樹里ちゃん、あるカップルの相談を受ける
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、幅広い演技力を持つママ女優でもあります。
今日は、樹里の不甲斐ない夫である杉下左京の探偵事務所を新居の一角に移す設計をするために樹里はお休みをとりました。
左京は毎日お休みなので、何も支障はありません。
「うるさい!」
余計な事を言うのが悪い癖の地の文に切れる左京です。
「何から何まで申し訳ない、樹里」
左京は涙ぐんで樹里に詫びました。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開で応じました。
「それより左京さん、瑠里と冴里を保育所まで連れて行ってください」
樹里に笑顔で告げられ、
「はい」
左京は項垂れて、長女の瑠里と次女の冴里を連れて出かけました。
樹里は朝食の後片付けを終えると、ゴールデンレトリバーのルーサの散歩に出かけました。
「ワンワン!」
ルーサは嬉しそうに吠え、尻尾を激しく振りました。もう随分大きくなったので、瑠里には散歩が無理になっているのです。
どうせなら、毎日が日曜日の左京が散歩をさせればいいと思う地の文です。
「更にうるさい!」
瑠里と冴里を送ってきた左京が地の文に切れました。
「俺がルーサの散歩に行ってくるから」
左京は樹里からリードを受け取って言いました。
「そうなんですか? ルーサは力があるので、気をつけてくださいね」
樹里が笑顔全開で警告しましたが、
「うおおお!」
時すでに遅く、左京はルーサに引きずられて散歩に出発していました。
「行ってらっしゃい」
それを笑顔で送り出す樹里です。その時、家の前にタクシーが急停止しました。
「やっと見つけた!」
すると中から、スケベ俳優と意地悪女優が降りてきました。
「違います!」
地の文の的確な表現に切れる加古井理と稲垣琉衣です。
「お久しぶりです、樹里さん」
加古井と琉衣は揃って挨拶しました。
「お久しぶりです」
樹里は笑顔全開で挨拶を返しました。
「実は、樹里さんに折り入って相談があってお邪魔しました」
琉衣が辺りを見回しながら小声で言いました。
お邪魔はしてほしくないと思う地の文です。
「うるさいわね!」
いちいちチャチャを入れる地の文に切れる琉衣です。
「そうなんですか」
それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。
加古井と琉衣は居間に通され、樹里が紅茶を淹れて出しました。
「実はですね、ええと……」
加古井は何故か口籠り、琉衣を見ました。琉衣は貴方が言いなさいよと声に出さずに口を動かしました。
加古井はフウッと溜息を吐いて樹里を見ました。すると樹里が、
「琉衣さんが妊娠しているのですね?」
笑顔全開でいきなり核心を突く発言をしました。
「えええ!?」
加古井と琉衣は仰天してソファから立ち上がってしまいました。
「どうしてご存知なんですか?」
琉衣は呼吸を整えて尋ねました。
「週刊誌の記者の方が昨日、五反田邸に来て、いろいろ訊いていきましたよ。お二人はお付き合いされていたのですね」
樹里は事も無げに笑顔全開で応じました。琉衣と加古井はがっくりと項垂れました。
「やっぱり、ばれてるのね……」
琉衣は涙ぐんで呟きました。樹里はそんな二人の心情を知ってか知らずか、
「予定日はいつですか?」
「六月二十四日です」
琉衣が顔を赤らめて言いました。何故か加古井は嫌な汗を掻いています。
「おめでとうございます」
樹里は笑顔全開でお祝いを言いましたが、
「全然めでたくないんです」
加古井と琉衣は声を揃えて言いました。
「そうなんですか?」
樹里は不思議そうに二人を見ました。加古井が意を決したように、
「僕達、付き合っているのを事務所に内緒にしているんです」
「そうなんですか」
樹里が笑顔全開で応じたので、加古井と琉衣は顔を引きつらせました。
「誰にも話していないのですか?」
樹里が尋ねました。すると琉衣は、
「奈津芽ちゃんには話してあります」
奈津芽ちゃんとは、琉衣と双璧をなす意地悪女優の貝力奈津芽の事です。
「意地悪女優じゃありません!」
全く違う場所にいるのに見事にハモって切れる琉衣と奈津芽です。
でも、奈津芽に話したという事は、全国放送で記者会見したのと同じだと思う地の文です。
加古井が琉衣を選んだのを嫉妬してばらしまくったはずです。
「そんな事はしていませんし、嫉妬なんかしていません!」
またどこかで地の文の憶測過ぎる発言に切れる奈津芽です。
「どこから漏れたのかしら?」
不安そうに加古井を見る琉衣です。加古井は首を傾げて、
「わからないよ。僕は誰にも話していないから……」
そこまで言ってハッとなる加古井です。
「SNSだ!」
見事にハモって言う加古井と琉衣です。
Bッキーと下衆さんと同じ事をしてしまった間抜けな二人です。
「ううう……」
図星を突かれたので何も言い返せずに項垂れる加古井と琉衣です。
「騒ぎが大きくなる前に事務所に話して、対応策を検討するしかないですね」
樹里があまりにも正当な発言をしたので、逆に驚愕してしまった加古井と琉衣です。
「あああ!」
加古井がSNS対策のためにスマホを起動させて叫びました。
「どうしたの?」
琉衣が画面を覗き込むと、そこには目を疑うようなエロ画像が映っていました。
「違う!」
捏造を繰り返す◯◯のような地の文に切れる加古井です。
画面には、琉衣のファンからと思われる脅迫文が載っていました。
「琉衣ちゃんを汚した加古井、許すまじ! 死刑! 死刑! 死刑!」
そんな文章が延々と並んでいるのです。
「遅かった……」
がっくりと項垂れる加古井を優しく抱きしめる琉衣です。
「大丈夫よ、理さん。私がそんな事を絶対にさせないから」
「ありがとう、琉衣ちゃん」
加古井は涙ぐんで琉衣を見ました。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開です。
果たして、どうなる事でしょうか?