表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/839

樹里ちゃん、心霊スポットにゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、今やバラエティ番組にも引っ張りだこのママ女優でもあります。


「いってらっしゃい、ママ」


 長女の瑠里が笑顔全開で言いました。


「行ってらっしゃい」


 不甲斐ない夫の杉下左京は会心の項垂れを見せて言いました。


「行って来ますね、左京さん、瑠里」


 樹里は笑顔全開で、次女の冴里をベビースリングで抱き、応じました。


「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」


 先日、大東京テレビ放送の移転を知らずに道に迷ってしまう失態を犯し、このお話の降板すら考えたにも関わらず、ヌケヌケと登場した昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「ううう……」


 辛辣過ぎる地の文の指摘にグウの音も出ずに項垂れる眼鏡男達です。


「おはようございます。先日は申し訳ありませんでした」


 樹里が謝罪したので、眼鏡男達は驚愕しました。


「とんでもないです、樹里様。我々が不甲斐ないばかりに護衛もできず、ご迷惑をおかけしました」


 眼鏡男は深々と頭を下げました。隊員達もそれにならいました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「これからも精進致しますので、何卒よろしくお願い致します」


 眼鏡男達は更に土下座をして言いました。


 すると、樹里の反応がありません。


「これはもしや……」


 ハッとして顔を上げると、樹里は冴里に授乳中でした。


 しかも、角度的に樹里のマシュマロがもろ見えです。


「ブブブ……」


 眼鏡男達は揃って鼻血を噴き出し、その場に突っ伏してしまいました。


(こいつら、わざと土下座したんじゃないだろうな?)


 疑い深い左京は、眼鏡男達の計画的犯行だとヘボ推理しました。


 


 そして、いつものように樹里達は何事もなく目的地に到着しました。


 今日は、ブジテレビの特番で、心霊スポット巡りをする事になっています。


 そこは都内でも有名な廃病院です。


「樹里さん、遠い所をありがとうございます。ディレクターの川澄です」


 ロングヘアで白いワンピースを着た女性です。心霊写真並みに怖い容貌をしています。


「よろしくお願いします」


 樹里は冴里をテレビ局の託児所に預けて来ています。


「こちらは、霊能者の鹿苑寺ろくおんじ銀格ぎんかく先生です」


 坊主頭の糸のように細い目の作務衣を来たおじさんです。


「よろしくお願いします」


 銀格先生は不機嫌そうに挨拶しました。


「それから、樹里さんもよくご存じの西園寺さいおんじ伝助でんすけさんです」


 川澄ディレクターが紹介したのは、樹里と相性が抜群のリアクション芸人です。


「相性最悪なんだよ!」


 適当な事を告げた地の文に切れる伝助です。


「お久しぶりです。またご一緒できて嬉しいです」


 樹里が笑顔全開で言い、手を包み込むようにして言ったので、伝助の鼻の下が首の下まで伸びそうです。


「でへへ、こちらこそですう」


 収録が終わったら、食事に誘おうと思うスケベです。


「いいだろ、食事くらい!」


 先回りした地の文に切れる伝助です。


「騒がしいと霊が怒り出しますよ」


 銀格先生が更に不機嫌そうに言ったので、伝助はリアルにビビりました。


「す、すみません」


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。


 このメンバーでは、リポートができないと考えた川澄ディレクターは、アナウンス部の精鋭である重部しげべアナウンサーを呼んであります。


「進行役を務めます、重部です。よろしくお願い致します」


 きっちり七三分けの頭で、針金のように細い手足のアナウンス歴三十年のベテランです。


「それでは、参りましょうか」


 銀格先生はムスッとして廃病院の門扉を押し開きます。


 すでにその全体像にリアルに尻込みしてしまっている伝助は、樹里の後ろに隠れるようにして敷地に入りました。


 その後ろから、重部アナと川澄ディレクター、その他のスタッフが続きました。


「見るからに何かいわくがありそうな建物です」


 重部アナが早速リポートを始めます。


「しっ! あちらの方から霊の気配を感じます」


 銀格先生が厳しい顔つきで病院の建物の一角を指差しました。


 伝助は気絶しそうなくらい怯えており、樹里の服にしがみついて震えています。


「そうなんですか?」


 樹里は笑顔ではなく、不思議そうな顔で応じました。


(樹里さんから笑顔が消えた……。リアルにヤバいのか?)


 伝助は、人伝ひとづてに、樹里が以前霊を祓った事があるのを聞いて知っています。


 だから、いざとなったら、銀格先生より樹里の方が頼りになると思っているのです。


 ところが、事実は全然違っていました。


 樹里は銀格先生のすぐ後ろに患者の霊がいるのが見えているのです。


「大丈夫ですか?」


 樹里が笑顔全開で声をかけると、


『ありがとうございますう……』


 その患者の霊は涙を流して喜び、天へと昇って行きました。


「大丈夫です。私は日本で五本の指が入る霊能者ですよ」


 銀格先生は心の中ではビビっているので、意味不明でややエロい事を口走ってしまいました。


(今の発言、編集でカットしないと)


 見た目とは違って清純派の川澄ディレクターは思いました。


「そうなんですか?」


 樹里はまた首を傾げました。それを見て更に怯える伝助です。


「樹里さん、霊はどこにいるんですか?」


 伝助が小声で訊きました。すると樹里は笑顔全開で、


「皆さんの周りにたくさんいますよ」


 その途端、伝助ばかりではなく、スタッフも銀格先生も一緒に敷地から逃げ出してしまいました。


「大丈夫ですか?」


 樹里は成仏できていないたくさんの患者とミスを苦にして自殺してしまった看護師の霊に尋ねました。


 その途端に慈愛の波動が発せられ、霊達は皆涙を流して感謝しながら、天へと昇っていきました。


「よかったですね」


 樹里は笑顔全開でそれを見送りました。


 


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ