応じました。


「いてらしゃい、ママ!」


 次女の冴里も笑顔全開元気全開で応じました。


「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」


 そこへ懲りずに現れる役に立たない変態集団です。


「ううう……」


 情け容赦のない遊◯爆弾のような口撃をかます地の文のせいで項垂れる昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「おはようございます」


「おはよう、たいちょう!」


「おはよ、たいちょ」


 樹里と瑠里と冴里の笑顔全開の三重奏の癒しの波動で復活するごく単純な眼鏡男達です。


「くうう……」


 手厳しい地の文の追撃に違う呻き声で項垂れる眼鏡男達です。


「はっ!」


 いつもの放置プレーパターンに巻き込まれたと感じた眼鏡男達は慌てて顔を上げ、樹里を追いかけようとしましたが、


「ママはきょうはおくるまのおむかえがきて、もういっちゃったよ」


 瑠里に笑顔全開で非常な宣告をされました。


 精根尽き果て、真っ白に燃え尽きる眼鏡男達です。


 真っ白に燃え尽きるのは、かつて今は亡き亀島馨が得意だったギャグです。


「俺は死んでねえし、それはギャグじゃねえし!」


 どこかの刑務所の中で叫ぶ亀島です。刑期は長いので、多分、娑婆しゃばの空気はもう吸えないと思う地の文です。


「うるせえ!」


 正しい指摘をした地の文に切れる亀島です。でも、突然少しだけ出られて嬉しいようです。


「嬉しくねえよ!」


 更にニヤニヤしながら叫ぶ亀島です。これでもう二度と出てくる事はないでしょう。


(亀島って、誰だっけ?)


 元の同僚を本気で忘れているバカな左京です。


「う、うるせえ!」


 図星なので、動揺しながら地の文に切れる左京です。


「じゃあね、たいちょ!」


 地面に這いつくばって項垂れている眼鏡男の頭を冴里が優しく撫でました。


(隊長、羨ましい!)


 冴里命の変態隊員が、嫉妬に燃えた目で眼鏡男を睨みました。


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 それにも関わらず、瑠里と冴里は笑顔全開です。


 


 そして、もちろん、樹里は何事もなく、ホラー映画の打ち合わせが行われる映画会社のビルに到着しました。


「やっほー、樹里!」


 前作に引き続き、親友の五反田氏のお陰で出演が決まった松下なぎさがロビーで声をかけました。


「なぎささん、おはようございます」


 樹里は笑顔全開で挨拶しました。


「樹里さん、お待ちしておりました」


 そこへ映画プロデューサーの丸山秋男がやって来ました。


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里は深々と頭を下げました。すると丸山は苦笑いして、


「いえいえ、そういう意味で言った訳ではないので、お気になさらず」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じましたが、


「じゃあ、どういう意味で言ったの?」


 なぎさが話がややこしくなる事を尋ねました。


「いや、あの、深い意味はなくてですね。挨拶のようなものでして」


 丸山は顔を引きつらせてなぎさに説明しました。


「挨拶なら、おはようございますって言えばいいんじゃないの?」


 なぎさは丸山の返答に不満があるらしく、口を尖らせて腕組みをしました。


(樹里さんよりこの人の方が大変かも知れない……)


 胃薬と頭痛薬を大量発注しようと思う丸山です。


「と、とにかく、出演者の顔合わせを兼ねての打ち合わせですので、こちらへどうぞ」


 丸山は嫌な汗を大量発生させながら告げました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じましたが、


「仕方ないなあ。後でレポート用紙三枚以内にまとめて提出してよね」


 意味不明な事を言って歩き出すなぎさです。丸山は更に顔を引きつらせて、


「あ、はい……」


 乾いた返事をしました。


 


 樹里となぎさが指定された会議室に入っていくと、そこには大勢の俳優と女優がいました。皆はプロデューサーが入ってきたので、一斉に注目しました。


「主演の御徒町樹里さんが到着されました」


 丸山が紹介すると、一同が拍手で迎えてくれました。


「樹里さん、こちらが今度の映画のもう一人の主演である、俳優の外藤そとふじ龍二りゅうじさんです」


 丸山が、奥にいた五十代後半の胡麻塩頭の男性を連れてきて、樹里に紹介しました。


「よろしくお願い致します」


 樹里は深々と頭を下げました。外藤はニコッとして、


「こちらこそよろしくお願いしますね。私、怖がりなので、あまり驚かさないでくださいね」


 周囲の役者達がドッと笑いました。外藤はそういう立場にある中堅の俳優なのです。


「ああ、思い出した! 貴方は、火葬場の女で、いつも現場の刑事役で出ていたおじさんだよね?」


 なぎさが思い切りタメ口で尋ねました。そこにいた一同が顔を引きつらせましたが、


「そうですよ、松下さん。お手柔らかにお願いしますね」


 紳士な対応をする外藤です。


「樹里さんのお陰で、私も出られる事になりました!」


 嬉しそうに駆け寄ってくる意地悪女優の貝力かいりき奈津芽なつめです。


「意地悪女優じゃありません!」


 地の文のちょっとした修飾語にも過敏に反応する奈津芽です。


「そうなんですか」


 でも、樹里は何もしていません。


 実は奈津芽を推薦したのは、外藤です。


(貝力奈津芽、御徒町樹里。二人共、俺がいただく)


 外藤は誰にも気づかれないようにニヤリとしました。


 ワクワクが止まらない地の文です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ