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樹里ちゃん、訪問販売を受ける

 御徒町樹里はメイドです。


 今日は屋敷の持ち主である五反田氏は、家族と旅行に出かけて不在です。


 樹里は留守を任され、一人であちこちの掃除をしていました。


 そこへ訪問販売のセールスマンが来ました。


 五反田氏がいる時はどんな営業も全部門前払いです。


 しかし、樹里はそうせずに、彼を屋敷に入れてしまいました。


「いらっしゃいませ。本日は五反田は不在です」


 樹里は会心の笑顔で言いました。


 するとセールスマンは、


「私は化粧品のセールスマンですので、旦那様はいらっしゃらなくても大丈夫です」


「そうなんですか」


 セールスマンは早速鞄を開き、中からたくさんの化粧品を出しました。


 二十個くらいビンがあります。


「これだけ揃って、何と全部で二十万円という破格値です。天然由来成分のみで作られているので、通常価格は四十万円です」


「そうなんですか」


 樹里はニコニコして聞いています。


 セールスマンは、何も不審に思っていない樹里を絶好のカモだと思いました。


「どうですか、メイドさん。貴女もそのお美しいお顔を維持するために、たくさん化粧品をお使いでしょう? 今お使いの化粧品より、私のお奨めする化粧品の方が、遥かに貴女のお肌にいいですよ」


「そうなんですか」


 樹里は相変わらず笑顔全開です。セールスマンは、あと一息と思ったようです。


「今お使いなのは、どちらの化粧品ですか? こちらの化粧品とお比べになって下さい」


「ありません」


「は?」


 セールスマンは、樹里の答えの意味がわかりません。


「今、お持ちではないのですか?」


「化粧品はありません」


 樹里は笑顔で答えます。セールスマンは戸惑いながら、


「ああ、ここにはないのですね。では、こちらの化粧品で、貴女がお使いのものと同じ種類のものがありますから、それをお試し下さい」


「ありませんよ」


 樹里は笑顔で言いました。セールスマンはさすがにイラッとしました。


「いえ、貴女の化粧品ではなくてですね、この化粧品の中で……」


「ですから、化粧品は使っていません」


 樹里は更に満面の笑みで答えました。


「はあ?」


 セールスマンが樹里の答えの意味を理解するのにしばらく時間がかかりました。


「えっと、もしかして、全然お化粧していないのですか?」


「はい」


「口紅も?」


「はい」


「眉も?」


「はい」


「ファンデーションくらいは塗ってますよね?」


「いいえ」


 セールスマンはからかわれていると思いました。


 でも樹里の顔を間近で見ても、全く化粧っ気がないのです。


 そして、それ程の美人に接近して顔を見ていた事を思い出し、赤面しました。


「し、失礼しました!」


 彼はビンを慌てて鞄に詰め込むと、逃げるように屋敷を出て行ってしまいました。


「お気をつけて」


 樹里はドアを開けて彼を見送りました。


 その時、携帯が鳴りました。五反田氏からの定時連絡です。


「変わったことはないかね?」


「はい。化粧品屋さんがいらっしゃいました」


「ほお。何か買ったのかね?」


「いえ」


「そうか。わかった。明日の午後六時に帰宅するから」


「わかりました」


 樹里は携帯を切りました。そして、やりかけの掃除を再開するのでした。


 めでたし、めでたし。

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