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樹里ちゃん、稲垣琉衣の親衛隊に狙われる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、幅広い分野で活躍するマルチな才能の持ち主です。


「行って来ますね、左京さん、瑠里、冴里」


 樹里は笑顔全開でいつものように出勤します。


「行ってらっしゃい」


 不甲斐ない夫の杉下左京は、遂に職を失い、今日からフリーターです。


「違う!」


 真実を述べたはずの地の文に切れる左京です。


 あ、違っていましたね。ニートでした。


「それも違う!」


 二段ボケをかました地の文に更に切れる左京です。


「自宅の一角に新しい事務所が完成したので、通勤の必要がなくなったんだよ!」


 何故か涙ぐんで解説する左京です。


 五反田駅前の事務所があったビルの最上階に不倫相手の女性弁護士がいたので、会いづらくなるのが悲しいようです。


「その上まだ違う!」


 五段重ねのボケをぶち込んだ地の文に重ねて切れる左京です。


(通勤の必要がなくなったから、車は処分してくださいと樹里に言われたんだよ……)


 家計を支えてくれている樹里の提案には何も言い返せない左京は、心の中で愛車の冥福を祈りました。


「廃車にはしてねえよ! 買取してもらっただけだよ!」


 オンボロ車を引き取ってもらったのに見栄を張る左京です。


 二十年落ちの車を買い取る奇特な業者は存在しないと思う地の文です。


「ううう……」


 実際には只同然の金額で引き取ってもらった左京は項垂れました。


「いってらっしゃい、ママ!」


 長女の瑠里は元気良く言いました。


「いてらしゃい、ママ!」


 次女の冴里も元気いっぱいです。


「ワンワン!」


 ゴールデンレトリバーのルーサも元気良く吠えました。


「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」


 いつものように昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。


「おはようございます」


「おはよう、たいちょう!」


「おはよ、たいちょ」


 笑顔全開の三重奏に至福の時を感じる眼鏡男達ですが、


「樹里様、我らの調査で、稲垣琉衣の親衛隊の活動が激しさを増しているのがわかりました」


 眼鏡男が分厚いA4サイズの報告書を樹里に差し出しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開でそれを受け取りました。


「JR水道橋駅周辺、及びその構内、更には新宿駅までの各駅のホーム付近、新宿駅構内、並びに小田急線沿線、成城学園前駅周辺と調査を進め、連中やそのシンパの姿を数多く確認しております」


 眼鏡男はその分厚い眼鏡の奥の目をギラつかせて、解説しました。


「うおお!」


 ところが、知らないうちに樹里は駅に向かって歩き出しており、瑠里も冴里も左京に連れられて保育所に向かっていました。


(この非常事態にも動揺しない樹里様ご家族の団体放置プレー……。五臓六腑が燃え盛りそうだ)


 変態の極致に到達しそうな勢いの眼鏡男達です。


 


 そして、眼鏡男達の調査にも関わらず、琉衣の親衛隊は出現せず、樹里は無事に五反田邸に到着しました。


「では、お帰りの際にまた」


 予想が大きくはずれた眼鏡男達は満身創痍の身体を引きずるようにして立ち去りました。


「ありがとうございました」


 樹里は深々と頭を下げました。


「樹里さーん!」


 そこへしばらくぶりの登場に少々上がり気味のエロメイドが走ってきました。


「エロメイドじゃないわよ!」


 地の文への突っ込みも若干嬉しさが滲み出ている目黒弥生です。


「嬉しがってなんかいません!」


 地の文の指摘を全面否定する弥生です。旅費を全額出してもらったのでしょうか?


「意味不明な事を言わないで!」


 芸能ネタが三度のカレーよりも好きな地の文に切れる弥生です。


 強がりを言ったので、出番はこれで終了です。


「何でよ!? これからお掃除が始まって、誰かが来るんじゃないの?」


 必死になってセリフをぶち込む弥生ですが、そこまでです。


 樹里はその日一日の仕事を終えて、帰宅です。


「えええ!?」


 端折はしょりに端折った地の文に顎も外れんばかりに驚く弥生です。


「弥生さん、お疲れ様でした」


 樹里は笑顔全開で挨拶し、五反田邸を出ました。あまりのショックに声も出ない弥生です。


「樹里様、お疲れ様でした」


 そこへ二度目の登場となる眼鏡男達です。


「お疲れ様です」


 樹里は笑顔全開で応じました。随分と日が延びてきましたが、まだ六時ともなれば暗いです。


 樹里達は街灯に照らされた駅への道を歩きました。


 閑静な高級住宅街ですので、人通りはほとんどありません。


「この時を待っていたよ」


 どこからか、四十代後半のオジさんの声が聞こえました。


「違う! 私は二十代だ!」


 この反応はどうやら琉衣の親衛隊長のようです。


「むむ、早くも現れたか!」


 眼鏡男達はサッと樹里の周囲に立ち、辺りを警戒しました。


「無駄さ」


 またどこからか声が聞こえ、バチバチッと火花が飛び散る音がして、呆気なく倒される眼鏡男達です。


 相変わらず役に立たない連中だと思う地の文です。


「こんばんは、御徒町樹里」


 右手に火花を飛び散らせたスタンガンを持った琉衣の親衛隊長が現れました。


「こんばんは、古○新太さん」


 樹里は笑顔全開で全く悪気なく言いました。


「違うぞ! 確かに新橋駅付近で間違えられて、サインまでねだられた事はあるが、断じて違うぞ!」


 親衛隊長は鼻息を荒くして否定しました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。すると親衛隊長はフッと笑い、


「天罰を受けろ、御徒町樹里!」


 スタンガンを突き出して叫びました。


「そうなんですか」


 しかし、樹里はそれを難なくかわし、父親の赤川康夫製作の強力なスタンガンを取り出し、親衛隊長に突きつけました。


「ぎょへびえー!」


 新種の動物のような叫び声を上げ、隊長は全身を電流に貫かれ、その場に倒れてしまいました。


「あ、すみません、強さをMAXにしたままでした」


 樹里は笑顔全開で詫びました。


(御徒町樹里め、今回はこれくらいで許してやる! 次はこうはいかないぞ!)


 気絶しながらも、虚勢を張るバカな親衛隊長です。


 


 めでたし、めでたし。

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