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樹里ちゃん、デート中の五反田麻耶を見かける

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、バラエティ番組に引っ張りだこのママ女優でもあります。


 樹里は、不甲斐ない夫を演じさせたら日本一の杉下左京の誕生日を祝うという罰ゲームをこなし、家に帰る途中です。


「何で不甲斐ない夫を演じさせたらなんだよ! 何で罰ゲームなんだよ!」


 地獄耳の左京が誰にも聞こえないように小さい声で言った地の文に切れました。


 そうですね、不甲斐ない夫は演技ではなく、素でしたね。


「それも腹立つ!」


 我がままを絵に描いたような左京です。


「あ、麻耶ちゃんだ!」


 瑠里が通りの反対側を歩いている五反田氏の愛娘の麻耶に気づきました。


 もう中学生の麻耶は同級生の市川はじめとバレンタイデーデートをしているようです。


 麻耶は白のセーラー服、はじめは詰め襟の学生服です。


 嬉しそうな麻耶に反して、はじめは顔が引きつっています。


 無理矢理デートさせられているようです。


「違います!」


 地の文の捏造を聞きつけた麻耶が切れました。


「瑠里、二人はデート中だから、声をかけたらダメだよ」


 左京が聞いた風な事を言いました。


「何だよ、その言い草は!」


 適切な表現をしたはずの地の文に切れる左京です。


「そうなんですか」


 瑠里は寂しそうに言いました。


「さあ、行こうか、瑠里」

 

 それでもまだ二人を目で追っている瑠里に左京は言いました。


「うん?」


 左京は二人を見た時、前方から近づいて来るまさに学園ドラマに出て来る悪そうな高校生五人組を見つけました。


(嫌な予感がするな)


 左京は思いました。


「パーパ、行くよ!」


 瑠里が左京を引っ張ります。左京は樹里を見て、


「瑠里を頼む」


 そう告げると、近くにあった歩道橋を駆け上がりました。


 どうやら、高校生の加勢に行くようです。


「違うよ!」


 地の文の度が過ぎたブラックジョークに切れる左京です。


 ああ、土下座して許してもらいに行くのですね。


「それも違うよ!」


 階段を駆け上がりながらも全力で地の文に切れる左京です。


 そんなやり取りをしていたせいで、左京は息が上がってしまい、歩道橋の上まで辿り着いた時、フラフラになっていました。


 情けなさ過ぎだと思う地の文です。


「誰のせいだよ!」


 自分の老化を棚に上げて、地の文に罪をなすり付けようとする最低人間の左京です。


「ああ……」


 歩道橋の欄干にしがみついて下に目を向けると、高校生達が麻耶達に絡んでいるのが見えました。


 はじめは二人の高校生に押えつけられ、引き離されてしまいました。


 残りの三人が麻耶に顔を近づけ、ニヤニヤしています。麻耶は必死に抵抗しています。


「あのヤロウ共!」


 左京は気力を振り絞り、また走り出そうとしました。


「左京さん、瑠里と冴里を頼みますね」


 いつの間にかそばまで来ていた樹里が冴里をベビースリングごと左京に預け、瑠里の手を左京の左手と握らせると、サッと駆け出しました。


「樹里、危ないぞ!」


「大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で応じると、たちまち階段を駆け下り、麻耶達のところに行きました。


「麻耶お嬢様、こんにちは」


 樹里は笑顔全開で麻耶に挨拶しました。麻耶はハッとして樹里を見ました。


「樹里さん!」


 麻耶も樹里が途方もなく強いのは知ってるので、嬉しそうに言いました。


「何だ、姉ちゃん、何の用だよ?」


 樹里に一番近い位置にいた高校生が樹里を見ました。


「はじめ君、今日は麻耶お嬢様とデートですか?」


 樹里は高校生の睨みをなかった事のように無視して、押えつけられているはじめに話しかけました。


「樹里さん!」


 頭を押えつけられているはじめは苦しそうな顔で樹里を見ました。


「樹里って、もしかして……」


 高校生の一人が樹里の正体に気づきました。


 すると他の高校生も樹里を見ました。そして、五人が一斉に樹里に近づきました。


「樹里ー!」


 歩道橋の上から叫ぶ情けなさ過ぎる左京です。


「樹里さん!」


 麻耶とはじめも叫びました。


「やっぱ、御徒町樹里さんだ! 俺、メイド探偵の映画、全部観に行きましたよ! DVDも全部揃えましたよ!」


「俺なんか、ブルーレイも予約しましたよ! それも豪華版の方です!」


「俺なんか、メイド探偵のグッズ、全部ありますよ!」


「樹里さん、こんなところで会えるなんて、感激です!」


「サインしてください!」


 五人は全員樹里の大ファンでした。


 唖然とする左京と麻耶とはじめです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で握手に応じ、サインを制服の裏地にしました。


「ああ、今日は今までの人生で最高の日です!」


 高校生達は涙を流しています。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。


「君達、デート、楽しんでね」


 高校生達は気持ち悪いくらい低姿勢になり、麻耶とはじめに笑顔で会釈すると、樹里に敬礼して去って行きました。


「何なのよ、一体……」


 麻耶は呆気に取られていましたが、我に返り、


「樹里さん、ありがとう!」


「樹里さん、ありがとうございました!」


 はじめと揃って頭を下げました。


「デートの邪魔をしてしまいましたね。楽しんで来てください」


 樹里はようやく追いついた左京に近づきながら言いました。


「樹里さん、この事は父には内緒にしてね」


 麻耶がバツが悪そうに言いました。はじめはまた顔を引きつらせています。


「承知しました」


 樹里は振り返って、笑顔全開で応じました。


 


 めでたし、めでたし。

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