樹里ちゃん、映画のオファーを受ける
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、映画からバラエティまでこなすマルチな才能の持ち主です。
「行ってきますね、お父さん、左京さん、瑠里」
今日も樹里は、笑顔全開で出勤します。
「行ってらっしゃい」
父親の赤川康夫も笑顔全開で応じます。
「行ってらっしゃい」
不甲斐ない夫の杉下左京はにやけ全開で応じます。
左京はまだ長女の瑠里と樹里のキス攻撃の余韻に浸っています。
変態だと思う地の文です。
「うるせえ!」
ありのままの感想を述べただけの地の文に切れる左京です。
まるでクレーマーです。
「いってらっしゃい、ママ、さーたん、ルーサ!」
元気全開で言う瑠里です。
「じゃあ、俺達も行こうか、瑠里」
左京は樹里達を見送ると、瑠里に告げました。
「うん、パパ!」
瑠里は先日のスタンガン事件以降、更にパパが好きになり、
「パパのおよめさんになる!」
この世の終わりが訪れるのではないかというような発言をしました。
「何でこの世の終わりが訪れるんだよ!?」
地の文の緻密な推測にいちゃもんをつける左京です。
そんな事を言われたので、左京はますます瑠里に甘くなり、言われるがままです。
そのせいで、樹里にこってりお説教されたのは最高機密のようです。
「最高機密にしておいてくれよ!」
瞬間的に何でも話してしまう地の文に涙を流して抗議する左京です。
(瑠里を甘やかすと、樹里に叱られるからなあ。気をつけないと。父親としても失格だ)
妙に難しい事を考えたせいで、頭が痛くなる左京です。
「痛くならねえよ!」
捏造を繰り返す◯◯のような地の文に切れ味抜群の突っ込みを入れる左京です。
芸人としてまた腕を上げたようです。
「芸人じゃねえよ!」
地の文のお世辞に照れながら応じる左京です。
「照れてねえし、お世辞でもねえだろ!」
今日はいつもより出番が多いので、左京は大満足です。
「ううう……」
現実に引き戻した地の文のせいで、大きく振りかぶって項垂れる左京です。
「そうなのかね」
それにも関わらず、康夫は笑顔全開です。
「パパ、はやくしないと、ちこくしちゃうよ!」
瑠里が可愛らしく唇を尖らせて仁王立ちで言いました。
「わかったよお、瑠里ィ」
左京はデレデレして応じました。現金なバカ親だと思う地の文です。
「念のためうるさい!」
わざわざ戻ってきて切れる左京です。
樹里は邸に着くと、ゴールデンレトリバーのルーサを玄関脇にあるケージに入れ、育児室で次女の冴里に授乳をすませてベッドに寝かしつけると、もう一人のメイドと掃除を始めました。
もう一人のメイドが何か叫んでいますが、無視する地の文です。
今度はもう一人のメイドが泣き出しました。少しは反省したようなので、音声を復活させる地の文です。
「何を反省させるつもりよ!」
目黒弥生は肩で息をしながら地の文に切れました。どうやら、一人息子のレッサーパンダは保育所に預かってもらったようです。
「私の息子は颯太! レッサーパンダは風太! 字が違うのよ!」
意味不明の事を口走る弥生です。過労でしょうか?
「いい加減にして!」
血の涙を流して地の文に抗議する弥生です。もう十分遊んだので、気がすんだ地の文です。
「今日はどなたもいらっしゃらないので、仕事が捗りますね」
弥生が言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「冴里ちゃんはまだ保育所に預けないんですか?」
弥生が掃除用具を片付けながら尋ねました。
「はい。今、家を新築中なので、そちらに引っ越してからにしようと思っています」
樹里が笑顔全開でものすごく重要な事をサラッと言ってのけたので、
「ええええ!? 家を新築中なんですかあ!?」
昭和のリアクションで驚いてみせる弥生です。
「私は平成生まれよ! 昭和なんて知らないわ!」
年齢を詐称する地の文に猛抗議する弥生です。
「すごいですね、都内に新築なんて。どこに作っているんですか?」
弥生は興味津々です。大富豪の目黒家の嫁ですが、親と同居の夫の祐樹に不満があるようです。
「ふ、不満なんてないわよ!」
図星にややかすった地の文の発言に動揺が隠しきれない弥生です。
「祐樹に不満がある訳ないでしょ!」
という事は、お姑さんに不満があるという事ですね。
「ち、ち、ち、違います!」
もろわかりだと思う地の文です。早速報告書を作成しましょう。
「やめてー!」
再び血の涙を流して地の文に懇願する弥生です。
「左京さんと住んでいたアパートの近くですよ。瑠里もお友達と離れ離れになるのは嫌でしょうから」
樹里は笑顔全開で応じました。
「そうなんですか」
思わず樹里の口癖で応じてしまう弥生です。
お昼休みを挟み、掃除と洗濯と後片付けが終わり、しばらくぶりに登場したロリコン警備員さん達と東屋で三時のお茶をしていた時でした。
「ロリコンではありません!」
久しぶりなのに迅速に地の文のボケに突っ込む警備員さん達です。
老骨に鞭打って頑張っています。
「それほどの年ではありません!」
地の文の次のボケも果敢に拾う警備員さん達です。
「あれ、どこかの車が入ってきましたよ」
弥生が最初に気づいて言いました。さすが元泥棒です。
「そのぶっ込みはやめてー!」
過去をいつまでも引き摺る◯◯のような地の文に切れる弥生です。
◯の中には好きな言葉を入れて遊んで欲しい地の文です。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開です。
車は玄関の車寄せに停まりました。でも、貧乏ったらしい上から目線作家の車ではありません。
「また誰かがどこかで悪口を言っているような気がするけど、幻聴なのよ!」
上から目線作家の大村美沙がどこかで病気と闘っています。
樹里と弥生はすぐに玄関に向かいました。
「お初にお目にかかります」
後部座席から降りてきたのは、黒のスーツを着た七三分けの黒髪の紳士でした。
「いらっしゃいませ」
樹里と弥生は笑顔全開で挨拶しました。
「私、こういうものです」
紳士は名刺を差し出しました。
「映画プロデューサーの丸山秋男さんですか」
樹里の名刺ボケを封じるために弥生が応じました。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開で応じました。
「はい。実は、樹里さんに映画の出演を依頼に参りました」
「そうなんですか」
更に笑顔全開で応じる樹里です。
そして、いつものように、丸山は応接間に通され、樹里が淹れた紅茶を出されました。
「樹里さん、冴里さんはもう大きくなりましたでしょう?」
紅茶を一口飲んで、丸山が言いました。
「はい」
樹里は笑顔全開で応じました。丸山も微笑んで、
「実は今回出演していただきたい映画は、ホラー映画なのです」
「ホラ映画ですか?」
早速ボケてくる樹里です。
「いえ、ホラー映画、です!」
丸山はイラッとして訂正しました。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開で応じました。丸山は気を取り直して、
「それも、主演の女性の役ではなく、霊の役で出ていただきたいのです」
「お辞儀は得意です」
更にボケる樹里です。
「その礼ではありません!」
またイラッとする丸山です。
「南◯水◯拳の使い手ですか?」
続けてボケる樹里です。
「それでもありません!」
頭の血管がピクピクしてしまう丸山です。
「花輪を作ればいいのですね?」
樹里は笑顔全開でボケました。
「そのレイでもないです!」
泣きそうな顔で切れる丸山です。
そんな会話を延々と繰り返した二人でした。
(久しぶりに樹里ちゃんの怖さを知った気がする)
こっそり覗いていた弥生は丸山を哀れみました。
めでたし、めでたし。