樹里ちゃん、左京に父親を迎えに行ってもらう
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、最近は少しご無沙汰しているママ女優でもあります。
「では、お願いしますね、左京さん」
樹里は笑顔全開で告げました。
「はい」
緊張気味に応じる不甲斐ない夫の杉下左京です。
左京はこれから、樹里達の父親である赤川康夫を横田基地まで迎えに行きます。
きっと、左京は米軍に捕まって、軍法会議にかけられると思います。
「何でだよ!」
予想可能な出来事を語った地の文に切れる左京です。
「いくよ、パパ!」
長女の瑠里が嬉しそうに言いました。
本当は樹里と一緒に次女の冴里の体験保育に参加するはずだった瑠里ですが、あまりにも左京が哀れだったので、渋々ながら、一緒に行く事にしたのです。
「違うよ! お祖父ちゃんに会いたいからだよ!」
真相を暴露した地の文に建前を信じた左京が切れました。
「行って来ます!」
左京は樹里と冴里に何故か敬礼して応じました。暑さのあまり、おかしくなったようです。
「違うよ!」
更に切れる左京です。今日はメイン扱いなので、嬉しいようです。
「ううう……」
執拗にボケる地の文に疲れ果てて項垂れる左京です。
「そうなんですか」
「そうなんですか」
「しょーなんですか」
それでも樹里と瑠里と冴里は笑顔全開です。
やがて左京は、瑠里を助手席のチャイルドシートに載せ、出発しました。
「わーい! ジイジにあえる!」
瑠里はとても嬉しそうです。瑠里は祖父の康夫とは会った事がありませんが、樹里やお祖母ちゃんの由里から、いろいろと話を聞いていて、興味津々なのです。
でも、由里は自分の事を「おばあちゃん」とは決して呼ばせていないのは内緒です。
「内緒にしときなよ! 後で覚えてな!」
地獄耳の由里が聞きつけて、気の弱い地の文を脅迫しました。
心臓が止まりそうなくらい怖かった地の文です。
(横田基地の二番ゲートで待っているようにって話だったよな)
左京は実際ビビっていました。
天下の警視庁に勤務していたと偽っている左京ですが、さすがにアメリカ軍が相手だと怖いようです。
「偽ってねえよ! 本当に勤務していたんだよ、桜田門に!」
捏造を繰り返す地の文にまたしても切れる左京です。
「そうなんですか」
助手席の瑠里は笑顔全開で応じました。
左京はそれに気づいて引きつり全開です。
(瑠里はますます樹里に似て来たな)
結婚も間近だと思う地の文です。
「シリーズを間違えるな!」
源氏物語と混同してしまった地の文に的確な突っ込みをする左京です。
いよいよ引退が近づいたと思う地の文です。
そして、左京の運転する車は順調に走行し、横田基地のある福生市に入りました。
「わあわあ!」
瑠里は国道十六号線の脇にある広大な敷地内を離着陸する軍用機を見て興奮しています。
「瑠里は飛行機が好きなのか?」
左京は窓ガラスにへばりつくようにして見入っている瑠里に微笑んで尋ねました。
「うん! あっちゃんもすきだから!」
すごく嬉しそうに振り返って言う瑠里にギクッとする左京です。
(あっちゃんて、瑠里と同じ組の男の子だよな……)
妄想が暴走し、涙が止まらなくなるバカ左京です。
「うるせえ!」
零れ落ちる涙を拭いながらも、地の文に切れる左京です。
(ああ、瑠里もいつかは俺の元から離れて、結婚してしまうんだなあ……)
更に妄想が進む左京です。呆れて突っ込むのをやめた地の文です。
そして、樹里に言われた二番ゲートに到着しました。門番の兵士が出て来たので、樹里から渡された英文のメモを見せる左京です。
はじめてのおつかいクラスの扱いの左京です。
「ううう……」
兵士はそのメモを見て、少し待てと左京に英語で言いました。
でも、学のない左京には何の事だかわからず、愛想笑いだけしました。
「それくらいわかったよ!」
見栄を張って地の文に切れる左京です。
左京は車を脇に停めて、しばらく待っていましたが、なかなか兵士が戻って来ません。
最初のうちはフェンスに貼り付いて軍用機を見ていた瑠里ですが、そのうちに疲れてしまったのか、車の中で眠ってしまいました。
(そんなに時間がかかるものなのか?)
左京は樹里の父親が到着する時刻を聞かされているのですが、それを遥かに過ぎてしまっているのです。
(どうしたんだろう?)
左京は眠っている瑠里を気遣いながら、兵士が戻って来るのを待っていました。
そして、こちらは五反田邸です。
樹里は、冴里と共に体験保育を終え、帰宅していました。
「それでは樹里様、冴里様、またいずれ」
イレギュラーな登場の仕方をする昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。
ほんの一言だけの台詞ですが、久しぶりに登場できて感激している眼鏡男達です。
「左京さんはまだ戻っていないのですか?」
樹里は庭掃除をしていたもう一人のメイドに尋ねました。
「目黒弥生よ!」
きちんと紹介してくれない地の文に切れる弥生です。
「はい、まだ帰って来ていませんよ」
弥生は苦笑いして言いました。
「そうなんですか」
「しょーなんですか」
樹里と冴里は笑顔全開で応じました。弥生はそれを見て引きつり全開です。
するとそこへ、またしても懐かしい人が登場しました。
「樹里ちゃーん、久しぶり!」
何故か小さな女の子を連れて来た幽体離脱女です。
「何だよ、その紹介の仕方は!」
しばらくぶりの地の文のボケに全力で切れる加藤ありさです。
「この子は、私の娘の加純よ!」
更に地の文に切れるありさです。ベテランの味を出しています。
「樹里ちゃん、実は、お義母さんがアメリカに行くので、成田まで見送りに行ったんだけど、その時、この人に偶然会ってさ。五反田邸に行きたいって言われたので、連れてきたの」
そう言って、ありさが後ろにいた長身のロマンスグレーの髪の紺のスーツを着た紳士を見ました。
「そうなのかね」
紳士は笑顔全開で応じました。
「お父さん、いらっしゃい」
樹里も笑顔全開で応じました。
「えええ!?」
驚天動地の弥生とありさです。
(左京さん、結果的に無駄足だったの?)
横田基地にいる左京を哀れむ弥生です。
「そうなんですか」
「そうなのかね」
それでも、樹里と康夫は笑顔全開です。
めでたし、めでたし。