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樹里ちゃん、瑠里におねだりされる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、女優も監督もこなすマルチな才能の持ち主です。


 亀島馨が引き起こした事件以降、樹里達は五反田邸の広大な敷地の一角にある家に住んでいます。


 そこは以前、元ど……。


「やめてー!」


 いきなり割り込んで、地の文の解説を妨害する元泥棒の目黒弥生です。


「ううう……」


 不意打ちを食らって項垂れる弥生です。


「おはようございます、弥生さん」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で挨拶しました。


「お、おはようございます、樹里さん」


 顔を引きつらせて応じる弥生です。


「おはよ、やおいたん」


 次女の冴里が笑顔全開で挨拶しました。


「うわあ、すごいね、冴里ちゃん! もう喋れるの? ウチの颯太そうたはまだ喋れないよ」


 弥生はしゃがみ込んで冴里に言いました。


 レッサーパンダは喋れないと思う地の文です。


「それは風太、ウチは颯太よ!」


 地の文の鉄板の名前ボケに激切れする弥生です。


「左京さんと瑠里ちゃんはもうお出かけですか?」


 弥生は話を切り替えたいのか、急に尋ねました。


「はい。左京さんはお仕事が忙しいですから」


 笑顔全開で言う樹里ですが、暇を持て余しているヘボ探偵の杉下左京が聞けば、血の涙を流すでしょう。


「うるせえ!」


 まだ新宿を抜けている頃の左京が地の文に切れました。


(可哀想な左京さん)


 弥生は心の中で左京を哀れみました。


「このままずっと旦那様に甘えてここに住ませていただくのも申し訳ありませんから、落ち着いたら、アパートに戻ろうと思っています」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「ええ?」


 寂しそうに樹里を見る弥生です。


「毎日、車で送り迎えをしていると、左京さんが運動不足になります。瑠里の保育所までの往復がちょうどいい距離なのです」


 樹里はもう中年真っ只中の左京の健康面も考えているのです。


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で応じてしまう弥生です。


(年の差婚の弊害がそこね……)


 弥生は樹里を哀れみました。多分、樹里は左京が死んでから五十年くらい生きるでしょう。


「俺は一体いくつで死ぬ事になっているんだ!?」


 死亡推定年齢を勝手に決めた地の文に切れるもうすぐ文京区に入る左京です。


 それに、このまま樹里が五反田邸に住んでいると、昭和眼鏡男と愉快な仲間達や、保育所の男性職員の皆さんの出番が全くなくなってしまうという弊害もあります。


「そうですよ、何とかしてください!」


 眼鏡男達と男性職員の皆さんがどこかで異口同音に言いました。


 でも、無視する地の文です。


 


 そして、冴里を育児室で寝かしつけた樹里は、メイド服に着替え、いつものように掃除を始めました。


 一通りの仕事を終え、三時のお茶を庭の東屋で警備員さん達と飲んでいると、早くもダメおっとが帰って来ました。


「ううう……」


 全くその通りなので、反論できずに項垂れる左京です。


「ママ、ただいま!」


 瑠里が嬉しそうに車から飛び降りて駆けて来ました。


「お帰りなさい、瑠里」


 樹里は瑠里を抱き止めて言いました。


「ねえ、ママ、おねがいがあるの」


 上目遣いで樹里を見る瑠里です。瑠里命の親衛隊員がいたら、気絶していると思う地の文です。


「何ですか?」


 樹里は笑顔全開で応じました。瑠里も笑顔全開で、


「ワンワンかっていい?」


 すると、左京が近づいて来て、


「俺はダメだって言ったんだよ、樹里」


 如何にも自分が家族の長だと言わんばかりの顔で告げました。しかし、樹里は、


「いいですよ、瑠里」


 あっさり承諾しました。石化してしまう左京です。


(可哀想な左京さん)


 本日二度目の同情をしてしまった弥生です。


「わーい、ママだいすき!」


 大喜びする瑠里です。樹里はしゃがんで瑠里に視線を合わせると、


「その代わり、お世話は瑠里が全部するのですよ」


「うん! ぜんぶするよ。うんこもかたづけるから!」


 可愛い顔をして「うんこ」とか大声で言うと、瑠里命の親衛隊員が悶絶してしまうと思う地の文です。


「わかりました。約束ですよ、瑠里」


 樹里は右手の小指を差し出しました。


「うん、やくそく!」


 瑠里はそれに自分の右手の小指を器用に絡ませて、


「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます」


 嬉しそうに歌いました。樹里は左京を見て、


「犬を飼ってもいいですよね、左京さん? 後は左京さんの許可だけです」


 石化から復活した左京は苦笑いして、


「いいよ。瑠里が全部世話をするのなら、いいと思うよ」


「でも、そうすると、アパートには戻れなくなってしまいますね」


 樹里が言うと、何故かギクッとした左京は、


「え? アパートに戻るつもりなの?」


「はい。ここにいると、左京さんが運動不足になってしまいますから」


 屈託のない樹里の笑顔が眩しくてまともに見られない左京です。


 実は左京はアパートに戻りたくないのです。


 毎朝挨拶しているある女性が目当てなのです。


「そ、そんな事はないぞ!」


 あからさまに焦って見苦しく狼狽うろたえる左京です。


 どうやら、五反田氏の愛娘の麻耶の家庭教師の有栖川ありすがわ倫子りんこが気になるようです。


「違うよ!」


 地の文の誘導ボケにひっかかり、ついボロを出す左京です。本命は住み込み医師の黒川真理沙ですね。


「ううう……」


 完全に図星な左京はまた項垂れました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。


 


 めでたし、めでたし。

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