樹里ちゃん、稲垣琉衣の親衛隊に逆恨みされる
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、ホラーもミステリーもコメディもこなすマルチな才能の女優でもあります。
そんな樹里の新居にスケベ俳優と意地悪女優が訪れました。
「違います!」
捏造を話をまたいで繰り広げる地の文に切れる加古井理と稲垣琉衣です。
失礼しました、どスケベ俳優と性悪女優でしたね。
「それはもっと違います!」
更に捏造を展開する地の文にもう一度切れる加古井と琉衣です。
では、ゲスさんとBッキーさんですか?
「やめなさい!」
無関係な不倫カップルを例えに出した地の文に慌てて抗議する加古井と琉衣です。
「そうなんですか」
それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。ゴールデンレトリバーのルーサの散歩から無事帰還してしまった不甲斐ない夫らしき存在の杉下左京は隣で顔を引きつらせています。
「突っ込みどころが多過ぎてさばき切れねえよ!」
多彩なボケをかました地の文についていけない左京が破れかぶれの切れ方をしました。
「旦那様に相談してみますね」
樹里は笑顔全開で加古井と琉衣を送り出しました。
「よろしくお願いします」
加古井と琉衣は深々とお辞儀をして、タクシーで帰って行きました。
「あの二人が付き合っていて、妊娠までしたとは、驚いたな」
早速週刊誌にネタを提供しようと思う左京です。かなりの高値で売れると思っています。
「そ、そんな事はしないぞ! 仮にも俺は元警察官だ!」
図星を突かれて焦りまくる左京ですが、その警察官もたくさん悪い事をしていると思う地の文です。
「ううう……」
反論の余地もない事を地の文が言ったので、項垂れるしかない左京です。
そして、翌日になりました。
「では、行ってきますね、左京さん、瑠里、冴里」
樹里は笑顔全開で出勤です。
「いってらっしゃい、ママ!」
元気良く言う長女の瑠里です。
「いてらしゃい、ママ!」
お姉ちゃんに負けないくらい元気に言う次女の冴里です。
「樹里、夕べ、気になる事をネットで見たんだ」
インターネットでエロ画像を収集している左京が言いました。
「違う!」
真実を告げた地の文に血の涙を流して抗議する左京です。
「りんごですか?」
樹里は以前かました事があるボケで応じました。
「いや、木じゃなくて、気なんだけどさ」
左京は心が折れそうになりましたが、何とか踏みとどまり、
「加古井と琉衣ちゃんがここに来たのを琉衣ちゃんのファンが嗅ぎつけたらしくて、樹里を襲撃するって書き込みをしていたらしいんだ」
小声で樹里に告げました。
「そうなんですか」
樹里が笑顔全開で応じたので、またくじけそうになる左京です。
「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」
するとそこへ、しばらくぶりに登場する昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。
「おはようございます」
樹里は笑顔全開で挨拶しました。
「おはよう、たいちょう」
「おはよ、たいちょ」
瑠里と冴里も笑顔全開で挨拶しました。
「おおお!」
また笑顔全開の三重奏に感動している眼鏡男達でしたが、
「樹里様、不穏な動きをしている輩の情報を入手致しました」
深刻な表情で言いました。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開なので、眼鏡男はさすがに涙ぐみましたが、
「女優の稲垣琉衣の親衛隊が樹里様に危害を加えるとネットで声明を出しています」
親衛隊とは、どこにでもいる面倒臭い集まりなのですね。
「ううう……」
自分達も親衛隊を自称しているので、地の文の鋭い指摘に項垂れる眼鏡男達です。
当たっているだけにきついのだと思う地の文です。
「そうなんですか。でも、大丈夫ですよ」
樹里が笑顔全開で言ったので、眼鏡男は驚いて、
「いえ、とんでもないです。稲垣琉衣の親衛隊は、ここ数ヶ月の間に分裂し、過激な考え方をする連中が琉衣と噂になった芸能人を闇討ちにしたり、家に投石したりしているのです」
フリップで樹里に説明するという念の入りようです。
「でも、大丈夫ですよ」
樹里は笑顔全開で左京を見てから眼鏡男達を見ました。
「え?」
樹里のチラ見にドキッとしてしまう左京です。
(お、俺がいるから心配ないって事なのか、樹里?)
勝手に妄想を膨らませ、感動の涙を流しそうになる左京です。
「皆さんが守ってくださるから、心配ないですよ」
樹里が笑顔全開で眼鏡男達に告げたので、眼鏡男達は感動のあまり固まってしまい、左京は衝撃のあまり石化してしまいました。
しばらく、眼鏡男達は陶然としていましたが、ハッと我に返り、
「我らの命に代えましても、樹里様はお守り致します!」
ビシッと敬礼を決めましたが、樹里はすでにJR水道橋駅を目指して歩いていました。
(ああ、樹里様の硬軟自在のプレイ……。五臓六腑に沁み渡る)
感涙に咽ぶ変態集団ですが、
「樹里様、お待ちください!」
慌てて樹里を追いかけました。
「パパ、おいてっちゃうぞ!」
瑠里が得意の仁王立ちで可愛くほっぺを膨らませて言いました。
「パパ、おいてちゃうぞ!」
冴里も真似してほっぺを膨らませました。
「ごめんよお、瑠里、冴里」
可愛い盛りの娘二人に言われて、何とか石化から復活した左京は、保育所へと向かいました。
(御徒町樹里、我らの天使であらせられる琉衣様が加古井理と付き合っているのを放置するとは許さん! 天罰を下してやろうぞ!)
電信柱の陰から樹里達を見ている不審者がいました。
すぐに通報しましょう。
「まだ何もしてねえよ!」
気が早過ぎる地の文に切れる不審者です。
「不審者ではない! 私は稲垣琉衣様の親衛隊長だ!」
ボサボサ頭で糸のように細い目、ピチピチの黒いTシャツの上に稲垣琉衣の名前が入った法被を着て擦り切れたようなベージュのチノパンを履いたオジさんが言いました。
「おじさんではない! まだ私は二十代だ!」
どう見ても四十代後半のその男は堂々と年齢詐称をしました。
「私は二十代だ! 嘘ではない!」
そんなやりとりをしているうちに、樹里は行ってしまいました。
「おのれ、御徒町樹里、今日はこれくらいにしておいてやる。次は許さないからな!」
思い切り捨て台詞っぽい事を言い放って駆け去るオジさんです。
「オジさんではない!」
地の文にもう一度切れて姿を消す琉衣の親衛隊長です。
波乱の予感がする地の文です。




