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樹里ちゃん、小旅行にゆく

 御徒町樹里はメイドです。


 今日は有給休暇を利用して、G県のH湖にやって来ました。


 一人旅は初めての樹里ですが、いろいろと楽しい事がありそうです。


「こちらが、G県が誇ります、H山のH湖です」


 バスガイドさんが、解説してくれました。


「随分Hが多いのですね」


 何気ない樹里の一言に、その場の空気が凍りつきます。


「は、はい、では次です。H富士に登ります。ロープウェイを利用しますので、移動になります」


 バスガイドさんは顔を引きつらせて言いました。


 そして、H富士の頂上にロープウェイで登りました。


「こちらは標高千百三十三メートルです。あちらの方角に、天候が良い時は富士山が見えます」


 バスガイドさんの説明に皆さんは「おお」と頷きました。


「今日は生憎(あいにく)天候が悪いので、見えません」


 バスガイドさんが残念そうに言いました。


 確かに遠くの山は霞んでしまって見えません。


「いつだったら見えますか?」


 樹里が尋ねました。バスガイドさんは苦笑いをして、


「それは私にはわかりません」


「では、誰ならわかりますか?」


 樹里が重ねて尋ねました。バスガイドさんは困った顔をして、


「そうですねえ、気象庁の方ならわかるかも知れません」


「そうなんですか」


 樹里はニッコリして言いました。


「でも今日は見えないのですね、てんこうさんのせいで」


「いえ、てんこうさんという人のせいではないです。お天気のせいですね」


 バスガイドさんはイラッとして言いました。


「そうなんですか」


 樹里は全く気づかず、ニコニコして言いました。


「ではそろそろ麓に戻りましょう。次はM沢うどんを食べます」


 喚声が上がります。M沢うどんは、日本三大うどんの一つに数えられる有名なうどんです。


 うどん屋さんに着きました。地元で一番来客が多いと言われててるO沢屋さんです。


「ではこちらで、天ぷらうどん定食をお召し上がり下さい」


 ガイドさんの案内で、樹里達は座敷に通され、そこでうどんを食べました。


「こちらがこのお店の社長さんです」


 ガイドさんが恰幅のいい男性を紹介しました。


「本日はようこそおいで下さいました。当店自慢のうどんをどうぞご堪能下さい」


 社長さんは、皆さんのそばに来て、いろいろと話をしています。


 そして、樹里のところにも来ました。


「どうですか、お嬢さん。おいしいですか?」


 社長がにこやかな顔で尋ねました。すると樹里は笑顔全開で、


「天ぷらがおいしいです」


「そ、そうですか。うどんはどうですか?」


 やや顔が引きつり気味の社長が、もう一度尋ねました。


「この漬け物もおいしいです」


「そ、そうですか」


 社長もイラッとして来ました。でもお客様なので、怒る事はできません。


「う、うどんはどうですかね、お嬢さん?」


 社長は顔をヒクヒクさせて尋ねました。


「私、うどんアレルギーなんです」


 樹里は全開の笑顔で言いました。社長はそのまま気を失ってしまいました。


「そ、そろそろ移動時間ですので、バスにお戻り下さい」


 運ばれて行く社長を見ながら、皆さん移動です。


「では最後に、M沢寺にお参り致しましょう」


 バスガイドさんは何故かもの凄く疲れた様子で言いました。


 樹里達はM沢寺にバスで移動しました。


 ここは、観世音菩薩を本尊とするお寺で、造られたのは平安時代です。


「ここでは自由行動となります」


 樹里はそれを聞いて、境内を散策し始めました。


「一時間後にバスにお戻り下さい」


 バスガイドさんがそう付け加えたのを聞いていませんでした。


 


 そして一時間後。


「お客様の一人が戻っていません」


 バスガイドさんが運転手さんに言いました。


「迷子になるような年の人はいなかったよな」


 運転手さんは首を傾げて不思議そうに言いました。


「ええ。一人、気になる人がいましたが、多分いないのはその人です」


 バスガイドさんは頭痛がして来ました。


 そう、いないのは樹里なのです。


 しばらくガイドさんは辺りを探しました。


 でも樹里は見つからず、会社にその報告をした上で、バスはM沢寺を発ちました。


 樹里はどこへ行ってしまったのでしょう?


「M沢寺で観光客が行方不明になったらしいぞ。さっきラジオのニュースで言ってた」


 警視庁の敏腕警部である杉下左京は事件の捜査でG県に来ていました。


 そして偶然通りかかった道で樹里を見かけ、車に乗せたのです。


「あんなところで行方不明って、どんな奴なんだろうな。顔が見てみたいよ」


「そうなんですか」

 

 樹里はニコニコして言いました。


 左京は実はその見てみたい「観光客」を自分が乗せている事を知りませんでした。


 めでたし、めでたし。


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