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樹里ちゃん、楼年エリナを激励する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、映画もバラエティもこなすマルチなママタレントでもあります。


 今日は、樹里はホラー映画「魔名手まなて」の宣伝のためにいつものようにテレビ夕焼に来ています。


 よって、不甲斐ない夫の杉下左京や昭和眼鏡男と愉快な仲間達、保育所の男性職員の皆さんの登場はありません。


「どうしてだよ!? この話は、元々、俺が主人公だったはずだぞ!」


 古い話をほじくり返して、地の文にいちゃもんをつける左京です。


 そのような事実はないと表明する地の文です。


 不倫でも、略奪でもないのです。


「意味不明な事を言うな!」


 高崎市木部町から中継で切れる左京です。


 更に意味不明な事で真相を誤魔化す地の文です。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 ロビーのソファで、樹里と長女の瑠里と次女の冴里は笑顔全開で応じました。


 瑠里も冴里も、ちょい役で出ているので、一緒に宣伝に来たのです。


 瑠里がいると、ある女性アナウンサーが顔を引きつらせると思う地の文です。


 女子アナではなく、女性アナウンサーと表現するのは、某ベテランアナウンサーが怖いからなのは内緒です。


「やっほー、樹里」


 そこへ樹里の親友で、共演者でもある松下なぎさが来ました。


「おはようございます、なぎささん」


 樹里は立ち上がって挨拶しました。


「おはよう、なぎたん!」


 瑠里は元気良く笑顔全開で挨拶しました。


「おはよ、なーたん」


 冴里も笑顔全開で挨拶しました。


「おはよう、瑠里ちゃん、冴里ちゃん」


 なぎさは瑠里と冴里のほっぺをつつきながら応じました。


 瑠里と冴里はキャッキャと騒ぎました。


「あれ、乃里ちゃんは連れてこなかったの?」


 なぎさは辺りを見渡して尋ねました。


「乃里ちゃん?」


 樹里は首を傾げました。


「あ、ごめん、間違えちゃった! 乃里ちゃんはこのお話にはまだ出てきていないんだね」


 テヘッと額をペシッと叩きながら肩をすくめるなぎさです。


 どうやら、番外編の「樹里源氏」と混同しているようです。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


(何なのよ、あの奇妙奇天烈な二人は?)


 それを遠巻きに半目で見ている主演女優の老年エリナです。


楼年ろうねんよ!」


 地の文の軽いジャブのようなボケに機敏に反応して切れるエリナです。


「エリナさん、樹里さん、なぎささん、本日はよろしくお願い致します」


 そこへ朝の情報番組の顔である松尾彩アナウンサーが作り笑顔全開で現れました。


「作り笑顔じゃありません!」


 地の文の気の利いたモーニングジョークに激ギレするもうすぐ四十路の松尾アナです。


「四捨五入すればまだ三十歳です!」


 更に切れる松尾アナです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「そうなの? アヤパン、若作りなんだね」


 何の悪気もなく人の心をえぐるような事を言ってしまうなぎさです。


 財界の雄である五反田氏の親友であるなぎさには何も言えない松尾アナは顔を引きつらせました。


(我慢しなくちゃ!)


 必死に自分に言い聞かせる松尾アナを可愛いと思う地の文です。


「おばちゃん、よろしくね」


 瑠里も悪気なく言いました。


「おばあちゃん、よろしゅくね」


 冴里も全く悪意なく言いました。


(きいいい!)


 松尾アナは必死になって心の中で絶叫を処理するという離れ業をしました。


「さあ、どうぞこちらです」


 松尾アナの異変に気づいたディレクターが樹里達を誘導しました。


「松尾さん、大丈夫ですか?」


 後輩アナウンサーの中田なかた絵萌えもが声をかけました。


「平気よ、中田ちゃん」


 目の焦点が合っていない状態で微笑む松尾アナを見てたじろぐ中田アナです。


(噂には聞いていたけど、想像以上だったわ、御徒町樹里さん達……)


 すでに番組を降りたくなっている中田アナです。


 


 そして、しばらくして、番組が始まりました。


 内容が進み、いよいよ樹里達の映画の宣伝の時間になりました。


「さて、本日は日本中を恐怖のどん底に落とし入れたホラー映画『魔名手』にご出演されている皆さんにいらしていただきました」


 まだ目の焦点が定まっていない松尾アナが精一杯の笑顔で告げました。


 隣の男性アナも嫌な汗を掻いています。


「ご登場いただきましょう、楼年エリナさん、御徒町樹里さん、松下なぎささんです」


 そのセリフは男性アナが代わりに言いました。松尾アナがプルプル震えていたからです。


 エリナはサッと切り替え、笑顔で登場しました。


 樹里はいつも通りの笑顔全開、瑠里と冴里は辺りを見渡しながらも笑顔で続きました。


「やっほー!」


 なぎさだけは、カメラに近づいて挨拶しました。


 ADとカメラマンが焦りますが、なぎさは全然気にしていません。


「お時間がなくて申し訳ありませんが、映画の宣伝をお願います」


 男性アナが言いました。するとエリナは笑顔を輝かせて、


「大ヒットは撮影当初から予感していました。それがその通りになって嬉しいです。皆さん、どうぞ映画館へ足をお運びください」


 心の中では全くそんな事を思っていないのに言い切りました。さすが女優だと思う地の文です。


「では、樹里さん、お願いします」


 中田アナが微笑んで促します。すると樹里は更に笑顔全開になり、


「この映画は、主演の楼年エリナさんがいらしてくださったからこそ、成立した映画です。エリナさんの迫真の演技にご注目ください」


 エリナは思ってもいなかった樹里の言葉にハッとし、思わずウルッとしてしまいました。


(樹里さん……)


 自分が浅ましい考えで行動していた事を恥ずかしく思うエリナです。


「では、なぎささん、お願いします」


 ようやく復活した松尾アナが言いました。


「みんな、もう少しすれば、DVDやBDが出るから、それを観てくれればいいよ。映画館まで行くの、大変だもんね」


 完全に元も子もない事を言ってのけてしまうなぎさです。


 某元祖バラドル以来の放送事故だと思う地の文です。


 スタジオ全体が凍りついたのは言うまでもありません。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 それでも、樹里と瑠里と冴里は笑顔全開です。


 


 めでたし、めでたし。

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