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樹里ちゃん、なぎさの家にゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、映画監督も女優もこなすマルチな才能の持ち主でもあります。


 今日は樹里は仕事はお休みです。長女の瑠里と次女の冴里とついでに夫の杉下左京を連れて、親友の松下なぎさの家に行く事になっています。


「ついでかよ!」


 気を遣って名前を読んであげた親切な地の文にいちゃもんをつける左京です。


「どこが親切なんだよ!」


 更に言いがかりをつける左京です。警察を呼ぼうと思う地の文です。


「ふざけるな!」


 私立探偵ではなく、街のチンピラみたいな左京です。


「では、出かけましょうか、左京さん」


 地の文とのやり取りを完全スルーして笑顔全開で告げる樹里に、左京ばかりではなく、地の文も落ち込みました。


「はやくしないと、おいてくよ、パパ」


 左京には何かと厳しい瑠里が腕組みをして仁王立ちで言いました。


「はい……」


 左京は項垂れ全開で応じました。


「ママ、ルーサも連れてっていい?」


 瑠里は目をウルウルさせて尋ねました。左京はすぐにOKを出そうとしましたが、


「ダメです。なぎささんのお腹には赤ちゃんがいるので、ルーサはもう少し経ってからにしましょうね」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「はい、ママ……」


 寂しそうに応じる瑠里を見て、抱きしめてあげたくなる左京です。


 もし、そうしたら、すぐにでも警備員さんを呼ぼうと思う地の文です。


「何でだよ!」


 度が過ぎたジョークを言う地の文に切れる左京です。そして、ハッと気づくと、樹里と瑠里と冴里はすでに五反田邸の庭を出て、なぎさの家に向かっていました。


「わんわん!」


 家の脇のケージの中から、ゴールデンレトリバーのルーサが吠えました。


 きっと、「お前、どうしようもないバカだな」と言っているのだと思う地の文です。


「そんなはずあるか!」


 更に切れる左京ですが、樹里達が完全に見えなくなってしまったので、慌てて追いかけました。


「樹里ー、瑠里ー、冴里ー!」


 バカ丸出しだと思う地の文です。


 


 なぎさはなぎさの夫の栄一郎の養父母である松下夫妻が二人のために建ててくれた家に住んでいます。


 五反田邸からそれほど離れていない高級住宅街の一角です。


「ふええ……」


 汚いアパート暮らしの左京はあまりのショックに呼吸が停止しそうになりました。


「ううう……」


 図星なので、地の文に切れる気力もない左京です。


(世の中、不公平過ぎる……)


 涙を拭って、邸の門扉をくぐる左京です。地の文ももらい泣きしそうです。


「いらっしゃい、樹里、瑠里ちゃん、冴里ちゃん、左京ちゃん」


 玄関でお腹の大きくなったなぎさと栄一郎が出迎えてくれました。


「お邪魔します」


「おじゃまします」


「ちます」


 樹里と瑠里と冴里は笑顔全開で応じました。


「お邪魔します」


 「左京ちゃん」と呼ばれてしまった左京は苦笑いをして応じました。


「順調のようですね」


 左京が栄一郎に言いました。栄一郎は照れ臭そうに笑って、


「はい、おかげ様で。僕も就職が決まって、ようやくなぎささんに楽をさせてあげられそうです」


「そうなんですか」


 自称私立探偵の左京には耳が痛い話です。


「自称じゃねえよ!」


 気の利いた冗談を言った地の文に理不尽に切れる左京です。


「お仕事は何を?」


 それでも気を取り直した前向きだけが取り柄の左京が訊きました。


「弁護士事務所で働いています」


 栄一郎が言うと、嫌な汗をたんまりと掻く左京です。浮気相手の女弁護士のところなのでしょうか?


「浮気相手じゃねえよ!」


 違うシリーズにしか出て来ない微妙な立ち位置の女性弁護士の事を引き合いに出されて焦って言い訳する左京です。


 そして、ハッと気づくと、樹里達はすでにリビングルームに通されていました。


 本日二度目の放置プレーに項垂れながらも快感を覚える左京です。


「そんな事はない!」


 憶測でものを言う地の文に切れる左京です。今日は左京の出番が多いと思う地の文です。


 左京が慌ててリビングルームに行くと、樹里はなぎさに家の写真をパソコンで見せてもらっていました。


「素敵なお家ですね」


 樹里が笑顔全開で言うと、なぎさはニヤッとして、


「そうでしょ? 樹里達も早く家を建てた方がいいよ。瑠里ちゃんと冴里ちゃんも、大きくなったら、自分の部屋を欲しがるよ」


 妙にまともな事を言いました。まさに天変地異の前触れのような気がしてしまう地の文です。


「そうなんですか」


 樹里と左京は異口同音に言いました。


(確かに樹里の稼ぎなら、マイホームも夢じゃないけど……)


 そこまで樹里に頼るのは、男として情けないと思う男尊女卑な発想の左京です。


「そこまで言うなよ!」


 発想が極端な地の文に抗議する左京です。


「パパ、瑠里もおうちが欲しいよお」


 瑠里が上目遣いで左京に甘えて来ました。


 今は亡き昭和眼鏡男と愉快な仲間達の瑠里命の隊員がいれば、ショック死していたと思う地の文です。


「我らは生きております!」


 どこかで活動を続けている眼鏡男達が叫びました。


「パーパー」


 瑠里の真似をして、冴里まで甘えて来ました。デレデレの左京が何かを言おうとした時です。


「もう少し待ってくれますか、瑠里、冴里。今、ママがお家の設計図を書いていますから」


「え?」


 今度は左京と栄一郎が異口同音に言いました。


「土地も探していますし、工務店も見つけていますよ」


 樹里は唖然としている左京に笑顔全開で説明しました。


 資格マニアの樹里は、建築士の資格も、宅地建物取引士の資格も、とび技能士の資格も持っているのです。


「じゃあ、随分安く家が建ちそうだね」


 左京の心の中をズバッと代弁したなぎさです。


 そのせいで石化しそうな左京です。


 


 めでたし、めでたし。

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