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樹里ちゃん、大村美紗賞の授賞式に出席する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、映画監督までこなしてしまうマルチな才能の持ち主です。


 今日は、樹里は上から目線でお馴染みの大村美紗の名を冠した「大村美紗賞」の授賞式に出席しています。


 場所は五反田グループの一翼を担っているホテルの大広間です。


 今度こそ登場できると確信していた昭和眼鏡男と愉快な仲間達と、保育所の男性職員の皆さんの降板が確定的となりました。


「そんなバカなー!」


 全力で抗議の声をあげる眼鏡男達と男性職員の皆さんですが、それも虚しく響いていると思う地の文です。


「そうなんですか」


 ネイビーブルーのパーティドレスを着た樹里は笑顔全開で応じました。その流れで、ついでに不甲斐ない夫だった杉下左京の降板も決まったようです。


「やめろー!」


 いつまで経っても、番外編の「私立探偵 杉下左京」が始まらないので、イライラしている左京がどこかで切れました。


そちらもお蔵入りの可能性が出て来たと思う地の文です。


「それだけは勘弁してくれー!」


 左京の雄叫びも虚しいと思う地の文です。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開、次女の冴里に授乳全開です。


「樹里さん、授乳は化粧室でした方がいいですよ」


 何故かそこに存在しているレッサーパンダの母親が言いました。


「私も授賞式に呼ばれたのよ! それから、レッサーパンダの母親じゃないわよ!」


 キレのある突っ込みを見せる目黒弥生です。


 今日はいつもと違って、黒のつなぎは着ていません。


「そのいじりはやめてー!」


 泥棒ネタをしつこくぶっ込んで来る地の文に真っ赤なパーティドレスを着た弥生は涙ぐんで切れました。


「そうなんですか」


 にも関わらず、樹里は笑顔全開で授乳を終了しました。


「本日はお忙しいところを誠にありがとうございます」


 相変わらずの上から目線で登場の喪服姿の美紗です。


(また誰かが悪口を言った気がするけど、全部幻聴なのよ! 反応してはいけないのよ!)


 黒のパーティドレスを着た美紗は地の文の嫌がらせにえてしまいました。


 ちょっぴり悔しい地の文です。


「こちらこそ、お招きいただき、ありがとうございます」


 チャコールグレイのタキシードを着た五反田氏が美紗に言いました。


「今日はもみじさんはいらしていないようですね」


 五反田氏が周囲を見渡しながら言うと、美紗は苦笑いして、


「ええ。何でも、どうしても抜けられない講義があるとかで」


「そうなんですか」


 五反田氏と樹里と弥生は声を揃えて応じました。


(前回受賞者のなぎさちゃんも来ていないようだけど、その事には触れない方がいいかな?)


 五反田氏は美紗と姪の松下なぎさの特殊な関係を知っているので、心中複雑です。


「では、失礼致します」


 美紗はスタッフに呼ばれ、授賞式が行われる壇上に上がっていきました。


「席に着こうか」


 五反田氏は樹里と弥生をエスコートして、豪華な料理が並べられた指定の円卓の椅子に座りました。


 しばらくして、ファンファーレが鳴り響き、授賞式がおごそかに始まりました。


 スポットライトが司会席に当たり、実は内緒で付き合っている安掛あんかけ一郎いちろうアナウンサーと、松尾彩アナウンサーが笑顔で並んで立っているのが見えました。


「付き合ってなんかいません!」


 全力全開で否定する松尾アナです。隣の安掛アナは泣きそうな顔をしています。


「本日は日本有数の推理作家であります、大村美紗先生の文学賞の授賞式の司会を仰せつかりました、安掛一郎です」


 腹黒い安掛アナも、緊張しているようです。


「腹黒いはやめろ!」


 心ない誹謗中傷をする地の文に切れる安掛アナです。


「松尾彩です」


 ぶりっ子の松尾アナが作り笑顔全開で言い添えました。


「ぶりっ子でも、作り笑顔でもありません!」


 更に中傷を繰り返す地の文に切れる松尾アナです。


 そして、一通り、式の沿革が説明され、審査員の皆さんが紹介されます。


 型通りの進行なので、全て割愛した地の文です。


「それでは、いよいよ大村美紗賞の発表の時がやって参りました。大村先生、よろしくお願いします」


 松尾アナがどちらかというと苦手な部類に入る美紗に告げました。


「苦手じゃないです!」


 更に捏造を繰り広げる地の文にもう一度切れる松尾アナです。


 美紗は他の人達が地の文に切れているのは気づかないのか、笑顔でスポットライトに照らされながら、プレゼンター席に歩み寄りました。


「それでは、発表致します」


 美紗はプレゼンター席に置かれていた封筒から中身を取り出しました。


 そして、ゆっくりと開きます。


(なぎさではないのは教えていただいているから、ホッとするわ)


 思わずニヤッとしてしまい、会場をざわつかせてしまったのに気づかない美紗です。


「あら?」


 そこに書かれていたのは、あらかじめ聞いていたのと違う名前でした。


内田うちだ陽紅ようこう? 聞いた事がない作家だわ……。誰なの? まさか、なぎさのペンネーム?)


 キッとして編集者を睨みつける美紗です。その魔女のような形相にまた会場がざわつきました。


 すると、編集者は、


「なぎささんではありません」


 スケッチブックに書いて、美紗に見せました。美紗はそれを見てホッとし、頷きました。


「失礼致しました。改めて、発表致します」


 美紗は微笑んで会場を見渡しました。


「第三回大村美紗賞の受賞者は、『みどりの殺意』を書かれた内田陽紅さんです」


 美紗の紹介と同時に、別のスポットライトが演壇の端に当たりました。


 美紗は笑顔で受賞者を迎えようとそちらを見ました。すると、そこに現れたのは、大学の講義に出席しているはずのもみじでした。


「どういう事……?」


 美紗は何が何だかわからず、また編集者を見ました。すると編集者は、


「内田陽紅さんの正体は、お嬢さんです」


 そう書かれたスケッチブックを見せました。


「ああ……」


 美紗の目が潤みました。それを見たもみじの目も潤みました。


「おめでとうございます、受賞者の内田陽紅さんです」


 安掛アナの言葉で、もみじが美紗に近づきました。二人共、涙でお互いの顔がよく見えていません。


「では、トロフィーの授与を前回の受賞者であるパイン・ビーチさんにお願い致します」


 笑顔で告げた松尾アナですが、鬼の形相の美紗に睨まれ、気絶しそうになりました。


「やっほー、叔母様、もみじ、今日はおめでとう!」


 空気を読まない事にかけては世界屈指の実力者であるなぎさはケラケラ笑いながら登場しました。


「な、なぎさ、なぎさ……」


 美紗は近づいて来るなぎさを見て、失神しそうでしたが、


「お母様、なぎさお姉ちゃんと仲直りして。でないと、私、結婚できないから」


 もみじが美紗を支えて言いました。


「もみじ……」


 その言葉に気を取り直した美紗は、何とかなぎさを見て、握手を交わしました。


「叔母様、おめでとう! これでいつでも引退できるね!」


 なぎさの自由過ぎる発言に、とうとう美紗の限界が訪れました。


「ひいい!」


 美紗は雄叫びをあげると、気を失ってしまいました。


「お母様!」


 もみじ達が慌てて美紗に声をかけるのをよそに、


「全く、叔母様ったら、相変わらず、失神芸なの? もう飽きちゃったわよ」


 肩を竦めて言うなぎさです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 めでたし、めでたし。

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