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樹里ちゃん、上から目線作家に懇願される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドで、日本屈指のママ女優でもあります。


「行って来ますね、左京さん、瑠里」


 いつものように樹里は笑顔全開で言いました。


「行ってらっしゃい」


 いつものように不甲斐なさ全開の夫の杉下左京です。そして、出番終了です。


「いってらっしゃい、ママ」


 長女の瑠里は笑顔全開です。樹里にベビースリングで抱かれている次女の冴里も笑顔全開です。


 今日は特別な用事はない樹里は、普段通り、五反田邸に向かいます。


「樹里様と瑠里様と冴里様にはご機嫌麗しく」


 昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。


 選挙が近いのにこんな事をしていて大丈夫なのでしょうか?


「自分達は政治には興味はありません」


 眼鏡男は気取って地の文に反論しました。


 実は選挙権がないのは秘密なのです。


「選挙権はあります!」


 まるで某研究員のような涙目で地の文に切れる眼鏡男です。


 そして、ハッとなりました。


 振り返ると、大方の予想通り、樹里達はJR水道橋駅へ向かっており、左京と瑠里は保育所に向かっていました。


(保育所の変態男共は登場する余地がなかったようだな)


 樹里の放置プレーを堪能しながら、ゆっくりと歩き出す眼鏡男ですが、次の瞬間、衝撃の光景を目の当たりにしました。


「樹里さん、冴里ちゃんも是非、我が保育所にお預けください」


 保育所の男性職員の皆さんが樹里に営業をかけていたのでした。


「そうなんですか」


 しかも、樹里は笑顔全開で応じ、パンフレットを受け取っています。


 驚天動地の眼鏡男は、あまりのショックに動けなくなってしまいました。


(ああ、これがまた至高の快感……)


 マシンガンをぶっ放すより気持ちがいいと思う眼鏡男です。


 すでに危険な領域に突入したと思う地の文です。


 


 そして、いつも通り、何事もなく樹里は五反田邸に到着しました。


「では樹里様、お帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼をして立ち去りました。


「樹里さーん!」


 そこへ久しぶりにエロメイドが現れました。


「おはようございます」


 樹里は笑顔全開で挨拶しました。


「おはようございます。大村先生がお見えです」


 エロメイドは苦笑いをして告げました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 目黒弥生の完全無視にノックダウン寸前の地の文です。


 


 樹里は冴里に授乳して、育児室のベビーベッドに寝かせると、素早くメイド服に着替えてキッチンに行き、紅茶を淹れて、応接間に向かいました。


「いらっしゃいませ、大村様」


 樹里は深々とお辞儀をしました。


「御機嫌よう、樹里さん」


 上から目線作家の大村美紗はいつも通りにソファにふんぞり返って応じました。


「本日はアッサムを淹れました。ミルクを入れてお召し上がりください」


 樹里はテーブルにティーポットとミルクピッチャーと温めたソーサーとカップを置きました。


「わかっているわよ、それくらい。私を誰だと思っているの?」


 美紗はややり返りを戻して言いました。


 上から目線の無知な粉吹きおばさんですよね?


(また幻聴が聞こえたわ! でも、えるのよ!)


 いつものガッツポーズで地の文のボケに反応するのを我慢する美紗です。


「申し訳ありません」


 美紗の奇行を完全スルーし、樹里はまた深々と頭を下げました。


「わかればいいのよ」


 美紗は悪魔的な笑みを浮かべ、ポットからカップに紅茶を注ぎました。


「いい香りね」


 上機嫌で呟く美紗です。その顔が怖いと思う地の文です。


(また幻聴が聞こえた気がするけど、違うのよ! 聞こえていないの!)


 またしても、地の文のボケに堪えてしまった美紗です。面白くない地の文です。


 そして、ミルクピッチャーから常温の牛乳を注ぎました。


「あ……」


 樹里が思わず声を出してしまいました。


「え?」


 ギクッとする美紗です。


(何か、間違えたかしら?)


 間違えてはいませんが、牛乳を入れ過ぎたようです。年寄りには加減が難しかったと思う地の文です。


「誰よ!? さっきから私の悪口をコソコソと!」


 遂に切れてしまった美紗です。猛然と立ち上がりました。


 地の文はしてやったりの顔になりました。


「聞こえたでしょう、樹里さん!? 誰かが私の悪口を言ったわよね!?」


 興奮気味に目を血走らせ、樹里に尋ねる美紗です。


「いえ、何も聞こえません」


 樹里は笑顔全開で応じました。美紗は樹里の反応に我に返り、


「そ、そうよね。気のせいよね」


 苦笑いをしてソファに戻りました。


(幻聴に反応すると、幻聴の思う壷なのよ)


 美紗は心の中で自分に言い聞かせました。たまには勘が冴える美紗です。


 そして、ぬるくなってしまった紅茶を一口飲むと、


「実はね、樹里さんにお願いがあって来たのよ」


 また反り返って告げました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。美紗は辺りを窺うように見渡し、


「なぎさがまた賞を取ったでしょ?」


「はい。おめでとうございます」


 樹里が笑顔全開で言うと、美紗はムッとして、


「それで、あの子のところにまた映画製作の話が来ているらしいの」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。美紗は更に辺りを窺うようにして、


「もし、あの子が貴女に映画出演を持ちかけても、承諾しないで欲しいの」


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開です。美紗はわざとらしく悲しそうな顔をして、


「あの子には、映画業界の厳しさを知って欲しいから、苦労を味わってもらいたいの。私の言っている事、わかるでしょ?」


「はい」


 樹里は笑顔で応じました。美紗はホッとした顔になり、


「よかったわ。では、よろしくお願いね」


 美紗はそう言うと立ち上がり、応接間を出て行ってしまいました。


「お気をつけて」


 樹里は玄関で弥生と共に美紗を見送りました。お辞儀をしながら舌を出した弥生です。


 早速、美紗に言いつけようと思う地の文です。


「さあ、掃除を始めましょうか、樹里さん」


 更に完全無視の弥生の対応に涙が止まらない地の文です。


 その時、樹里の携帯が鳴りました。


「あ、なぎささん。おはようございます」


 樹里は通話を開始しました。相手は松下なぎさのようです。


「やっほー、樹里。お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」


「はい、いいですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「実はさ、今度、私の小説が映画になるの。それで、樹里にその映画の監督をしてほしいんだけど」


「いいですよ」


 樹里はあっさり承諾しました。


 美紗には出演は止められましたが、監督になる事は止められなかったからです。


 はてさて、どうなりますか。

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