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樹里ちゃん、上から目線作家に救いを求められる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、女優も映画監督もこなしてしまうマルチな才能の持ち主です。


「いってくるね、ママ、さーたん、ルーサ!」


 ゴールデンレトリバーの子犬を飼い始めた長女の瑠里が笑顔全開で言いました。


「行って来るね……」


 ルーサの「サ」は左京の「さ」ではないと瑠里に断じられた不甲斐ない父親の杉下左京は項垂れ全開です。


「行ってらっしゃい、左京さん、瑠里」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「いてらしゃい、パパ、おねたん」


 冴里も笑顔全開で言いました。


「行って来るよ、冴里!」


 冴里にパパと呼ばれて復活した元パパです。


「元じゃねえよ!」


 地の文の羽毛のように軽いジョークにも過敏に反応して切れる老化が進んだ左京です。


「違う!」


 更に切れる左京です。


「ワンワン!」


 ルーサも嬉しそうに吠えました。

 

 やがて、瑠里は左京と共に車で出発しました。


「さあ、冴里、ルーサ、行きましょうか」


 樹里は笑顔全開でベビーカーを押し、ルーサのリードを持ちました。


「あい、ママ」


 冴里は笑顔全開で応じました。


「ワンワン!」


 ルーサは元気よく吠えて応じました。左京より頭がいいと思う地の文です。


「うるせえ!」


 環状八号線に入った左京が切れました。


「おはようございます、樹里さん、冴里ちゃん、ルーサ」


 そこへもう一人のメイドのレッサーパンダが現れて挨拶しました。


「私はレッサーパンダじゃないわよ!」


 地の文のちょっとした言い間違いにも激ギレして抗議する心が一円玉よりも小さい目黒弥生です。


「ちょっとした言い間違いじゃないでしょ!」


 更に切れる弥生ですが、樹里達はその間に玄関まで行ってしまいました。


(ああ、この放置プレー、本当に癖になって来たみたい……)


 ウットリした顔で思う弥生ですが、邸の庭に上から目線のリムジンが入って来たのに気づき、ハッとなります。


(あのババア、今日来るなんて連絡もらってないぞ!)


 慌てて玄関に走る弥生です。


「いらっしゃいませ、大村様」


 樹里はすでに冴里に授乳をすませ、ルーサを玄関脇のケージに入れ、メイド服に着替えて車寄せでリムジンから降りる大村美紗を出迎えました。


「いらっしゃいませ、大村様」


 弥生も辛うじて間に合い、挨拶しました。


「御機嫌よう、樹里さん、愛さん」


 また名前を間違える美紗にイラっとする弥生ですが、何とかこらえました。


「今日はね、ちょっと相談があって来たのよ」


 相変わらずのけ反り具合で告げる美紗です。


「そうなんですか」


 樹里と弥生は異口同音に言いました。


 


 そして、いつものように美紗は応接間に通され、紅茶を出されました。


「実はね、今日、私のお師匠様と会う約束なの」


 美紗は何故か憂鬱そうな顔で言いました。仰け反りの角度が緩くなっています。


「そうなんですか」


 それでも笑顔全開で応じる樹里です。


「そのお師匠様は、もの凄く厳しい方なのよ。それで、貴女に私の味方をして欲しくて、ここで会う約束をしたの」


 勝手に他人の邸を待ち合わせ場所にするとは、呆れ果てたバアさんだと思う地の文です。


(今、幻聴が聞こえたけど、反応してはダメよ、美紗! 堪えるのよ!)


 必死になって自分に言い聞かせる美紗です。


「そうなんですか」


 樹里は美紗のやりたい放題にも笑顔全開です。


(あのババアのお師匠様って、どんな化け物だろう?)


 こっそり盗み聞きしていた元泥棒の弥生は身震いしました。


「その話はやめてー!」


 トラウマを思い出してしまった弥生は地の文に切れました。


「お師匠様は私の生き方をお説教するとおっしゃっていたわ。何を叱られるのか、全く見当がつかないのよ」


 美紗はオーバーアクションで肩を竦めてみせました。間抜けなアメリカ人みたいです。


 自分がどれほど不出来な人間なのか理解していないとは、悲しいくらい鈍感なババアだと思う地の文です。


(またよ、また幻聴が聞こえた気がするけど、違うの! 本当は聞こえていないのよ!)


 更に頑張って堪える美紗です。


 その時、ドアフォンが鳴りました。


 ビクンとする美紗です。かなりビビっていて面白いです。


「いらしたみたいだわ。恐ろしい程、時間に正確な方なのよ」


 美紗は腕時計を確認しました。かっきり九時でした。


「どうぞ、こちらです」


 来客は弥生が案内し、応接間に通しました。美紗が途端に立ち上がり、直立不動になりました。


「いらっしゃいませ、加藤様」


 樹里は笑顔全開で応じ、頭を下げました。


「先日はありがとう、樹里さん。また会えて嬉しいわ」


 入って来たのは、加藤真澄警部の母親である加藤佐和子でした。


「え?」


 キョトンとする美紗です。すると樹里が、


「加藤様は、私のお友達のありささんの義理のお母様です」


 その言葉は美紗を打ちのめして卒倒させるに十分過ぎる程のパワーがありました。


「じゅ、じゅ、樹里さんは、お師匠様をご存じだったの……?」


 フラフラしながら尋ねる美紗です。


「はい。先日、お会いしました」


 容赦のない笑顔で応じる樹里です。


「ひ、ひいい!」


 とうとうえ切れなくなった美紗は、そのままソファに倒れ込んでしまいました。


「相変わらず、失礼な子ね、美紗! 私が来たのに寝てしまうなんて、どういう神経なの!」


 佐和子がムッとして言いました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


(ババア、ざまあ)


 ドアの外でほくそ笑む弥生です。


 その後、意識を回復した美紗は、佐和子にこんこんとお説教をされました。


 


 めでたし、めでたし。

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