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樹里ちゃん、左京に提案する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、映画もドラマもバラエティもこなすママタレントでもあります。


 今日は、樹里は仕事をお休みしています。


「わーい、パパとママとさーたんといっしょにいける!」


 長女の瑠里は、久しぶりに樹里と保育所に行くので、大喜びです。


「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」


 いつもより早めに登場の昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「おはようございます」


「おはよう、たいちょう」


「おはよ、たいちょ」


 樹里と瑠里と冴里が笑顔全開で挨拶しました。


「おお!」


 たったそれだけの事に無上の喜びを感じる眼鏡男達です。


「きょうはね、ママとパパとさーたんとみんなでいくんだよ!」


 やや興奮気味に言う瑠里です。


(瑠里様、お美しゅうございます)


 瑠里命の変態隊員は心の中で絶叫しています。


「わーい!」


 冴里も意味がわかっていませんが、大喜びしています。


(冴里様、すでにお美しい!)


 冴里命の変態隊員も心の中で雄叫びをあげていました。


 変態集団だと思う地の文です。


「違います!」


 推測に過ぎない事をさも真実のように語るまるで◯◯のような地の文に抗議する眼鏡男達です。


「はっ!」


 我に返ると、樹里達はすでに保育所に向かっていました。


(ああ、そしてこの放置プレー……。五臓六腑に沁み渡る!)


 眼鏡男達は至福の時間を感じていました。やっぱり変態だと思う地の文です。


 


 そして、もちろん、樹里達は何事もなく保育所に到着しました。


「瑠里ちゃん、冴里ちゃん、おはよう!」


 別の変態集団が出現しました。


「違います!」


 地の文のボケに猛抗議する保育所の男性職員の皆さんです。


「そうなんですか」


「そうなんですか」


「しょーなんですか」


 樹里と瑠里と冴里は笑顔全開で応じました。


「いい子でいるのですよ、瑠里、冴里」


「あい、ママ」


 瑠里と冴里は樹里に手を振って保育所に入って行きました。


 樹里は二人が中に入るのを見届けてから、家に戻りました。


「おい!」


 誰かが地の文に叫びました。誰でしょう?


「俺だよ!」


 何と、不甲斐ない夫の杉下左京がまだいました。


「どういう意味だ!?」


 ごく普通の感想を述べただけの地の文にまるで◯◯のように切れる左京です。


 例の如く、◯の中には好きな言葉を当てはめて遊んで欲しいと思う地の文です。


 今話題のSM◯Pの事務所の人ではないと保身に走る地の文です。


「左京さん、家に着いたら、お話があります」


 樹里が笑顔全開で告げました。


「え?」


 左京は血の気が引くのを感じました。遂に「卒論」を突きつけられるようです。


「誰が高崎市木部町だ!」


 わかりにくい切り返しをして笑いを取ろうとする下衆の左京です。


(いやいや、マジでそういう言い方、心臓に悪いからやめて欲しい……)


 左京は顔を引きつらせて、


「な、何かな、樹里?」


 恐る恐る尋ねました。すると樹里は更に笑顔全開で、


「帰ってから話しますね」


 呼吸困難に陥りそうなくらい狼狽うろたえてしまう左京です。


(まさか、本当に離婚の話?)


 最近、すっかり仕事から遠ざかっている「ミスターヒモ」と化している左京です。

 

 いろいろと妄想を膨らませているうちに、とうとう家に着いてしまいました。


 いよいよ、「卒論」提出を宣告されるようです。


「やめろー!」


 血の涙を流して地の文に切れる左京ですが、膝の震えが止まらないのは内緒です。


(一体何の話だろう?)


 鼓動が早くなり、めまいがしてくる左京ですが、樹里は全然そんな事に気づいていません。


 二人は居間に行き、左京はソファに座らされて、樹里はお茶を淹れました。


(針のむしろに座っているようだ……)


 嫌な汗がしこたま出てくる左京です。


「どうぞ」


 相変わらず笑顔全開で湯呑み茶碗を渡す樹里です。


「はい」


 震える手でそれを受け取り、お茶をこぼしそうになる左京です。


「ええと、話って何かな、樹里?」


 左京はその間がえ切れずに言いました。


「事務所の事です」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「え?」


 またギクッとする左京です。どうやら、お友達の女性弁護士との実家への帰省がばれたようです。


「俺の実家はもうねえんだよ! だから帰省できねえんだよ!」


 念を入れたボケをかます地の文に破れかぶれの切れ方をする左京です。


「じ、事務所の事?」


 左京は滝のような汗を額から流して尋ねました。


(何もやましい事はないはずなのに、どうしてこんなにドキドキするんだ?)


 根が小心者の左京はすでに心臓が壊れそうです。


「五反田まで通うのは大変でしょうから、この家の一角を改装して、事務所にしませんか? ありささんもその方が近くなって便利だと思いますよ」


 予想の遥か斜め上からの「攻撃」を仕掛けてきた樹里に、左京は沖◯艦長の心境を想像しました。


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で応じてしまう左京です。


 でも、五反田の事務所を引き払ってしまうと、女性弁護士との不倫が難しくなります。


 仕方がないので、記者会見で釈明しようと決意する左京です。


「不倫なんかしてねえし、記者会見なんかしねえよ!」


 意味不明のボケをかました地の文に切れる左京です。


「でも、一つだけ気がかりな事がありますね」


 樹里が深刻な顔をして言ったので、左京は口から頭骨が飛び出してしまいそうなくらい驚きました。


「な、何でしょうか?」


 狼狽ろうばいのあまり、敬語になってしまう左京です。


「家賃を半額にしてくださった大家さんに申し訳ない気がするのです」


 樹里は笑顔全開で言いました。またしても、予想を日本海溝級に裏切る樹里の返しに、左京は白骨化しそうになりました。


(今日一日で、寿命が激しく縮んだ気がする……)


 どっと疲れてしまった左京です。


 


 めでたし、めでたし。

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