表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
333/839

樹里ちゃん、亀島に狙われる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、今や映画監督までもこなす超エンターティナーです。


「では、行って来ますね、左京さん、瑠里」


 樹里は笑顔全開でベビーカーに冴里を載せて言いました。


「今日は俺も一緒に行くよ、樹里」


 いつもは項垂れているだけでギャラがもらえるおいしい仕事をしている左京がカッコをつけて言いました。


「その言い草はねえだろ!」


 核心を突いてしまった地の文に今年一番の激切れをする左京です。


「そうなんですか?」


 樹里は不思議そうに左京を見て言いました。


「だから、瑠里を保育所に送ったら、樹里と冴里を車で五反田邸まで乗せて行くよ」


 左京は小首を傾げて自分を見ている樹里の可愛さに鼻血が出そうになりましたが、何とかこらえて言い切りました。


 


 左京と樹里が話している頃、昭和眼鏡男と愉快な仲間達は、定刻通り、JR水道橋駅を出て、樹里達がいるアパートを目指していました。


「ちょっと待ってください」


 どこからか、妙な声が聞こえました。眼鏡男達は、先日の一件がありますので、最警戒態勢で周囲を見渡しました。


「貴方達に樹里さんのところへ行ってもらっては困るんですよ」


 声が更に言いました。眼鏡男はハッとして、


「もしやその声は……」


 そこまで言った時、彼等を謎のガスが襲いました。


「ぐうう……」


 それは強烈な睡眠ガスで、眼鏡男達はあえなくその場でこんこんと眠りに落ちてしまいました。


「悪く思わないでください」


 声が言いました。新展開にワクワクが止まらない地の文です。


 


 左京は駐車場に車を取りに行き、樹里達を乗せて、まずは保育所に行きました。


「樹里さん、瑠里ちゃん、冴里ちゃん!」


 しばらくぶりの登場に感極まって泣き始める男性職員の皆さんです。


 それを女性職員の皆さんが白い目で見ています。


「冴里ちゃんの我が保育所への入所を心よりお待ち申し上げております」


 男性職員の皆さんは、女性職員の皆さんの軽蔑の眼差しに堪えながら、樹里に告げました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(ここは奴にも知られているから、保育所を変えた方がいいかもな)


 左京は瑠里の身の安全を考え、本気でそう思っていました。


 そして、樹里と冴里を車に乗せ、大通りを走っていると、途方に暮れたような顔をした眼鏡男らしき人物を見かけました。


(ああ、そうか、あいつらにも教えてあげるべきだったな)


 左京はそう思いましたが、眼鏡男の携帯の番号を知らないので、連絡できません。


 その上、通りの反対側なので、声をかける事もできませんでした。


 でも、その眼鏡男らしき人物は、本人ではなかったのです。


「くそう、もう出かけた後だったのか……。どこを通ったのだろう?」


 眼鏡男らしき人物は、似たような服装と似たような眼鏡をかけた亀島馨でした。


 彼は未だに樹里に執着しており、出勤する樹里をさらおうと考えて、眼鏡男達を襲ったのです。


(とにかく、五反田邸に行くしかない。邸に入ってしまったら、決行は無理だから、何としても外で拉致する)


 亀島はガッツポーズをして水道橋駅へと向かいました。


 あまりにも怪しい風体なので、周囲の人が何人か、携帯で通報したのに気づかない亀島です。


 


 左京の車はそのまま新宿方面を目指し、世田谷へと進んでいました。


(取越苦労だったかな? いや、でもそれでいいんだ。樹里を守るのが俺の役目だから)


 自分の行動を正当化し、自分に酔っている変態左京です。


「そ、そんな事はないぞ!」


 半分当たっているので、やや動揺している左京です。


「これからしばらく、俺が樹里達を送るから」


 左京は信号で止まった時、助手席の樹里に言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。後部座席のベビーシートの冴里は眠っていました。


(樹里を毎日送り届ける……。それはそれで嬉しい)


 変態度がアップしている左京は、嫌らしい笑みを浮かべて思いました。


「やめろ!」


 心情をありのままに表現した地の文に慌てて切れる左京です。


「あれ、事故渋滞かな? まずいな」


 新宿を抜ける辺りで通りが混み始め、車が動かなくなりました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


 


 左京の車が新宿で渋滞にはまっていた頃、亀島は世田谷区成城に着いていました。


(この道をまっすぐだったな)


 亀島はニヤリとして、五反田邸への道を進みました。


「あれ?」


 ところが、五反田邸まで行っても、樹里はいませんでした。


(おかしい。どういう事だ?)


 亀島は首を傾げました。


 


 左京の車は渋滞を抜け、成城に到着しました。


「あれ?」


 左京は眼鏡男もどきの変装を解いていない亀島に気づきました。


(さっきも一人だったな。今日はどうしたんだ?)


 ヘボ探偵ですから、それを亀島の変装と気づけません。


 番外編の「私立探偵 杉下左京」は没にしようと思う地の文です。


「それだけはやめてくれー!」


 血の涙を流して地の文に抗議する左京です。


「左京さん、ありがとうございました」


 左京が車を停めて考え事をしている間に、樹里はサッサと降りて、冴里をベビーシートから下ろし、ベビーカーに載せていました。


「え?」


 ハッと我に返る左京ですが、その瞬間、眼鏡男もどきの亀島も、樹里に気づきました。


 そして、猛然と走って来ました。


「あ、あのヤロウ!」


 左京はそこでようやく亀島に気づき、運転席から降りました。


 亀島も左京に気づき、立ち止まりました。


「おはようございます、亀島さん」


 何の緊張感もなく、樹里は笑顔全開で挨拶しました。


 そのせいで亀島は転けてしまいました。


「亀島、てめえ!」


 左京は亀島を締め上げました。騒動に気づいた警備員さんとエロメイドが出て来ました。


「どうしてそこでボケるのよ!」


 地の文の気の利いた紹介にケチをつける目黒弥生です。


「杉下さん、お久しぶりです」


 亀島はごく冷静に挨拶し、睡眠ガスを左京に浴びせました。


「くう……」


 左京はその場に倒れてしまいました。


「左京さん、どうしたんですか?」


 冴里に授乳中だった樹里は左京が睡眠ガスを嗅がされたのに気づいていません。


「亀ちゃん!」


 弥生が亀島に怒鳴りましたが、亀島は、


「もう貴女には興味はありませんよ、キャビーさん」


 フッと笑って言うと、走り去ってしまいました。


「その名前はやめてー!」


 弥生は逃げる亀島に叫びました。


 まだこの騒動は続くようだと思う地の文です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ