樹里ちゃん、メイド喫茶で働く
御徒町樹里はメイドです。
成城の大富豪である五反田六郎氏の屋敷で働いていました。
ところが、五反田氏が事業の拡張のために渡米する事になりました。
家族全員移住するのです。
「本当は、君にも来て欲しいのだが」
五反田氏は樹里が同行してくれる事を切望していましたが、彼女の家の事情も知っていたので、無理強いはしませんでした。
「しばらくしたら日本に戻る。その時はまたここに来てくれたまえ」
「はい、旦那様」
こうして樹里は五反田家を去り、仕事を探す事になりました。
そして「メイドさん募集」の広告を見て、どんなところなのかも確認せずに履歴書を送ってしまいました。
面接日当日です。そこは、「メイド喫茶」でした。しかも、かなりきわどいところのようです。
「御徒町樹里さん、ですか?」
店長が面接官です。目が危なそうで、普通の女子なら逃げ出しそうですが、樹里は笑顔全開です。
「はい。そのようです」
「は? もしかして偽名?」
「いえ、違うと思います」
店長はからかわれているのかと思い、イラッとしました。
「こういうお店で働いた事はないみたいだけど……。この、『カワイコちゃん』て言うお店、どんな店だったの?」
「楽しいお店でした」
相変わらず笑顔全開の樹里です。
「いやいや、そんな事を訊いているのではなくてね」
またイラッとする店長ですが、
(こいつ、面白いな。雇ってみるか)
「わかりました。一応採用です。いつから来られますか?」
「今日からでも大丈夫です」
「わかりました」
樹里はそのまま奥に連れて行かれて、制服を渡されました。
それは、あのキャバクラの衣装を上回る凄さでした。
「これは……」
樹里は衣装を手に取り呟きました。
「着られないのなら、採用は取り消しですよ」
店長はニヤリとして言いました。
「可愛いですね」
樹里の反応に店長は昭和並みのこけ方をしました。
そして試着です。
「ブッ」
店長は鼻血が出そうになりました。樹里のスタイルの良さに驚愕しています。
(やった! ライバル店に勝ったぞ!)
彼は心の中でガッツポーズしました。
「やっぱりちょっと小さかったですね」
樹里はおへそが見えているのを気にしていますが、他は気にならないようです。
「ハハハ」
それはそういう衣装なの。店長はそう思いましたが、何も言いませんでした。
店長の目論見通り、樹里は大人気になり、他店を圧倒してしまいました。
キャバクラ同様、お触りされても怒らない樹里は、エロ親父のアイドルです。
そして本当にメイドをした事があるのを知り、熱狂的なマニアが着きました。
そしてある日の事。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
樹里が席に着くと、そこには見覚えのある顔がありました。
「わわ、御徒町さん!」
何と警視庁の亀島馨がいたのです。彼は樹里の服を見て、鼻血を垂らしてしまいました。
「ああ、亀島さん。今日は警察はお休みですか?」
樹里は笑顔全開で尋ねました。一瞬にして店内を緊張感が走ります。
「お、御徒町さん、警察の話はここではまずいです」
亀島はハンカチで鼻血を拭って言いました。
「そうなんですか?」
結局亀島は居辛くなり、帰ってしまいました。
そして何故か樹里も首になりました。
そのお店が警視庁に風営法違反で捜査に入られたのは、それからまもなくでした。