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樹里ちゃん、歴史ドラマの顔合わせにゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、某公共放送の歴史ドラマの主役にも抜擢されたママ女優でもあります。


 樹里は、雇い主である五反田氏に、


「ドラマと映画の撮影を掛け持ちするそうだが、メイドの仕事は目黒さんがいるから、休んだらどうかね?」


 気遣いされたのですが、


「大丈夫ですよ、旦那様」


 樹里は笑顔全開で応じました。エロメイドの目黒弥生一人には任せておけないという事のようです。


「ううう……」


 樹里と五反田氏のやり取りをこっそりと聞いていた元泥棒の弥生は項垂れました。


「元泥棒は関係ないでしょ!」


 過去を執拗にほじくり返す◯◯◯◯◯のように陰湿な地の文に涙を浮かべて抗議する弥生です。


 元泥棒だから、一人にすると何を仕出かすかわからないという事ですよ。


「ううう……」


 一番指摘されたくない事をズバッと指摘した某みのさんのような性格の地の文の言葉に打ちのめされる弥生です。


「目黒さんも一人前になったのだから、ここは彼女に全部任せて、少し身体を休ませた方がいいよ、樹里さん」


 それでも、気遣いの人である五反田氏は言いました。


「そうなんですか?」


 樹里は首を傾げて応じました。


(休みたくないのか? それとも、目黒さんに任せるのは不安なのか?)


 樹里とは付き合いが長い五反田氏ですが、そのリアクションには顔を引きつらせてしまいました。


「ご主人とこの前話して、男の子が欲しいと言っていたからね。身体を休ませて、三人目を考えてみたらどうかね?」


 普通の人が言えば、セクハラでパワハラになりそうですが、五反田氏の人柄で、そうはなりません。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。不甲斐ない夫のくせに、三人目が欲しいと抜かすとは、杉下左京も随分と出世したものだと思う地の文です。


「うるさい! 男の子が欲しいんだよ!」


 すると、左京の心が七段に折れてしまいそうな答えが返ってきました。


「ウチの家系は、男の子が生まれないのです」


 何故かそんな衝撃的な発言も笑顔全開でする樹里です。


「そうなんですか」


 五反田氏は更に顔を引きつらせて応じました。


 左京が聞けば、愛人を作ろうと思う事でしょう。


「思わねえよ!」


 樹里とは男の子が望めない事を知り、この世の終わりのような心境だった左京は、気力を振り絞って口さがない地の文に切れました。


 


 そして、その日のメイドの仕事を終え、樹里はそのまま池袋にある日本テレビ協会(NTK)に向かいました。


「樹里様にはご機嫌麗しく」


 いつもと違う登場の仕方をして、若干上がり気味の昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「いつもありがとうございます」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「夜の池袋は都内でも有数の難所です。我らが樹里様をガードしますので、ご安心ください」


 眼鏡男達は深々と頭を下げて言いました。樹里から何の反応もないので、


「しまった!」


 ハッとして顔を上げると、樹里はすでに成城学園前駅に向かっていました。


(またしても放置プレー……。しかも、日も暮れたこの時間でのこの仕打ちは更にも増して、五臓六腑に沁み渡る!)


 変態集団はこっそりと悦に入っていました。不気味だと思う地の文です。


 


 そして、いつものように何事もなく、樹里は無事にNTKに到着しました。


「樹里様、それではお帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼をして立ち去りました。


「ありがとうございました」


 樹里はお辞儀をして眼鏡男達を見送り、ビルのロビーに入って行きました。


「樹里さん、お久しぶりです」


 そこには、意地悪女優の双璧の一人である貝力かいりき奈津芽なつめがいました。


「意地悪女優じゃありません!」


 奈津芽はしつこい地の文に抗議しました。


「お久しぶりです」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「私、別の番組の収録で来ていて、樹里さんがいらっしゃるって聞いて、お待ちしていたんです」


 奈津芽は目をウルウルさせて告げました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。奈津芽は辺りをはばかるように声をひそめて、


「映画の第二弾、まだ相手役の女優さんが決まっていないのですよね?」


 なるほど。枕営業をするつもりですね。


「そんな事は断じてしません!」


 指摘が露骨過ぎる地の文に切れる奈津芽です。


「はっ!」


 我に返ると、すでに樹里は奥のスタジオに向かっていました。


「待ってください、樹里さん!」


 涙ぐみながら樹里を追いかける奈津芽です。しかし、時すでに遅く、樹里はスタジオに入ってしまいました。


「関係者以外立ち入り禁止です」


 まるで仁王のような警備員さんがまさに仁王立ちして、行く手を阻みました。


「はい……」


 奈津芽は涙をこらえて、樹里が出てくるのを待つ事にしました。


 


 樹里が入ったスタジオは、すでに明治時代の建物のセットが組まれており、いつでも撮影が始められる状態です。


「お待ちしておりました」


 そこへチーフプロデューサーの丹東たんとう斜男はすおがやって来ました。


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里が深々と頭を下げると、丹東は慌てて、


「あ、いや、そういう意味で言った訳ではないので、気にしないでください」


 嫌な汗をハンカチで拭いながら言いました。


「そうなんですか」


 樹里もそういうつもりで頭を下げた訳ではないのですが、笑顔全開で応じました。


「樹里姉、久しぶり!」


 そこにはすっかり成長して大人っぽくなった年子の妹達がいました。


 ブーフーウーでしたっけ?


「違います!」


 往年のボケをかました地の文に異口同音に切れる真里と希里と絵里です。


 真里は今年の四月で五年生、希里は四年生、絵里は三年生です。


 月日の経つのは早いものです。


 その下に生まれた三つ子も、樹里の長女の瑠里と同い年で、今年で五歳です。


「樹里姉の小さい頃の役で、歴史ドラマに出られるなんて、すごく嬉しいよ!」


 歴女の片鱗を見せ始めている真里は目を輝かせています。


「さっきさ、ジャニーズの人、見ちゃった!」


 嬉しそうに話すミーハーな希里です。


「モジャ丸と廊下ですれ違ったんだよ、樹里姉!」


 興奮気味に話す絵里です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「貴女も、あまり無理しないでね。私が代われるシーンは、代わりに出るから」


 姉の璃里は、長女の実里みりと次女の阿里ありを伴って来ていました。


「ありがとうございます、お姉さん」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 ほとんど見分けがつかない七人を見て、丹東以下スタッフとその他の出演者は、唖然としていました。


 


 めでたし、めでたし。

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