表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/839

樹里ちゃん、なぎさとしばらくぶりにお茶する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、今や映画監督まで務めるママ女優でもあります。


「いってらっしゃい、ママ」


 すでに保育所が年末年始の休みの長女の瑠里が言いました。


「行ってらっしゃい」


 仕事がなくて毎日が休みの不甲斐ない夫の日本代表の左京が言いました。


「うるせえ! それに日本代表じゃねえし!」


 ありのままを表現した地の文に理不尽に切れる左京です。後半は謙遜のようです。


「謙遜じゃねえよ!」


 荒くれ者のように地の文に切れる左京です。地の文は精神的なショックを受けました。


「俺の方がよっぽど受けてるよ!」


 すぐに俺が俺がとなる出たがりの左京です。


「違う!」


 いつもより多めに参加できた左京は嬉しそうに切れました。


「……」


 地の文の執拗な嫌がらせに精魂尽き果てた左京です。


「行って来ますね、左京さん、瑠里」


 それでも、樹里は笑顔全開で応じました。ベビースリングで抱かれている次女の冴里も笑顔全開です。


「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」


 そこへ、いつものように役に立たない昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。


「本当に役に立っていないとお思いでしたら、全課程を描写してください」


 眼鏡男は詳細な検証を要求しました。地の文は承諾しました。


「はっ!」


 眼鏡男が我に返ると、すでに樹里達は他の親衛隊員達とJR水道橋駅に向かっていました。


「では、よろしくお願いしますよ!」


 眼鏡男は地の文に検証を念押しして樹里達を追いかけました。


 


 そして、いつも通り、何事もなく樹里は五反田邸に到着しました。


「ううう……」


 途中経過を全部割愛した地の文の仕打ちに項垂れる眼鏡男です。


「それでは樹里様、お帰りの時にまた……」


 それでも何とか気を取り直し、敬礼して樹里に告げると、既に樹里はもう一人のメイドの目黒弥生と共に邸に向かっており、他の親衛隊員達も立ち去っていました。


「○○○○○!」


 ある芸人の台詞を丸パクリして叫んだ眼鏡男です。


 地の文は自主規制しました。


 何と言ったのかは永遠に謎にする地の文です。


 


 樹里はロビーに入ったところで、


「お友達の松下なぎささんがおいでです」


 苦笑いした弥生が告げました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 そして、樹里は冴里に授乳をすませ、育児室のベッドに寝かしつけると、メイド服に着替え、応接間に行きました。


「やっほー、樹里」


 ソファに座っていたなぎさが立ち上がって言いました。今日は一人のようです。


 よくここまで無事に来られたと感動してしまった地の文です。


「おはようございます、なぎささん」


 樹里は深々とお辞儀をしました。なぎさはソファに座り直して、


「今日はさ、樹里とお茶がしたくて来たの」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。そして、淹れて来た紅茶をテーブルに置きました。


「美味しそうなコーヒーだね」


 なぎさはカップを手に取って匂いを嗅いで言いました。


「なぎささん、それは紅茶です」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「へえ、そうなんだ。わからなかったよ」


 なぎさは全然気にしていないようです。そして、一気に飲み干しました。


「ホントだ、飲んでみてわかったよ。確かにこれは紅茶だね。でもさ、樹里、ホントは私、オレンジジュースが飲みたかったんだよね」


 いきなりフルスロットルで暴走を開始するなぎさです。


「お茶がしたくて来た」


 そう言ったのをもう忘れたのでしょうか?


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じ、応接間を出ました。


(相変わらず、関わりたくない人だな)


 廊下の陰でこっそり話を聞いていた弥生は思いました。


「あ、キャビーさん、久しぶり!」


 いきなり背後になぎさが現れたので、口から頭骨が離脱しそうになった弥生です。


「いえいえ、先程出迎えたではないですか。それに私は目黒弥生です。キャビーというのは、先日演じた泥棒の名前ですよね?」


 顔を引きつらせて、何とか訂正する弥生です。


「あれ? そうだっけ? まあ、いいや。じゃあね」


 ケラケラ笑いながら、応接間に戻るなぎさです。


 弥生は唖然としてしまいました。


「どうしたんですか、キャビーさん?」


 背後からいきなり樹里にも斬りかかられたので、弥生は思わず前転をしてしまいました。


 でも、警備員の皆さんがいなかったので、パンツは覗かれませんでした。


「そんなところで我々をおとしめるような発言はやめてください!」


 どこかで聞いていた警備員さん達が地の文に抗議しました。


「樹里さん、私は目黒弥生です! キャビーは、先日の映画で演じた役ですよ!」


 弥生は涙ぐんで言いました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


(ああ、早くお休みに入りたい! どうして、この年の瀬に、樹里ちゃんとなぎささんのダブル天然攻撃を受けなきゃいけないのよ!)


 心の中で叫ぶ弥生です。


 それは貴女の普段のおこないが悪いからだと思う地の文です。


「誰に言われても我慢するけど、あんただけには言われたくないわ!」


 正当な主張をした地の文に八つ当たりする弥生です。


「そうなんですか」


 やはり、それでも笑顔全開の樹里です。

 

 


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ